下北沢通信

トヨタコレオグラフィーアワード2010@世田谷パブリックシアター

 舞台監督:原口佳子 照明:関口裕二(balance,inc DESIGN)
 音響:牛川紀政 映像記録:水内宏之(リムーブイメージ)
 宣伝美術:太田博久(golzopocci) 制作協力:ハイウッド
 主催:TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 実行委員会、トヨタ自動車株式会社
 提携:財団法人せたがや文化財団、世田谷パブリックシアター
 運営:トヨタコレオグラフィーアワード事務局
 http://www.toyota.co.jp/jp/social_contribution/culture/tca/index.html
 後援:世田谷区

 審査委員
 今尾博之(いわき芸術文化交流館アリオス プロデューサー)
 小倉由佳子(舞台制作/アイホール ディレクター)
 小野晋司(青山劇場・青山円形劇場 プロデューサー)
 楫屋一之(世田谷パブリックシアター 劇場部長)
 唐津絵理(愛知芸術文化センター 主任学芸員
 近藤恭代(金沢21世紀美術館 チーフプログラムコーディネーター)
 藤田直義(高知県立美術館 館長)

 ゲスト審査委員
 白井晃(演出家・俳優)、束芋現代美術家)、原田敬子(作曲家)、
 古川日出男(作家)

 1.石川勇太振付「Dust Park」20分
 照明:高田正義 音響:大園康司 音楽:音楽コラージュ 美術:杉山至
 2010年7月19日世田谷パブリックシアター(東京)初演
 出演:浦水亜矢子 竹内梓 石川勇太

 2.ストウミキコ・外山晴菜振付「オレノグラフィー」20分
 照明:奥田賢太 音響:萩田勝巳 音楽編集:角張正雄
 2010年7月19日 世田谷パブリックシアター(東京)初演
 出演:afterimage(いかすがい・服部哲郎・堀江善弘・龍)、上田勇介、釈迦、
 高田和功、ストウミキコ、外山晴菜

 休憩21分

 3.神村恵振付「配置と森」20分
 美術:出田郷 音楽:大谷能生 照明:富山貴之 音響:狩生健志
 2008年12月20日 STスポット(横浜)初演
 出演:トチアキタイヨウ、捩子ぴじん、福留麻里、山懸太一、神村恵

 4.古家優里「キャッチ マイ ビーム」20分
 照明:下田めぐみ 音響;平井隆史 音楽:武田直之 衣裳:坂本千代
 2010年7月19日世田谷パブリックシアター(東京)
 出演:加藤末来、境真理恵、辻慈子、西田沙耶香、長谷川風立子、古家優里、
 松岡綾葉、三浦舞子、三輸亜希子

 休憩21分

 5.田畑真希振付「ドラマチック、の回」19分
 照明デザイン:丸山武彦 照明オペレート:古矢涼子 音響:原嶋紘平 鯨井拓実
 音楽編集:佐々木崇仁 衣裳:臼井梨恵 制作:レイヨンヴェール
 2008年7月9日 Studio GOO(東京)初演
 出演:尾形直子、田村嘉章、王下貴司、松本雌介、田畑真希

 6.キミホ ハルバート振付「White fields」19分
 照明プラン:足立恒 照明オベレート:森島都絵
 音楽 Akira Kosemura、J. S. Bachほか 音響:富田聡 美術:富麻ユキコ
 衣裳:萩野緑 舞台監督:掘尾由紀 リハーサルアシスタント:音室亜三弓
 協力:岡崎弓佳 制作:平岡久美
 2009年1月30日 青山円形劇場[東京]初演
 出漬:穴井豪、石橋和也 キミホハルバート、作間草、芝崎健太、平原慎太郎、
 森田真希

