下北沢通信

中西理の下北沢通信

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2020年ダンスベストアクト(年間回顧)

2020年ダンスベストアクト(年間回顧)

 2020年ダンスベストアクト*1*2*3 *4 *5 *6 *7 *8を掲載する。皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメント欄にコメントなどを書いていただけると嬉しい。マイ「ダンスベストアクト」も大歓迎。

2020年ダンスベストアクト
1,岩渕貞太 身体地図「 Gold Experience」吉祥寺シアター*9
2,MWMW(モウィモウィ)(高橋萌登構成・振付・演出)吉祥寺シアター*10
3,KARAS(勅使川原三郎振付「アップデイトダンス」シリーズ)「ピアニスト」「オフィーリア」など荻窪アパラタス

4,森瑶子「ERROR」東池袋あうるすぽっと

5,横山彰乃「水溶媒音!」横浜赤レンガ倉庫
6,Co.Ruri Mito「where we were born」@シアタートラム(配信)
7,康本雅子「全自動煩悩ずいずい図」@シアタートラム
8,中屋敷南Future Fighter「恋の贅沢病」東池袋あうるすぽっと
9,北尾亘(BaoBabカンパニー)「UME」東池袋あうるすぽっと
10,吉沢楓「歯みがき」東池袋あうるすぽっと

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岩渕貞太 身体地図「 Gold Experience」(写真上、撮影・前澤秀登)は岩渕自身を含め4人のダンサー全員が素晴らしかった。長期間に渡って共有されたやり方に従い全員が踊るため、振り自体はまったく違うそれぞれのダンサーの動きのどの部分を切りとってもこの集団の動きとなっている。岩渕貞太自身は室伏鴻の作品で踊り、海外ツアーした経験もあるので、広い意味では舞踏出身と言えなくはないのだが、岩渕自らのソロ作品はともかく、 [岩渕貞太 身体地図] の動きや身体のあり方には舞踏的なメソッドだけには還元できないものを感じた。
「Gold Experience」が面白いのはその動きの連鎖が通常の振付のように振りの形を受け渡すというのではなく、ダンサーそれぞれの内的感覚の中から次々と新たな生み出されてきているように見えることだ。
今回参加している3人の女性ダンサー( 入手杏奈、北川 結、涌田 悠)のうち入手と北川については他の振付家の振付作品や自分自身の振付によるダンスも何度か見ているが、それぞれの個性は残しながらもダンサーとしては変容を見せて、これまでの作品で見たのとは全く違う「身体地図」ならでは動きになっている。それでいて、個別にひとりづつを見比べていくと動きやその組み立て方にはそれぞれに違いがあり、ある種の舞踏カンパニーのようにメソッド的な鋳型にはめることでそれを同一化しようとはしていない。
例えば冒頭近くの女性3人による群舞が典型だ。最初全員でエジプト絵画の人物みたいな平面的な姿勢で静止していて、その時には全員がほぼ似たような形から始まるが、その後の動きの連鎖は個人個人で異なる。ひとりひとりを見ていると明らかに個性の違いがはっきりと出ていて、群舞が踊られているというよりは同時並行的に3つのソロが踊られているようにも思える。しかし、それは全然バラバラというわけではなく、ある種の調和、統一感もしっかりと保持されているのだ。 
 KENTARO!!が率いる東京ELECTROCK STAIRSはその参加ダンサーからともに横浜ダンスコレクショングランプリ受賞のAokid、横山彰乃ら新進気鋭のダンス作家を輩出してきたが、高橋萌もそのひとりだ。その高橋が横浜ダンスコレクション若手部門の最優秀賞受賞の大森瑶子、若手部門ベストダンサー賞の小林利那、ファイナリスト(奨励賞)の神田初音ファレルら粒よりの若手メンバーが顔を揃えたカンパニー「MWMW」を設立。近年のコンテンポラリーダンスの拠点のひとつである吉祥寺シアターで事実上の旗揚げ公演(第1回本公演)「楽園はまぼろし、もしくはモキュメント」を行った(参考映像は別作品)。

