下北沢通信

中西理の下北沢通信

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「有安杏果 サクライブ Acoustic Tour 2022」(1回目)@東京・大手町三井ホール(改訂版)

有安杏果 サクライブ Acoustic Tour 2022」(1回目)@東京・大手町三井ホール

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有安杏果 サクライブ Acoustic Tour 2022」@東京・大手町三井ホールの1日目に出掛けた。
有安杏果のライブの面白さの一丁目一番地は様々なアレンジにより楽曲のボテンシャルを最大限に引き出すことにある。「遠吠え」「Drive Drive」「TRAVEL FANTASISTA」のようなおなじみの楽曲がアレンジをまったく変えることでほとんど新しい曲のように再構築されるのは魅惑的な体験だった。Official髭男dism提供曲で軽快なロック調な「TRAVEL FANTASISTA」は今回はピアノとアコギだけの伴奏ということで、ボサノバ調に生まれ変わり、より大人な雰囲気となった。アレンジへの拘りはおそらくももクロ時代に一緒にやった武部聡志の薫陶を受けたもので、現在は武部やきくちPらももクロ周辺の人とは意図的に距離を置いているようだが、現在一緒にやっている福原将宜も「何年もこれからできるように若い人とやるべきだ」と武部から紹介されたミュージシャンのひとりだったと記憶しているし、その他のバンドメンバーもこの日一緒の宮崎裕介をはじめ全員アレンジも手掛けてられるバンマス級の実力の持ち主で、こうした人選にはももクロソロコン時代の経験が存分に生かされていると思う。
 とはいえ、いつものライブよりもよりアレンジが目立ったのはアコースティックギターとピアノという楽器構成ではバンドの場合のアレンジをそのままやることはできないという事情もあった。逆にギター1本での弾き語りではアレンジをするといってもとりあえずギターだけ、あるいはピアノ演奏だけで成立させるという限界があったが、ギターに加え、ピアノも入るとなるとなればできることのバラエティーは大幅に増えるわけで、そこに1曲ずつどういうアレンジでやろうかを綿密に相談したうえでライブ全体を構築していく面白さがあったと思う。
そして、自ら演奏する楽器も魅力だが、最大の武器は楽器としての歌声の魅力だ。ももクロ時代から「歌がうまい」とはいわれていたが、当時は楽譜の指定通りに音を置きに行くようなところもあった。いまはフェイクや遊びも随所に入れて、セッションを本当に楽しんでいるようなところがあった。実は応援していたももクロの後輩グループであるたこやきレインボーの解散が正式に発表されてつらい気持ちになっていたこともあり、別々に分かれてはいるが、こういう姿でももクロの4人のライブも杏果のライブも両方楽しむことができる幸福はけっして当たり前のことじゃないんだとの思いがますます込み上げてきたのである。
 ひとつひとつの曲にも少し長めのイントロが入って時折そこでフェイクやギターでの掛け合いも入るのだが、すぐにはどの曲をやるのかが分からない時が多く、いくつかの曲は意外な曲想から「え、この歌にこういう入り?」みたいな驚きがあり、これは観客の愉しみのために意図的に仕掛けた仕掛けではないかと思う。特に最初の曲となった「遠吠え」には驚いた。イントロ部分がジャズピアノ的な奏法の宮崎裕介に対して、杏果がスキャットで呼応し、セッションを展開した後「遠吠え」に入るのだが、歌い方もこれまでのアレンジとはだいぶ違っていて、よりジャジーな感覚。他の曲でも感じたがこういう大人の空気感が出せるようになった杏果にはぜひジャズのスタンダードナンバーもカバーしてほしいと思った。
 演出上もうひとつ気がついたのは曲中でクラップしてほしい個所としないでじっくり聞いてほしい個所があるはずなのだが、今回の杏果のサクライブでは照明家と杏果が綿密に相談して、いつもにも増して細かい変化をつけている。途中で気が付いたのだが、この照明がクラップして欲しい時には客電が明転したうえで黄色のLED照明が点滅、じっくり聞いてほしいところは暗めのムーディーな照明となるようになっていて、最初はそうでもないが次第にサインの意味に気が付いた観客がちゃんとそれに対応していた。こういうやり方は照明テクニックとかでこれまでもあったのかもしれないけれども、私が見たのは初めてで、感心するとともにこれは当然音楽家との相談が必要なことだから杏果とスタッフとの信頼関係も伺えて好ましく思った。
 カバー曲はこの日歌ったのはback numberの「高嶺の花子さん」*1と映画「バグダッド・カフェ」の主題歌「Calling You」*2の2曲。MCでBack Numberの曲を「大学時代(ということはももクロ時代でもある)に毎日のように通学時も仕事の合間にも聞いていた」というのだが、杏果がミスチルや秦基弘の曲が好きなことはよく聞いたし、Official髭男dismや[Alexandros]には実際に楽曲提供も受けているので分かるのだけれどもこれは初耳で少し驚いた。

遠吠え
Drive Drive
MC
ハムスター
指先の夢
愛されたくて
MC
高嶺の花子さん /  back number
Calling You  / Holly Cole
虹む涙
TRAVEL FANTASISTA
Runaway
feel a heartbeat
ペダル
ヒカリの声
夢の途中
Another story
サクラトーン
アンコール
LAST  SCENE
Catch  Up
オレンジ

Member
有安杏果(Vocal/Guitar)
宮崎裕介(Piano)

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