下北沢通信

中西理の下北沢通信

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コロナ禍の心象風景、現代シルクの技法で描いたアートパフォーマンス。Monochrome Circus×山中透“Cover your mouth”

Co.SCOoPP×Monochrome Circus×山中透“Cover your mouth”

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エアリアルという現代サーカスの技法を生かした現代アート味強いダンス作品。Monochrome Circusの女性ダンサー二人によるデュオ作品『Labyrinth of Gravity』と Co.SCOoPP主宰の安本亜佐美のソロ『Cover your mouth』の2本立て。
 いずれも宙吊り技法を生かした作品だが、中でも2本目に上演された『Cover your mouth』が面白かった。天井から吊るされたビニールのシートに宙吊りになってのパフォーマンスでコロナ禍で分断され閉塞状態に置かれた人々の心象風景を表現した。

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 この種の宙吊り技法というのはおそらくアクロバットの世界では以前からよくあるものでアリーナ会場の天井から吊るされたロープや布につかまったままアクロバティックにいろいろポジションを変えていくというのをももいろクローバーZのライブでもショーの演出の一部としては見たことがある。
ただ、今回の『Cover your mouth』が素晴らしかったのはちゃんと1本の作品として出来上がっていることだ。共同演出に国内だけでなく、海外での活動経験も豊富なMonochrome Circusが加わり、音楽をやはりダムタイプやオンケンセンの作品で音楽監督的役割を果たしてきた山中透が加わり、全体のパッケージとして完成度が高い現代アートパフォーマンスに仕上がった。
 ロープや布ではなく、透明なビニールシートを使ったアイデアが素晴らしくて、周到に計算された渡川知彦の照明とも相まって、洗練された美的な空間を醸し出すの加え、そのビニールシートに絡みとられたり、閉じ込められてもがくように見える具象的にはアクリル板などで他者から隔てられているのを表現しているようで、象徴的には分断され閉塞状態に置かれたコロナ禍における自分たちの心象風景とも見えてくる。
 現代シルクの作品はいくつか観たこともあるのだが、このようにテーマ性と美的な完成度が高度に組み合わせられた例は海外作品を含めてもあまり、見た記憶がない。しかも、莫大な予算を掛けたシルクド・ソレイユのような作品ではなくローバジェット(低予算)で作られているだけにパフォーミングアート系のフェスティバルにおいても、もう少しエンターテインメント寄りの市場でも相当以上の競争力を持つ作品ではないかと思う。パフォーマーとしての安本亜佐美も魅力的で、最近ではそういう言い方には語弊があるのかもしれないが、美人で華があると思う。首都圏の演劇・ダンスフェスのプロデューサーは海外公演が難しい今が呼び時だと思うがどうだろう。

「現代音楽×コンテンポラリーダンス×エアリアル(現代サーカス)」のコラボレーションによる2演目を上演。

『Cover your mouth』
新型コロナ感染症によって、私たちの生活様式はあっという間に一変した。マスク、消毒液、プラスチックシート、そして2メートル。また誰かと繋がるため、私たちの間には簡易の断絶がある。咳の音に二度見し、近づく人に後退る。新たなモラルとコンフォートゾーン。もう元には戻らない事への諦めを私たちはどうやって克服していくのか。
2019年より続く新型コロナ感染症から、このコロナ禍を生きるアーティストとして、分断された人々や閉塞感のある現代の状況等を、この時代のシンボルとも言えるマスクと人々を分断する透明シートを用いて、身体×音楽により表現する。

『Labyrinth of Gravity』
宙に浮く自由を獲得したとき、身体は重力に囚われる。地上と空中の狭間のグレーゾーン。切り取られた迷宮に迷い込んだ身体。飛べない夢。走馬灯の様に交互に過る記憶。地表を舞うダンサーが新たな空間領域を獲得しようともがく。

日時

10月29日(金) 19:00
10月30日(土) 13:00…◆ /17:00
10月31日(日) 13:00

◆アフタートーク有り (終演後約20分、登壇者:安本亜佐美、坂本公成、山中透)