下北沢通信

中西理の下北沢通信

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2021年ダンスベストアクト(年間回顧) コロナ禍でも圧倒的な勅使川原三郎の存在 関西の雄Monochrome circusも活躍 

2021年ダンスベストアクト(年間回顧)

 2021年ダンスベストアクト*1*2*3 *4 *5 *6 *7 *8を掲載する。皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメント欄にコメントなどを書いていただけると嬉しい。マイ「ダンスベストアクト」も大歓迎。

2021年ダンスベストアクト
1,KARAS(勅使川原三郎振付「アップデイトダンス」シリーズ)「踊るうた2」*9「静かな息」「ジャズー魂の紅葉ー」「『春』変奏曲 宮沢賢治」「ドビュッシー 光の秘密」など@荻窪アパラタス
2,藤本隆行+Monochrome circus『HAIGAFURU ーAsh is falling』@横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
3,Co.SCOoPP×Monochrome Circus×山中透(演出:安本亜佐美 / 坂本公成)「Cover your mouth」@THEATRE E9 KYOTO

4,北村明子×KAATキッズプログラム2021「ククノチ テクテク マナツノ ボウケン」@横浜KAAT

5,W/union(栗田紗采振付)@「君が忘れたダンスフェス」(こまばアゴラ劇場
6,横山彰乃×34423「 / 」@「君が忘れたダンスフェス」(こまばアゴラ劇場
7,MWMW×Von・noズ「ROBIN」@「君が忘れたダンスフェス」(こまばアゴラ劇場
8,きたまり/KIKIKIKIKIKI「老花夜想ノクターン)」東京芸術劇場(東京芸術祭)
9,アンサンブル・ゾネ版 (演出・構成・振付:岡登志子、京都芸術センター)『Song of Innocence 無垢なるうた』 大野一雄大野慶人原作「睡蓮」@配信
10,妖精大図鑑「Yokohama Anmonite NIGHT」@神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

 コロナ感染の拡大で公演中止や配信への変更などが相次ぐなかで、自前で稽古場(アトリエ)「荻窪アパラタス」という公演ができる場所を持つという有利さを生かして、毎月のように公演し質量ともに圧倒的な作品を残した勅使川原三郎の 活躍は今年も目を見張るばかりであった。従来は行っていた海外公演などが、コロナ禍で事実上できなくなったなどの逆風を逆手にとって、その分創作活動に集中し、いままでに試みたことのないような新たな試みを含め、多くの新作も発表した。その作品の多くは佐東利穂子とのデュオ作品なのだが、佐藤利穂子の踊り手としての充実ぶりは驚くべきものだ。この不世出のミューズ佐東を手にして第二の黄金期を迎えている感がある。

