下北沢通信

中西理の下北沢通信

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「スチームボーイ」@大友克洋監督

 スチームボーイ」(大友克洋監督)を見る。
 見ようと思っていた映画が次々と終わってしまい、「CASSHERN」も「ベジャール、バレエ、リュミエール」も「ロスト・イン・トランスレーション」もすべて見逃してしまった。このままじゃいかんと思ってとりあえず大友克洋のひさびさの新作である「スチームボーイ」を見てきた。そんなに悪い映画ではないし、とりあえずちょっと夜郎自大のぎみのあった「イノセント」なんかに比べると映画としても面白かったのだけれども、大傑作「AKIRA」があるから、点数が辛くなってしまう。パンフによれば制作費が大きくなったので一般の人にも分かるものをと「AKIRA」よりも単純な冒険活劇風のテイストを強くしたということらしいのだけれど、少なくとも私が見に行った映画館ではほとんど子供の姿を見なかったぞ(笑い)。大友はジブリとは違って所詮カルトなんだからもっとカルトに徹したほうがよかったのじゃないのだろうか。そのせいで、物語の設定といい登場人物の性格ずけといいむちゃくちゃステレオタイプになってしまっているような気がしたのだが……。19世紀のイングランドの街並みなどに代表される映像のクオリティーの高さと兵器などガジェットの造形の面白さはさすがだし、スチーム城が姿を現してからのノンストップの展開にはさすが大友を感じさせるものがあるのだけれど、如何せん、世紀の大発明スチームボールを巡り、アメリカの大企業と大英帝国がそれを取りあって戦争を繰り広げるという物語の設定に深みが感じられないのだ。
 もっとも、大抵の最近のハリウッドの大作も似たような設定のものだし、「ロード・オブ・ザ・キング」なんてまさに指輪を巡って2大勢力が争うという物語だったし、いくつも勢力が入り乱れて宝物を奪いあう話っていうのは「マルタの鷹」を持ち出すまでもなく、冒険活劇の王道ともいえる。それで大友を責めるっていうのは贔屓の引き倒しに近いものがあるかもしれない。
 これは大友があえてハリウッド流の娯楽大作を意識して確信犯としてとった戦略なのかもと考えればうなずけるところもないではない。というより、登場人物の名前からしたらハリウッドのパロディが狙いなのかも。なんといっても、ヒロインの名前がスカーレット・オハラ、悪役の名前がアルフレッド(フレディ)とジェイソンなんだから(笑い)。
 スチームボール=大量破壊兵器って考えればそれに覇権を争う2大勢力米英がからんでくるって話は昨今の世相を反映したようにも思えないこともないのだけれど、そうだと考えると設定がいいかげんすぎる(笑い)。要するにこの人は最終的には人間の力を超えたような圧倒的な力による破壊を映像として見せたかっただけなんじゃないかとさえ思えてくる。パワーポリティック的なリアリズムも理念としての正義もどうでもいいのである。どうも、最後のタイトルロールの背後に流れていた絵からするとこの後には続きがあるみたいなのだけれど、ロンドンをあれだけひどく破壊してしまっているんだから、レイの父親など未来はショッカーのような悪の組織に入ることぐらいしかないじゃないか(笑い)。