MWMW 『なにものたち』dance video 2019

 9人のダンサーが参加しての群舞作品というのは昨今のコンテンポラリーダンスではかなり規模が大きいと言っていいだろう。高橋はそれまで東京ELECTROCK STAIRS以外の個人ではソロとして活動してきたが、2017年にMWMWを発足。小規模な試演会的な公演や映像作品の制作などを通じて本格的始動に向け準備を進めてきたが、今回が満を持しての「第1回本公演」となった。
 高橋がそこで経験を積んで育ってきたこともあり、構成にせよ、ムーブメントにせよ、KENTARO!!の影響は色濃い。しかし、彼女がソロで踊るダンスにはKENTARO!!の作品ではあまり前面に出てこない女性らしいキュートな動きやキャラクターっぽい仕草が目立ち、今回の他人への振付でもそうした特徴は受け継がれているだけにそこはもう振付家としての彼女の個性と言ってもいいのだろうと思う。ムーブメント自体はまるで違うのに舞台を見ていて、珍しいキノコ舞踊団のことを思い出したのはそういう「女の子」性の抽出で共通点を感じたからかもしれない。
 出演ダンサーは高橋萌登本人と最初から区別がつく男性ダンサー(七里海流クノー、神田初音ファレル)を除くと以前それぞれの作品を観たことがあっても、少し時間が経過していて、誰が誰かが認識しきれていない状態だった。だが、それでも見ているだけで、小柄で素早い動きに切れのあるダンサーや大柄でスキニーな体形のダンサーなど魅力的な動きを見せてくれるダンサーが何人もいるということに気が付いた。 
 群舞が多い構成ではあるが、個々のソロダンスもそれぞれ用意されていて、それぞれの個性を生かした振付をそこでは発揮させているのもこの作品の魅力といえそう。特に男性ダンサー二人を引き連れて、あるダンサー*3がブルゾンちえみ張りのパフォーマンスを行う場面などコミカルな要素も盛り込まれているのも、コンテンポラリーダンスでは珍しいかもしれない。
 高橋萌登自身のダンステクニックはKENTARO!!ゆずりのヒップホップ系の動きが主流のようだが、バレエやジャズなどヒップホップ系ではあまり使われない動きもシームレスに組み込まれている。ソロをはじめ少人数で展開される場面では(おそらく個々のダンサーが得意とする)それ以外のダンス技法もいりいろ盛り込まれて、ダンサー個人個人のキャラの違いも意図的に強調されていて、作品のアクセントとなっていたのではないか。
 コロナ感染の拡大でダンスでも公演中止や配信への変更などが相次ぐなかで、自前で稽古場(アトリエ)と公演場所を持つという有利さを生かして、毎月のように公演し多くの新作も発表した勅使川原三郎の 活躍には目を見張るばかりであった。その作品の多くは佐東利穂子とのデュオ作品なのだが、佐藤の踊り手としての充実ぶりは驚くべきもので、この不世出のミューズを手にして第二の黄金期を迎えている感がある。

