下北沢通信

中西理の下北沢通信

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映画「幕が上がる」@WOWOWを観劇し杏果卒業を想う

映画「幕が上がる」@WOWOWを観劇し杏果卒業を想う

 「幕が上がる」は映画自体は平田オリザの原作小説を基にしながらもももクロのファンにとっては過去にももクロに起こった様々な出来事を想起するように作られている(特に早見あかり脱退のエピソードとの関連性)。

ももクロ夏菜子と杏果の名シーンについて【幕が上がる】

 それゆえに(それなのに)この映画を今見るとこの映画の時には予想もしていなかった有安杏果の卒業との偶然の符合をそこここで感じてしまい、本当にせつなくなった。そして、それ以上にこの映画があり、この時の杏果と4人がまるでタイムカプセルのようにいまもスクリーンの向こうで輝いていてくれることに感謝したい思いでいっぱいだ。

 教師をやめて役者への道を選んだ吉岡先生はまるでももクロを卒業することを皆につげ、疾風のように去っていった杏果のようだと思った。この映画のなかで杏果は中西さんを演じていて、それは女優として素晴らしい出来栄えだと今でも思うのだけれど、手紙だけを残して皆の前から消え去ってしまった吉岡先生こそが杏果だ。残された高橋さおりら演劇部のメンバーは名状できないようないろんな思いを呑み込みながら大会に臨むのだけれど、それこそが10周年記念ライブに臨む今の4人の姿ではないか。今はこの映画はどうしてもそんな風に見えてしまう。
 ただ、有安杏果という人はいつも自分のことを過小評価しがちな人だからあえていいたいのだが、「幕が上がる」での女優、有安杏果は本当に素晴らしかった。杏果は中西悦子(中西さん)という役を演じていたのだが、私はスクリーンの中の中西さんにひと目見た瞬間に恋に落ちた。とはいえ、それは杏果が演じた人物ではあったが杏果とはまったく違う人間だった。ももクロの他のメンバーもそれぞれ魅力的に役を演じたが、こういうことが出来たのは杏果だけだった。そういうことのできる女優はそんなに多くはない。だから、この映画を見て女優「有安杏果」の活躍に大きな期待をしていたのだ。

 上に引用した駅舎の場面はこの「幕が上がる」を象徴するような場面だが、ここには2人の才能豊かな若手女優の瞬間のキラメキを見てとることができるだろう。
 百田夏菜子有安杏果夏菜子がゆっくりとではあるが、朝ドラ、声優と女優への道を歩き始めているだけに杏果がそれをやめてしまったのは本当に惜しいと思う。
 杏果が今後どんな生き方を目指すにせよ、日本を代表する女優事務所を自らやめてしまったことで、女優という選択肢はきわめて厳しくなった。そのことが残念でならない。
数年後、青年団が豊岡に移転して、東京ではあまり話題にならなくなってしまった後の欧州ツアーのキャストのなかに中西悦子という耳馴れぬ女優の名前があり、あれそんな子青年団にいたっけ、どこかで聞いた記憶があるんだけど、地元で採用した新人かな……なんていう妄想を抱いたりもするのだが、可能性は限りなく低いだろう(笑)。