シーユーインヘル「君が忘れたダンスフェス」(Bプログラム)@こまばアゴラ劇場
この日は同じダンスでありながらまったくテイストの異なる3組を見ることができて、「ダンスの今を堪能する」という気分にさせてもらった。
最初に登場した 水越朋×宮崎あかね×古茂田梨乃「めいめい」は女性ダンサー3人によるトリオ作品。KENTARO!!率いるダンスカンパニー「東京ELECTROCK STAIRS」はKENTARO!!がもともとはストリート系のダンスの出身であることもあって、音楽にシンクロ(同期)するようないわゆる「音ハメ」の動きが主となっているが、こちらはそれとはまったく対極的なダンス。3人のダンサーが出演はしているが、それぞれがコンタクト(接触)することなく、非常に緩やかな動きの中で身体の変容を見せていく。下の映像は水越朋のソロ作品の抜粋だが、今回の作品も基本的には3人のダンサーそれぞれが離れた位置でこれに似たようなムーブメントの動きを行うというものだった。
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振付は水越朋とクレジットされてはいるものの、シユーインヘルのホームページには「人に振付を渡し踊るのは、10年ほどぶり。出演のふたりに動きのタネのようなものを渡すと、瞬間瞬間が目の前で生まれてきます。ソロの稽古ではこうして動きと対峙できないので毎度びっくりして感動しています」とあり、振付の細かい動きを振り移すというのではなく、それぞれのダンサーの細かい動きそのものはダンサーが自ら生み出しているもののようだ。表題が「めいめい」だというのもそういう構築の仕方からのネーミングなのかもしれない。それでも水越が全体をコントロールはしているから。本当にバラバラで脈来がないというわけでもないが、こうしたやり方が機能するにはメンバーがある程度固定したカンパニーのような形での共同作業が必要ではないだろうか。ただ、この作品は再演を繰り返して、それぞれのダンサーの関係性の空気を黙っていても感じ取れるというところまで、熟成すれば今よりも数段優れたダンス作品になりうる可能性は感じた。
一方、次に出てきたyu-ki byeol(ファンファーレ)
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はソロによるダンス。ストリートダンス系の動き、特にポッピングじゃないかと思う動きが目につくなと思っていたが、後半は例えば関西ではヤザキタケシが得意としているような即興的なコンテンポラリーダンスの動きも差しはさまれていて、身体能力は高いし、面白いダンスを踊るダンサーというのが第一印象だった。それでYoutubeで調べてみると日本を代表するようなダンスバトルに登場している映像*1も見つかって、ガチのストリート系のダンサーなんだということが分かった。ただ、バトルの映像を見ていて思ったのは、これらのバトルのレギュレーションが分からないのだが、対戦相手とまるで違う種類のダンスを踊っているのが面白いが、典型的でない動きをいろいろ織り交ぜてきているので後はこのダンスがポッピングと見なされるかどうかだけが問題という風に感じた。yu-ki byeolはダンスバトル系のイベントやショーイングだけではなく、MV(上の映像)にも出演してこちらは動きにしても見せ方にしてももう少しコンテンポラリーダンスに近いような内容だ。MVなどを媒介にして、ストリート系のダンサーにも以前よりは作品志向が強まってきており、このyu-ki byeolのようにコンテンポラリーダンス系のダンスショーケースに顔を出したり、ダンスのジャンルに関わらずバレエやヒップホップ、ブレイクダンスなど明らかにジャンルがはっきりしているダンス以外は例えば三浦大知も森山未来も菅原小春もすべてコンテンポラリーダンスと呼ばれるような傾向が強まり、こういう細かい呼び方に目くじらをたてるのではなく、ジャンルボーダレスな境界線に新たな表現の火種を見つけることが重要なのかもしれない。
とはいえ、高橋萌登(MWMW)がこの日のメインディッシュだろう。彼女は今年初めに開催された横浜ダンスコレクションのコンペティションでグランプリに相当する審査員賞を受賞したばかりで、現在もっとも注目の振付家である。この日上演された「ROBIN」はVon・noズ(上村有紀・久保佳絵)との共同製作作品で、振付・演出のクレジットも高橋萌登・上村有紀・久保佳絵の共同名義ではあるのだが、すっとぼけたテイストとしては高橋萌登の色合いを強く感じる。
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Von・noズは横山彰乃(lal banshees)が審査員賞(グランプリ)を受賞した2020年の横浜ダンスコレクションでファイナリストにはなっていて、その時に見ているのだが、空間構成に長けて静謐な作品*2という印象だから、「ROBIN」は彼女らの作品傾向とはおそらく全然違っていて、舞台上で突然「好きなジブリのキャラクターは?」とお互いに話始めたり、4人が次々と組み合わせを変えて、ソロやデュオで踊るシーンがつながれていたりするゆるーい感じは高橋萌登の持ち味そのものだ。日本のコンテンポラリーダンスの一端には日本の「kawaii」文化を体現した珍しいキノコ舞踊団があったが、彼女らが活動を休止した後、それを担っているのが高橋萌登とその仲間たちではないかと考えており、さらなる活動に期待したい。
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振付・演出:横山彰乃(lal banshees)、高橋萌登(MWMW)、栗田紗采(W/union)、吉田拓 他
普段中々見れない組み合わせや挑戦、コラボレーションをオール新作!でお届けするダンスフェスティバル!と言いつつ良質なミュージシャンによる素晴らしい音楽も組み込んで、程よい実験の中かすめ飛ぶ夢遊性が作品にプラスされる予感は予感として現実的に是非ともお越し下さい!
ドトウノヘルル‼︎A
横山彰乃×34423
池ヶ谷奏×鳥羽絢美×西澤真耶×林田海里
伊藤まことB
MWMW×Von・noズ 「ROBIN」
yu-ki byeol(ファンファーレ)/ 14,17,19日出演
水越朋×宮崎あかね×古茂田梨乃「めいめい」
コーノ(ガウディーズ)/ 12日出演・弾き語りC
小林勇輝×吉田拓
W/ union
KENTARO!!さよならをするためのプログラム
上村なおか
酩酊麻痺
IKKKKKI×Daoud bkdn
女屋理音×家坂清太郎