 先述の高橋萌登作品にダンサーとして参加していた森瑶子「ERROR」東池袋あうるすぽっと*11も群舞のムーブメントの斬新さに驚かされた。大森は横浜ダンスコレクション若手部門の最優秀賞受賞者であり、コミカルな動きなどに特徴があり、これまでも注目してきた。最初にソロで両手を激しく動かす動かすのだが、この動きがかなり衝撃的。おそらくもともとの動きはストリート系のロックダンスからきているのではないかと推察されるのだけど繋がりがかなりバラバラに分断されていて、目で追うのが困難なほどハイスピード、いままでに見たことがないものだ。とはいえ、ソロでこうした動きをすると云うだけならなくもないだろう。素晴らしいのはこの複雑に見える動きを単に手癖として自分が踊るだけではなく、客体化して他のダンサーにも振りつけて群舞に仕立て上げていることだ。動きはまるで似ていないが黒田育世出世作「B-SIDE]を彷彿させるようなユニゾン群舞の迫力があり、以前から才能は感じていたが、この作品で彼女の振付家としてのレベルは格段に上がったと思う。
  横山彰乃「水溶媒音!」は横浜ダンスコレクション コンペティションIの審査員賞(グランプリ)受賞作品。もともとは前年に駒場アゴラ劇場で初演されていた作品の再演であり、初演時にその年(2019年)のダンスベストアクト3位に選んでいたこともあり、この順位とした。
 実はコロナ禍の年でありながら2020年は予想外にそれまでソロ活動を主体としていたダンサー・振付家による複数ダンサーを使った規模の大きな作品が目立った。そういう意味では停滞していたコンテンポラリーダンスの世界で復活ののろしが上がった年ということができるかもしれない。すでに取り上げた岩渕貞太、高橋萌登、大森瑶子の作品にもそういうことを言うことができるが、Co.Ruri Mito「where we were born」、康本雅子「全自動煩悩ずいずい図」はともにシアタートラムというコンテンポラリーダンスとしては規模の大きな劇場での公演で成果を上げたという意味で特筆すべきものだったろう。
 北尾亘は自ら企画したダンスショーケース「Baobab PRESENTS『DANCE×Scrum!!! 2020』」@東池袋あうるすぽっとUMU~うむ~」を上演したが、これはオリジナルの音楽と映像をダンスと組み合わせた作品でアート性と娯楽性がともに高いという意味では特筆すべき作品であった。ショーケース参加のために春先に上演した1時間程度の作品の一部を30分前後のグループ作品に仕立て直したもので、単独公演での上演に向けてのワークインプログレス的な色彩も感じた。それだけに来るべき完全版が楽しみである。
 「Baobab PRESENTS『DANCE×Scrum!!! 2020』では先述の大森瑶子「ERROR」も上演されたが、この種のダンスショーケースが以前と比べると減っているなかで、若手の振付家にとっては横浜ダンスコレクションのコンペティションなどと並び自作を披露する貴重な機会になっている。同企画参加作品では中屋敷南Future Fighter「恋の贅沢病」吉沢楓「歯みがき」もそれぞれ印象的であった。
 中屋敷*12は2年前にこの企画で上演した作品がアイドル的なアイコンとダンスを融合させた作品で非常に印象に残ったため、気になってはいたのだが、その後タイミングが合わず他の作品を見るチャンスが得られなかったが、ひさびさに見たこの作品も印象的であった。振付のムーブメント自体に特別なオリジナリティーがあるというタイプではないが、今回もアニメーション、アイドル的歌唱、巨大な透明なボール状のオブジェなどいろんな要素を組み合わせて作品世界にまとめていく才能は相当なものだと思う。
 一方、吉沢楓「歯みがき」は文字通り歯みがきを擬人化。飛び道具もいいところだが、抜群のインパクトがあり、大爆笑させられた。単にコント的な「面白」というだけでなく、ダンスとしてはバレエの「白鳥の湖」のパロディーにもなっていて、しかもちゃんとバレエの素養のあるダンサーがそれを踊るのがよかった。次の作品も見てみたいという気にさせられた。
simokitazawa.hatenablog.com
 
simokitazawa.hatenablog.com

*1:2006年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061229

*2:2007年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20080102

*3:2008年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20090111

*4:2009年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20091224

*5:2010年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20101229/p1

*6:2013年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20140102

*7:2014年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20150103/p1

*8:2015年ダンスベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20160102

*9:simokitazawa.hatenablog.com

*10:simokitazawa.hatenablog.com

*11:simokitazawa.hatenablog.com

*12:中屋敷南にはシリアスかつコンセプチャルな作品もあることを発見。生で見てみたかったが、これは映像だから面白いものなのかも。
みえないけどいる 〜touch the ghost skin...?〜 / 中屋敷 南 トライアル公演