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ドビュッシー 光の秘密」

 勅使川原三郎については前年も個々の作品ではなく、アパラタスで毎月開催している「アップデイトダンス」シリーズという形で選んだが、今年も同じ形になったのは秀作ぞろいであり、どれかの作品を単独で選ぶのは躊躇せざるをえないし、複数作品を取り上げるということになるとダンスベストアクトの過半を勅使川原作品が占めてしまうということになりかねないからだ。さらに最近の勅使川原振付作品は使用する音楽をクラシックやノイズ系のインスツルメントだけでなく、ジャズやボーカル曲に広げたり、無音でパフォーマーの呼吸音だけで踊ったり、文学作品の朗読とダンスを組み合わせた作品など新たな試みとそこから引き出されるこれまでにはなかったダンスの魅力が感じられるような広がりが見られることもある。
 ダンスベストアクトは原則一作家一作品に絞り込んで選出しているのだが、2021年はそれぞれ異なるアーティスト(コラボレーター)との共同制作ということもあり、Monochrome circusの坂本公成振付作品は藤本隆行+Monochrome circus『HAIGAFURU ーAsh is falling』Co.SCOoPP×Monochrome Circus×山中透(坂本公成構成・振付・演出)「Cover your mouth」*10の2作品を選んだ。
Monochrome circusならびに坂本公成はこれまで日本におけるコンタクト・インプロヴィゼーションの継承者として知られてきたが、少なくともここ10年ぐらいはコンタクト技法の基本である人と人の接触から離れ、「モノとのコンタクト」というこれまでにない新しい表現領域を探求してきた。この2作品もそうした中から生まれてきた作品だ。『HAIGAFURU ーAsh is falling』は作品のほとんどの部分でパフォーマーが床に這うようなポジションを取り、床との接触のみにおいてコンタクトの技法を生かしている。そのため、結果的に身体技法としてはまったく異なる舞踏家の室伏鴻の作品に表現形態としての親近性を感じさせるようなものとなっているし、坂本本人もそれを意識していると思う。
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 一方、Monochrome circus×Co.SCOoPPX×山中透(坂本公成構成・振付・演出)「Cover your mouth」は現代サーカスにおけるエアリアル(宙吊り技法)を基礎とするカンパニー「Co.SCOoPPX」の安本亜佐美との共同製作作品。こちらは床に張り付いたような『HAIGAFURU ーAsh is falling』とは反対にパフォーマーの身体は常にビニールの膜により、空中に吊られている。こちらは安本亜佐美のソロ作品に坂本が演出面、山中透が音楽で協力した作品だが、類似の身体技法からまったく異なる身体表現が生まれてくる面白さがあった。
 ロープや布ではなく、透明なビニールシートを使ったアイデアが素晴らしくて、周到に計算された渡川知彦の照明とも相まって、洗練された美的な空間を醸し出すの加え、そのビニールシートに絡みとられたり、閉じ込められてもがくように見える具象的にはアクリル板などで他者から隔てられているのを表現しているようで、象徴的には分断され閉塞状態に置かれたコロナ禍における自分たちの心象風景とも見えてくる。
 現代シルクの作品はいくつか観たこともあるのだが、このようにテーマ性と美的な完成度が高度に組み合わせられた例は海外作品を含めてもあまり、見た記憶がない。しかも、莫大な予算を掛けたシルクド・ソレイユのような作品ではなくローバジェット(低予算)で作られているだけにパフォーミングアート系のフェスティバルにおいても、もう少しエンターテインメント寄りの市場でも相当以上の競争力を持つ作品ではないかと思う。パフォーマーとしての安本亜佐美も魅力的で、最近ではそういう言い方には語弊があるのかもしれないが、美人で華があると思う。首都圏の演劇・ダンスフェスのプロデューサーは海外公演が難しい今が呼び時だと思うがどうだろう。
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 KENTARO!!*11が率いる東京ELECTROCK STAIRSはその参加ダンサーからともに横浜ダンスコレクショングランプリ受賞のAokid、横山彰乃、高橋萌登ら新進気鋭のダンス作家を輩出してきたが、横山、高橋らを中心に開催されたシーユーインヘル「君が忘れたダンスフェス」こまばアゴラ劇場)はダンスの新しい動きを見せてくれるものだった。なかでも栗田紗采*12を中心に女性4人で構成されるユニットW/union がよかった。ストリートダンス的なムーブメントと可愛らしいが奇妙でもあるキャラ性も兼ね備え、ポップでかつオカシさもある。次の作品がかならず見たいと思わせる魅力も持ち合わせていたと思う。
 横山彰乃×34423「 / 」は音楽家34423との即興的コラボ。ただ、音楽に合わせてただ踊るというようなものではなく、照明の使い方などを見ても全体の構成はほぼ決めていたように思われ、横山らしさが十分に感じられる作品に仕上がっていた。

