下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

有安杏果写真展「a song of Hope 〜ヒカリの声〜」@ソニーイメージングギャラリー 銀座

有安杏果写真展「a song of Hope 〜ヒカリの声〜」@ソニーイメージングギャラリー 銀座

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■期間:
2019年7月26日(金)~8月8日(木)

■開催場所:
ソニーイメージングギャラリー 銀座
東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス 6F

■問い合わせ先:
ソニーイメージングギャラリー 銀座
url. https://www.sony.co.jp/united/imaging/gallery/


有安杏果(ありやす ももか)プロフィール
1995年3月15日生まれ。歌手、写真家。
0歳から芸能活動を始め、CMやドラマ、MVなどに出演多数。
2017年3月、日本大学芸術学部写真学科卒業。芸術学部長特別表彰受賞。写真学科奨励賞受賞。
2009年7月から8年間アイドルグループで活動し2018年1月卒業。
2019年1月、音楽活動や写真活動などを通して表現し伝えていく活動を発表。


私は写真の専門家でも何でもないが、それでも10年近く前には足しげくいろんな写真作家の展覧会*1に通っていた時期もあった。もちろん、写真については演劇やコンテンポラリーダンスのように専門家というわけではないので、専門的な批評が書けるわけではないが、このブログ内にも「写真展」で検索すれば複数の写真展の感想やレビュー風の文章を書いていた。それゆえ、私なりに有安杏果の写真がどのようなものかについて考えたことを書いていきたい。 
 有安杏果初の写真展「a song of Hope ~ヒカリの声~」はよくも悪くも新人写真家らしい写真展であった。作品の多くは日常風景をオブジェ的に切り取ったもので、人物が写りこんでいることはあってもポートレイトというよりは風景の一部だ。その意味では同じ写真と言ってもアラーキー梅佳代とは対照的なものだ。ただ、これはスナップショットではなく、1枚1枚丁寧に画かくを決めて、焦点、絞りを調整し撮影しているということがどの1枚からも感じられた*2
 写真のモチーフとして目立つのは空と海である。なかでも空は杏果が持っている世界に対するイメージの中で何度も繰り返し出てくる。杏果の心象風景の中では重要な存在なのであろう。写真のモチーフとして頻出するだけに留まらず、「変幻自在の空にあこがれ」「果てしない空と勇気があるから」「街頭の灯りが明るい空」……。杏果が作詞した楽曲の歌詞にも空は幾度ともなく出てくる。
 会場の入り口辺りでは芸術学部長特別表彰、写真学科奨励賞を受賞した日大芸術学部写真学科の卒業制作「心の旋律」が再現されている*3。実はそれが展示されている柱の裏側の壁面には映像モニターがあって、そこでは「心の旋律」の楽曲が流れる中で幾つかの写真が「歌の中の詞の抜粋:と組み写真のようにされた映像作品が展示されているのだが、確実にそうだと言うことはできないのだが、これは日本武道館のライブの時にライブ中に巨大モニターに映し出された映像ではないかと思う。
 もともと会場となったソニーイメージングギャラリーは案内文に「全て写真プリントの展示はもちろん、写真のプリントと4K対応液晶テレビ ブラビア、4K対応のビデオプロジェクターを組み合わせた、多彩な展覧会が可能なギャラリー」とあるように映像展示にも力を入れているのが特色のようで、杏果の写真展デビューがこの会場で行われたことにはそういう意味合いもあったのかもしれないと思った。
 写真展、写真集は今回が初めてだが、杏果にとっての「写真作品」の本格的な取り組みは武道館でのソロコンではないかと考えている。武道館のライブでは巨大モニターでの写真展示に加えて、プロのイラストレーター(アニメーター)に委嘱しての映像作品も曲に合わせてMV以外にも何曲か創作。自らが踊るダンスパフォーマンスや楽器演奏も含めて、総合的なビジュアル作品としてライブをすべて隅々まで杏果ならではの色合いで統一した。当時は波紋を呼んだが、ペンライトの使用などをやめてほしいとお願いしたのはあれがビジュアルアートだったからだ。
 現在の有安杏果は「歌手・写真家」というのを肩書きとして採用しているが、これは「歌手」であり、また「写真家」でもあるというだけでなくて、「歌手・写真家」という組み合わせで総合的に生み出されていくものを追求していくという宣言ではないかと思えてきた。
 そういう意味で今回の展覧会「a song of Hope 〜ヒカリの声〜」の主題は「a song 」ということで歌なのかもしれないと思い当たり、実は組み写真の連作としてのみ今回の展示を見てみたときには共通してそれを結びつけるような連関がやや弱く、それが現時点での杏果の写真の最大の弱点かとも思ったのだが、組み写真の1枚として展示されていた「ハムスター」の写真などを眺めているうちに「言葉」自体は直接的なつながりを提示しているものとそうでないものがあるにしても、今回展示されたほとんどすべての写真はそれぞれ自作の曲にある何かのイメージにつながっているのかもしれないと考えた時に少し全体の見え方が変わってくる気がした。
 ただ、もしその想像がいくぶんなりとも当たっているとしたら、今回の展示は展示自体ではコンセプトがつかめない部分が多く、提示のやり方にはまだまだ工夫が必要だろうと思わされたのも確かだ。そこはまだ経験不足なところがあるし、今回はたぶんついていない個々の写真のタイトルをどうクレジットすべきなのかなど工夫の余地があるのではないか。
 ただ、今回の写真展で思ったのは今後も写真集や写真展は継続するとしても、他の写真家との差別化を図っていくためにも、今後のプロモーションでは新アルバムと写真展、写真集を組み合わせたりしたら独自性が打ち出されると思うし、今はまだ資金的な面もあって難しいかもしれないが、武道館の時のようなビジュアルアート作品としてのライブをまた実現してほしいと思った。
 
simokitazawa.hatenablog.com
imaonline.jp

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:こうではないということだけを書いても意味がないので、有名な写真家の中で杏果の写真と指向性の近さを感じるのは川内倫子である。そういうことを書くと杏果の曲を〇〇の真似と非難する人が出てくるように真似だと言い出す人が出てきかねないが、そうではない。ただ、この人のような作品を好きなんだろうなというのははっきり感じる。

*3:再現というか同じものの再展示かもしれない。