審査・観客投票の結果、各賞は以上のように決定
[次代を担う振付家賞]古家優里(ふるいえ ゆうり)
[オーディエンス賞] キミホ ハルバート

 トヨタコレオグラフィーアワードは今回で7回目。この賞の最終選考会は2002年のスタート時から毎回欠かすことなく見てきた。以前の毎年開催が現在は隔年での開催となっているが、毎回だれが選ばれるのかという興味に加えて、その時その時に注目の的となる候補が現れ、それがその時代のコンテンポラリーダンスの流れを俯瞰するうえでの指標となる。そして、賞そのものだけではなく、賞が決まった直後に周辺のダンス関係者がどんな言動をするか。それを現地で目撃するのも私にとっては賞そのものと同様に、場合によってはそれ以上に刺激的なことで、その意味でこの賞を「定点観測」することはこれまでも、そして今も重要なことだと考えている。
 以上のことを念頭に置いて、振り返ってみた時、今年のトヨタは「神村恵が落選したトヨタアワード」と位置付けられるのではないかと思う。
 もちろん、一部の関係者のようにそのことを批判しようとするのではない。私の思うところこの賞にはこの賞特有の選択基準・評価基準があると考えている*1。その基準ゆえに黒田育世白井剛、東野祥子、鈴木ユキオらはこの賞の受賞者となり、それに劣らぬ才能はありながらも岡田利規矢内原美邦、伊藤千枝らはならなかった。誤解がないように言うがそれは後者が前者より劣るというのではなく、あくまでこの賞が継続的に評価してきた基準に後者の作家らが当てはまらなかったということなのだ。
 そして(私が考える)その基準に従えばどう考えても、神村恵に代表されるような方向性のコンセプチャルな作品がこの賞を取るとことはありえないはずだった。だが、今回のアワードにはいくつかの特殊事情*2もあり、どういう結果になるのかということに注目していたのだが、結果は「トヨタは揺るがず」ということだった。そして、そういうトヨタコレオグラフィーアワードの選択基準は特に東京の一部批評家・関係者らの批判を浴びながらも、その受賞作家らが国内のみでなく、海外での活動も含め、受賞にふさわしい活動実績を残してきたことで確実にこの分野におけるこの賞の位置づけを高めてきたと考えている。私は個人的にはこれまでのこの賞の選択基準(細かい具体的な受賞者には若干の異論があっても、その方向性自体は間違っていないという意味で)を支持したいと考えており、古家優里の受賞には若干の驚きはあったものの、トヨタがこれまで通りの選択基準を維持し続けたことには納得の結果であった。
 それではそれぞれの作品の具体的な印象を語ることにしたい。まず、総評から言えば、先に述べた神村の存在はとりあえず置いておくとして「全体として小粒だな」というのが今回の第一印象であった。最近のトヨタの例をとるとその独特の動きで圧倒的な印象を残した東野祥子やこれも群舞の完成度が有無をいわせぬものがあった黒田育世ら突出した個性を感じさせた受賞作品がいくつかあるのだが、今回は残念ながらその水準に近いものはひとつもないというのが正直な感想だった。このジャンル自体の昨今の停滞など理由はいくつもあるが、最大の理由は今回のアワードには本来ここにいるべき実力を備えた過去のファイナリストのほとんどが作品を応募しておらず、それゆえ残念ながら、ここで作品を見ることができないことだ。
今回のトヨタのもうひとつの特徴は先ほど挙げたことと裏腹の関係になるがファイナリスト6人がいずれも初出場であるということ。もっとも古家優里、ストウミキコ・外山晴菜振、神村恵は前回セカンドステージには進出しており、キミホ・ハルバート、田畑真希も過去にその作品を見たことはあったが、今回初めて見たのが石川勇太だった。
 「Dust Park」は明転して舞台が始まると楕円のようなコースをとりながら女性が走り続けている。もう1人の女性は舞台後方に立ち、それを見ている。男も立っているが、なぜかその背中に観葉植物(のようなもの)を背負っている。1人が倒れると倒れた者の周囲に犯罪現場で被害者が倒れていた場所をマーキングするように、白いテープが張られていく。舞台後方に立っていた男も巻き込まれるようにほかのダンサーの手で舞台中央に連れてこられ、倒され、同様にマークをされてしまう。倒れた男性はどこかサンゴ礁に囲まれた南の島のようにも見える……。
 こういう風に記述してもあまり作品の雰囲気が伝わらないのがもどかしいが、これはダンスの動きを見せていくというものではなく、走る、倒れるなど日常の延長線上にあるような何の変哲もないような動きのなかからパフォーマー同士の関係性をある時は抽象的にあるときはメタフォリックに見せていくような作品。もともと、金森穣のカンパニーにしばらくいた後で現在は欧州にわたって活動しているという経歴のせいもあるが、私の目には欧州流の「ノンダンス」の延長線にあるような系譜のダンスと見える。ダンスを作るセンス自体はそれなりのものがあるとは思うものの、ここからは「この人ならではの強烈な個性」のようなものはまだ薄い。
 次のストウミキコ・外山晴菜は「キリコラージュ」という名前のユニットで活動をしているらしい女性2人組。こちらは男性のパフォーマーが大勢登場して、フォーメーショナルな動きをコミカルな味も含ませながら展開していくのだが、男性パフォーマーの多くはダンスの技術を持つダンサーというよりは俳優的な人たちと思われた。つまり、最近よくある演劇なのかダンスなのかがあいまいなものの一種であり、それゆえダンスとして考えるとあまりにも動きの精度が低い。今後の可能性の萌芽のようなものはないではないが、このアワードの対象となるほどに完成された表現とはいえないと感じた。
 休憩があってこの後が問題の神村恵である。「配置と森」という作品は2008年の初演も見ているが、これまではそれほど面白いと思ったことがなかった。それだけではなく、タスク系というか、ミニマル系というか、神村恵の作品どちらかというと単純に思える動きの繰り返しに終始するように思えることもあって、これまであまり面白いと思えることがなくて、私にとっては退屈きわまりないことも多かった。ところがトチアキタイヨウ、捩子ぴじん、福留麻里、山懸太一と個性的で優れたパフォーマーを集めたせいかこの日見た「配置と森」はこれまで見た神村作品のなかでは群を抜いて面白かったのである。以前からいわゆるタスク系の作品が面白くなりうる条件として、面白い人がでていることということがあるのではないかと思っている。あるいはもうひとつは学芸会を見に行った親と同じ、つまり知り合いがでていることだ。(続く)

トヨタコレオグラフィーアワード2008 鈴木ユキオ(金魚)
1日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20080628
2日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20080629
トヨタコレオグラフィーアワード2006 白井剛(発条ト)
1日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060729
2日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060730
3日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060731
トヨタコレオグラフィーアワード2005 隅地茉歩(ダンスユニット・セレノグラフィカ)
1日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20050709
2日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20050710
3日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20050711
トヨタコレオグラフィーアワード2004 東野祥子(BABY-Q
1日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20040703
2日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20040704
3日目http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20040705
トヨタコレオグラフィーアワード2003 黒田育世(BATIK)
トヨタコレオグラフィーアワード2002 寺田みさこ+砂連尾理

*1:詳しいことはhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20080628なども参照のこと

*2:これまで入っていた外国人審査委員を今回はメンバーに加えず、日本人のみとしたこと。さらにダンス業界内部以外からゲスト審査員を迎えたこと