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 MWMW×Von・noズ「ROBIN」高橋萌登の率いるMWMWとVon・noズの共同制作作品だが、振付は高橋が担当しているのでかなり彼女の色合いが強い。
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 いずれもコロナ禍で単独の公演が難しいなかではダンスショーケース向けの作品とはいえ、健在ぶりを示したという意味では貴重な機会であった。ただ、本当は横山彰乃は長尺のカンパニー向けの作品が見たいし、高橋についても同じことがいえそう。
 演劇ベストアクトに選んだ杉原邦生演出の「水の駅」同様に大学時代の恩師でもあった太田省吾の作品をきたまりがダンス作品に仕立て上げたきたまり/KIKIKIKIKIKI「老花夜想ノクターン)」が東京芸術祭に正式招聘され上演されたのも特筆すべきできごとであった。きたまりの作品としては舞踏臭が強い。彼女の本来の持ち味はもう少し軽やかでポップなところにあり、そういう面では不満もあるが、知名度においては東京勢と比べると低い関西勢が東京の大規模フェスのラインナップに入ったことの意味合いは小さくないと思う。
 オンライン配信とはなったが関西勢では大野一雄大野慶人原作「睡蓮」を原作としたアンサンブル・ゾネ版 (演出・構成・振付:岡登志子、京都芸術センター)『Song of Innocence 無垢なるうた』 も優れた作品であった。
『Song of Innocence 無垢なるうた』 は 大野一雄大野慶人原作「睡蓮」とクレジットされている。元の作品はもちろん舞踏作品といっていいと思われるが、ところどころに原作からのイメージを借用していわばオマージュした部分はあるようだ。以前の岡作品といえば静謐で無駄な動きのディティールをすべてそぎ落としたようなところがあった。そのために見るには相当の集中力が必要でダンスを見ることに慣れた観客でないと入り込むのが難しいようなところがあった。ところが、この舞台ではところどころにダンサーのキュートさを生かした振付やコミカルな場面もあって、配信でも見やすい作品となっていた。
 ダンサーには福岡まな実のように舞踏のカンパニーに所属経験のあるダンサーもいるが、大野一雄大野慶人原作といっても舞踏の方法論を作品に持ち込むということはなく、同じ緩やかな動きをするにしても明らかにやり方が違う。そのため、群舞などではあまりにも普通の群舞となってしまって、もう少しこの作品なりのアクセントをつけたらもう少し面白くなるのにと思ったりもするが、それぞれのダンサーのソロ部分はその人ならではの個性が発揮されていて面白い。
 ただ、作品全体の核は岡登志子自身と垣尾亘がそれぞれ踊るソロの部分「睡蓮」を原作とクレジットしたのはこの二人の役割が大野一雄大野慶人をイメージしているからだろう。ただ、原作の舞踏作品を見ていないので、白い衣装の垣尾と黒い衣装の岡のどちらがどちらを表しているのかはよく分からない。というよりはより正確な表現を心がければどちらの演技にも大野一雄の振舞いを感じさせるところがある。舞踏のメソッドをいっさい使わずにそれを感じさせるのは相当なことだと思った。

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 オンライン配信では北村明子の「Echoes of Calling」もベストアクト級の秀作ではあったが、上演を生観劇した北村明子×KAATキッズプログラム2021「ククノチ テクテク マナツノ ボウケン」を年間ベストアクトに選んだ。KAATの子供向け企画作品だが、そういった分類を超えて、極めて優れた舞台成果であったと思う。第一級のコンテンポラリーダンス作品であるのに観劇している子供たちが舞台に集中していて、まったく退屈していなかったのが素晴らしい。

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妖精大図鑑の舞台を不思議な作品などと評しても何も言ってないようなものなのだが、そうとしか言いようがないようなこれまで見た劇団にはあまり見たことがないスタイルをもっていて、「Yokohama Anmonite NIGHT」も既存のジャンルの土俵では評価しづらい独特な魅力を持った作品。
 作品全体がどこか他所の世界(遠い過去の世界? 遠い未来の世界?)から発信されている不思議なラジオ番組という構成になっていて、DJが曲をかけるタイミングでパフォーマーが登場して、アンモナイト、オウムガイ、シーラカンスを模したぬいぐるみ的なキャラクターを頭にかぶって踊る。いわゆるコンテンポラリーダンスという範疇にはない作品だが、ノンジャンルのダンスをすべてコンテンポラリーダンスとするようなここ最近の分類ではこういうものもコンテンポラリーダンスといっても構わない方向にシフトしつつあるのかもしれない。

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