下北沢通信

中西理の下北沢通信

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高橋萌登 新作トリプルビルダンス公演 《たんぺんしゅう》@渋谷SPACEEDGE

高橋萌登 新作トリプルビルダンス公演 《たんぺんしゅう》@渋谷SPACEEDGE

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それは未開の新境地。
ひとつ、ふたつ、みっつ揃えばゆめまぼろし

 

この公演は、ソロ・デュオ・グループの三本立てダンス公演です。

潔くやりたい事だけをやって、まずは自分の納得のいく傑作を作りたいと

思った事がこの企画の始まりでした。

お客さんがお腹いっぱい胸いっぱいになるエンターテインメントをやります。



 ソロ「PEKO」

 振付・演出・出演 高橋萌


 グループ MWMW (モウィモウィ)「なにものたち」

 振付・演出 高橋萌

 出演 越戸茜、小林利那、金森温代、神田初音ファレル、中谷友紀

 デュオ「孖」(マー)

 振付・演出・出演 高橋萌登、菅尾なぎさ

 高橋萌登はKENTARO!!率いる東京ELECTROCKSTAIRSにダンサーとして所属するとともに自らが振り付けするダンス作品も製作しているアーティスト。昨年の年間ダンスベスト1に彼女の作品を選んだようにいまもっとも注目しているひとりである。今回の公演は「たんぺんしゅう」と題し、ソロ、デュオ、グループとそれぞれ形態の異なる3作品を上演した。
 もっとも注目していたのはグループ作品。高橋萌登が自らのカンパニーMWMWを立ち上げたというのは、耳にしていたが作品を目にしたことはまだなかったからだ。「なにものたち」は恒川光太郎の著書「私はフーイー」*1が原案ということもあり、ある程度の物語があるほか、パフォーマーを大勢で持ち上げて運んだりするような演出には東京ELECTROCKSTAIRSとは違いがあるが、ムーブメントやグループダンスの構成の仕方にはかなり類似点がある。そうであるとどうしても東京ELECTROCKSTAIRSとグループ MWMW (モウィモウィ)の作品のクオリティーを現時点で比較してしまうことになる。そして、そうなればユニゾンの動きが少しばらけているが、もう少しそろえばよりきれいに見えるのに残念だなどと細かいところが気にかかったしまう。ただ、おそらくこれは純粋に練習量と本番の場数の差であるとも感じたのも確かだ。グループ MWMWは来年以降に吉祥寺シアターで単独の公演も予定されているようだが、まだ早いようだがこういう方向性のダンスであればアンサンブルでの経験値を上げて、成熟度を上げていくのが必要。もうひとつは今回はあえて外れたとは思うが、東京ELECTROCKSTAIRSでもKENTARO!!の出演が不可避であったように当面はカンパニー公演にも高橋萌登がダンサーとして出演した方がいいのではないかとも思った。



MWMW by Moto Takahashi [Dance video]


東京ELECTROCK STAIRS 『前と後ろと誰かとえんを壊せ』Digest 2016
 上の映像は東京ELECTROCK STAIRSの映像だがこのようなアンサンブルのユニゾンの呼吸の合い方の域に達するには時間がまだまだかかると思ってしまった。MWMW のダンスビデオを見つけた。ここのアンサンブル (Yoko Omori, Akane Koshito, Yoshika Yanagiya, Risako Sasaki, Yuki Nakatani, Moto Takahashi)では呼吸が合っている時もあるようだが、ダンサーがこの時とはかなり入れ替わってもいるようだ。抜けてしまったというような事情でもあるのだろうか。
 現時点での面白さということであればデュオ「孖」(マー)(振付・演出・出演 高橋萌登、菅尾なぎさ)が圧倒的だったと思う。菅尾なぎさはイデビアン・クルーのダンサーであり、自らクリウィムバアニーというカンパニーを主宰。それぞれのダンサーとしての持ち味はまったく異なるが、どちらも現在の日本で最高水準にあるカンパニーでダンサーを務めるとともに自分で作品づくりにも取り組んでいる2人によるコンビ*2だが、面白いのはこの二人で作る作品のテイストが、クリウィムバアニーとも高橋萌登とも違うことだ。この作品ではふたりとも激しい音楽に合わせてけっこう踊りまくるのだが、そういうことはここ以外の作品ではあまりないし、なんといってもこの組み合わせの魅力のひとつは最後のブロックのアニメ楽曲のような曲に合わせて、高橋が当て振りのように踊りまくるところ。未確認だが、ここは菅尾なぎさの演出部分ではないかと思うのだが、ほとんどアニメキャラにも通じるような高橋が時折見せるキャラ性の魅力を全面的に引き出す演出で、こういうのは本人の自作自演ではここまで突き抜けたものは出てこないのではないかと思うので、こういうことができるこのコンビはまた時折は作品制作をしてもらいたいと思う。
 最初に踊った「PEKO」は不二家のPEKOちゃんのことで、いつもよりはキャラ要素多目のソロダンスではあった。ただ、比べてしまうと菅尾なぎさとの作品ほどのインパクトはないため今回の3本立ての形式のもとでの印象はどうしても強いとはいえない気がした。ただ、ソロダンスとしてはまとまっているので、いろんなところで踊る機会があれば作品としてより成長していくポテンシャルはあるのかもしれない。

 

*1:

*2: