下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

MWMW/モウィモウィ 第1回本公演『楽園はまぼろし、もしくはモキュメント』(高橋萌登振付)@吉祥寺シアター

MWMW/モウィモウィ 第1回本公演『楽園はまぼろし、もしくはモキュメント』(高橋萌登振付)@吉祥寺シアター

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 KENTARO!!が率いる東京ELECTROCK STAIRSはその参加ダンサーからともに横浜ダンスコレクショングランプリ受賞のAokid、横山彰乃ら新進気鋭のダンス作家を輩出してきたが、高橋萌登もそのひとりである。
 その高橋萌登が横浜ダンスコレクション若手部門の最優秀賞受賞の大森瑶子*1、若手部門ベストダンサー賞の小林利那*2、ファイナリスト(奨励賞)の神田初音ファレルら粒よりの若手メンバーが顔を揃えたカンパニー「MWMW」を設立。近年のコンテンポラリーダンスの拠点のひとつである吉祥寺シアターで事実上の旗揚げ公演(第1回本公演)を行った。
 9人のダンサーが参加しての群舞作品というのは昨今のコンテンポラリーダンスではかなり規模が大きいと言っていいだろう。高橋はそれまで東京ELECTROCK STAIRS以外の個人ではソロとして活動してきたが、2017年にMWMWを発足。小規模な試演会的な公演や映像作品の制作などを通じて本格的始動に向け準備を進めてきたが、今回が満を持しての「第1回本公演」となった。
 高橋がそこで経験を積んで育ってきたこともあり、構成にせよ、ムーブメントにせよ、KENTARO!!の影響は色濃い。しかし、彼女がソロで踊るダンスにはKENTARO!!の作品ではあまり前面に出てこない女性らしいキュートな動きやキャラクターっぽい仕草が目立ち、今回の他人への振付でもそうした特徴は受け継がれているだけにそこはもう振付家としての彼女の個性と言ってもいいのだろうと思う。ムーブメント自体はまるで違うのに舞台を見ていて、珍しいキノコ舞踊団のことを思い出したのはそういう「女の子」性の抽出で共通点を感じたからかもしれない。
 出演ダンサーは高橋萌登本人と最初から区別がつく男性ダンサー(七里海流クノー、神田初音ファレル)を除くと以前それぞれの作品を観たことがあっても、少し時間が経過していて、誰が誰かが認識しきれていない状態だった。だが、それでも見ているだけで、小柄で素早い動きに切れのあるダンサーや大柄でスキニーな体形のダンサーなど魅力的な動きを見せてくれるダンサーが何人もいるということに気が付いた。 
 群舞が多い構成ではあるが、個々のソロダンスもそれぞれ用意されていて、それぞれの個性を生かした振付をそこでは発揮させているのもこの作品の魅力といえそう。特に男性ダンサー二人を引き連れて、あるダンサー*3ブルゾンちえみ張りのパフォーマンスを行う場面などコミカルな要素も盛り込まれているのも、コンテンポラリーダンスでは珍しいかもしれない。
 高橋萌登自身のダンステクニックはKENTARO!!ゆずりのヒップホップ系の動きが主流のようだが、バレエやジャズなどヒップホップ系ではあまり使われない動きもシームレスに組み込まれている。ソロをはじめ少人数で展開される場面では(おそらく個々のダンサーが得意とする)それ以外のダンス技法もいりいろ盛り込まれて、ダンサー個人個人のキャラの違いも意図的に強調されていて、作品のアクセントとなっていたのではないか。
 総じて水準は高いがだからこそ気になる点もあった。ひとつが群舞のシンクロ度が東京ELECTROCK STAIRSや横山彰乃の率いるlal bansheesの精度の高い群舞と比較するとまだ踊りこみが足りない気がする。参加ダンサーにソロ活動が中心の人が多いせいか、ユニゾンの動きにまだばらつきが目立つ。奔放なソロとの対比ということを考えると、ここがきれいに揃うと作品の完成度が格段に上がって見えるはず。あえてそうしているという可能性も排除できないが……。

2020年10月29日(木)〜10月31日(土)
ダンサー・振付家高橋萌登が、2017年に立ち上げた
ダンスグループMWMW/モウィモウィ。
吉祥寺シアターにて満を持しての長編、本公演!

日常の中のSFをテーマに、主宰・高橋萌登がダンサーとして
これまで培ってきた表現やテクニックを凝縮し、
リアリティーとフィクションを織り交ぜ
ジャンルに囚われないオルタナティブダンス作品を創造します。

ただの日常が非日常になった時、当たり前は当たり前ではなくなって、そもそも当たり前のものなんてなかったのだと気づいた。
だからここだけは、この瞬間だけは楽園でありたいと思いました。

生きてるのか、死んでるのか、いるのかいないのか、この先の未来は、そんなのは誰にもわからない。
希望 VS 絶望 その繰り返しの繰り返し。

[構成・演出・振付] 高橋萌

[出演]
伊藤まこと 大森瑶子*4 金森温代 神田初音ファレル 久保佳絵
小林利那 七里海流クノー 中谷友紀 高橋萌

[照明]しもだめぐみ [音響]泉田雄太 [舞台監督]櫻井健太郎
[宣伝美術]モッチャム [記録映像]イリベシン [記録写真]松本和幸
[制作]瀧本麻璃英

主催:mtp
協力:合同会社Conel
公益財団法人 武蔵野文化事業団

simokitazawa.hatenablog.com

MWMW by Moto Takahashi [Dance video]

mmmm by Moto Takahashi "night-bird"


MWMW /:/ Trio 2020【Dance Video】Choreography by KENTARO!! a.k.a. Dayonashiik

*1:www.youtube.com

*2:www.youtube.com

*3:はっきりと断言できないが彼女が大森瑶子ではないかと思う。

*4:simokitazawa.hatenablog.com