下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

2019年ダンスベストアクト(年間回顧)

2019年ダンスベストアクト(年間回顧)

 2019年ダンスベストアクト*1*2*3 *4 *5 *6 *7 *8を掲載することにした。皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。

2019年ダンスベストアクト
1,きたまり(KIKIKIKIKIKI)「復活」@京都・THEATER E9
2,「RE/PLAY Dance Edit 東京公演」(多田淳之介演出)@吉祥寺シアター
3,lal banshees(横山彰乃)「本当は知らない ソロトリオ二部作」@こまばアゴラ劇場

4,関かおりPUNCTUMUN 「みどうつなみだ」「ひうぉむぐ」ムーブ町屋*9
5,Aokidダンス公演「地球自由!」@横浜STSPOT
6,佐藤利穂子 「アップデイトダンス『泉』」荻窪アパラタス
7,勅使川原三郎「ロストインダンス」荻窪アパラタス
8,オフィスマウンテン(山縣太一ソロ)「海底で履く靴には紐がない ダブバージョン」こまばアゴラ劇場
9,Co.Ruri Mito「MeMe」*10三鷹市芸術文化センター
10,「課題曲と自由曲」三鷹・SCOOL

関西のみで行われた舞台も多く、東京のダンスファンにとっては全貌をうかがい知ることが難しかったかもしれないが、2019年のダンス界はきたまり(KIKIKIKIKIKI)の年だと言っても過言ではなかったかもしれない。

f:id:simokitazawa:20200110143848p:plain
KIKIKIKIKIKI「復活」
 きたまりはマーラー交響曲の1曲まるごとの音楽を使用し、その全曲をダンス作品にするという壮大なプロジェクトを進めてきた。これまで2016〜17年に交響曲第1番「TITAN」、第7番「夜の歌」、第6番「悲劇的」を2017年夏に閉館したアトリエ劇研にて上演してきたが劇場閉鎖に伴い中断。今回、後継施設となるTHEATER E9のオープンに際して、新作を上演することになった。この作品の目玉は京都造形芸術大学時代のきたまりの指導教官でもあった山田せつ子を客演に招き、冒頭でたっぷり一楽章分のソロダンス(きたまり振付・演出)を踊らせたことであった。全編の首都圏での上演が待たれるが、せめて山田のソロ部分だけでも東京での上演が望まれる。
 きたまりの活動が他のダンス作家と大きく違っているのはダンスの世界にとどまらず、これまでにつちかってきた人脈を生かし、演劇系の作家との共同制作で成果を上げている。19年はその中の2つのプロジェクトが集大成といえる公演を迎えた。ひとつが演劇ベストアクトに選んだ木ノ下歌舞伎「娘道成寺」で、これは木ノ下裕一がプロデュースし、繰り返し上演されてきたものだ。
 もうひとつが多田淳之介演出による「RE/PLAY Dance Edit」でこちらではきたまりはプロデューサーとダンサーを務めているが、これまで京都、横浜など日本国内だけでなくアジア数か国での公演をして高い評価を受けてきており、今回の東京公演はアジアの各国での公演で参加したダンサーが出演する集大成的なバージョンといえる。
f:id:simokitazawa:20200108152140j:plain
RE/PLAY Dance Edit
 lal banshees(ら ばんしーず)は東京ELECTROCK STAIRSのメンバーとしても活動している横山彰乃が主宰しているダンスカンパニー。横山は旗揚げ作品だった 『ペッピライカの雪がすみ』*11トヨタコレオグラフィーアワードのファイナリストにノミネートされるなど振付家としても高い評価を受けている。私自身も昨年上演された「ムーンライトプール」*12を2018年ダンスベストアクト2位*13に選んだ。
 黒い壁に貼り付けられた透明なペットボトルが照明を乱反射してみせる水底感、周到に計算された緻密な照明プラン、練られて選択された音楽、可愛らしさのなかにどこか不安感も醸し出させる衣装。こうした諸要素がダンサーの生み出す動き(ダンス)と高度なレベルで組み合わさることで、こまばアゴラ劇場という劇場の持つ空気感をうまく利用して、横山ならではの個性的な世界観を提示している。
 これまでの公演でも書いた「物語性は特にないが、単に音楽に合わせて群舞で踊るというようなありがちなものではなくて暗い森の中で何かよく分からない生き物たちが蠢いている」という特徴は今回もそのまま受け継がれているが、今回は2本立ての後半パートが横山自身が踊るソロ作品として設定されていたことで、ダンスの動きをより集中して堪能できるようになっていた。
ダンスは集団として振付家の開発した特定のムーブメントや身体メソッドを共有することが重要であるが、そうした意味での成果を見せたのが関かおり三東瑠璃だっただろう。ともに個人個人のダンサーの動きではなく、いわばオブジェ的に集団のかたまりとしての動きを見せていくという意味では共通点があるのだが、三東瑠璃の作品が「ダンサーそれぞれの動きが組み合わせられることで、全体としてのオブジェ的な造形がグネグネと動き回る体を見せていく」というもので、ほとんどダンサー個々の動きを見分けることができず、群れ的な集団の動きが強調されるのに対し、関かおりの作品は群舞としての全体的なイメージ以上に個々のダンサーそれぞれの輪郭がはっきりしていて、個性の違いが浮き彫りになっていた。とはいえ、この二人はその立ち位置からしてライバル的な存在には違いないだろう。
 若手ではAokidの活躍も目立った。全体としては作品よりもオブザーバーメンバー的に参加していた「これは演劇ではない」の企画イベントなどの活動自体が作品であるというようなありかたが刺激的ではあるのだが、劇場作品として制作した「地球自由!」はとてもいい作品であった。
 ダンサーとしては日本屈指の存在である佐藤利穂子(KARAS)の振付家デビュー作品「アップデイトダンス『泉』」にも注目したい。佐藤はこの作品発表直後にいきなり海外での作品制作も行っており、今後は(特に海外では)日本を代表する振付家のひとりとして扱われるかもしれない。振付的にも師匠の勅使川原三郎はほとんど入れないようなグラウンドポジションでのダンスもはいっており、独自性も感じられた上々のデビュー作品であった。
 勅使川原三郎も相変わらず年齢を感じさせない活動ぶりで、中でも「ロストインダンス」はよかった。