下北沢通信

中西理の下北沢通信

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[岩渕貞太 身体地図] 新作ダンス2020 Gold Experience@吉祥寺シアター

[岩渕貞太 身体地図] 新作ダンス2020 Gold Experience@吉祥寺シアター

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昼夜の2公演を観劇。岩渕貞太自身を含め4人のダンサー全員が素晴らしい。長期間に渡って共有されたやり方に従い全員が踊るため、振り自体はまったく違うそれぞれのダンサーの動きのどの部分を切りとってもこの集団の動きとなっている。岩渕貞太自身は室伏鴻の作品で踊り、海外ツアーした経験もあるので、広い意味では舞踏出身と言えなくはないのだが、岩渕自らのソロ作品はともかく、 [岩渕貞太 身体地図] の動きや身体のあり方には舞踏的なメソッドだけには還元できないものを感じた。
「Gold Experience」が面白いのはその動きの連鎖が通常の振付のように振りの形を受け渡すというのではなく、ダンサーそれぞれの内的感覚の中から次々と新たな生み出されてきているように見えることだ。
今回参加している3人の女性ダンサー( 入手杏奈、北川 結、涌田 悠)のうち入手と北川については他の振付家の振付作品や自分自身の振付によるダンスも何度か見ているが、それぞれの個性は残しながらもダンサーとしては変容を見せて、これまでの作品で見たのとは全く違う「身体地図」ならでは動きになっている。それでいて、個別にひとりづつを見比べていくと動きやその組み立て方にはそれぞれに違いがあり、ある種の舞踏カンパニーのようにメソッド的な鋳型にはめることでそれを同一化しようとはしていない。
例えば冒頭近くの女性3人による群舞が典型だ。最初全員でエジプト絵画の人物みたいな平面的な姿勢で静止していて、その時には全員がほぼ似たような形から始まるが、その後の動きの連鎖は個人個人で異なる。ひとりひとりを見ていると明らかに個性の違いがはっきりと出ていて、群舞が踊られているというよりは同時並行的に3つのソロが踊られているようにも思える*1。しかし、それは全然バラバラというわけではなく、ある種の調和、統一感もしっかりと保持されているのだ
 方法論は全く異なり、したがって動きなどのアウトプットに「身体地図」と似たところはないが、個と全体の関係性などにウィリアム・フォーサイスのカンパニーの作品を連想させられた。
 フォーサイスのカンパニーの作品には個々の動き自体をフィーサイスがイチから振り付けたりしておらず、ダンサー個々の裁量にまかせているのに個々のダンサーがフォーサイス特有の訓練法により鍛え抜かれているために作品のどこを切りとってみても「フォーサイスの世界」としか形容のしようがないものがいくつかある。
 もちろん、この「Gold Experience」には音楽、美術、照明効果など多くの要素が組み合わされて成立しており、いわゆる即興の部分は少ない。

岩渕貞太 身体地図ダンス公演2019『残光|曙光』PV
額田大志の音楽、杉山至の美術もそれぞれがワンアンドオンリーの魅力を発揮している。美術という意味では舞台下手に大きな円形の穴がぽっかりと開いていて、そこに吸い込まれるようにダンサーが落下して消える場面にも驚かされたが、それ以上に驚嘆したのが後半部分で長い棒状の照明器具をダンサーが持ちながらソロで踊るところで、舞台奥にダンサーが行った時に初めてそこに水が張られていて、その水面に起こる波に照明が映りこみ、それが反射することで何とも言えないほど美しい光景が突如出現するシーンだ。これも非常に印象的で、杉山至の助言はあるとしてもこういうことができることにもダンサー、振付家にとどまらない岩渕の才気を感じた。今年見たダンスの中でベスト級なのは間違いない。

[振付・演出] 岩渕貞太

[出演] 入手杏奈 北川 結 涌田 悠 岩渕貞太

[音楽] 額田大志 [美術] 杉山至
[照明]川島玲子 [音響]許斐 祐 星野大輔 [舞台監督]河内 崇
[衣装]田村香織(HAReGI)
[宣伝写真]野村佐紀子 [宣伝美術]鈴木成一デザイン室 [宣伝映像]高橋萌
[制作]霜村和子 宮脇有紀

主催:岩渕貞太 身体地図
提携:公益財団法人 武蔵野文化事業団
助成:芸術文化振興基金
公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
協力:急な坂スタジオ

2020年11月19日(木)〜11月21日(土)

カラダに刻まれた経験の重層を掘り下げ、幾多の記憶を超えて踊られる、身体の考古学。

ダンサー・振付家の岩渕貞太が主宰するカンパニー
"岩渕貞太 身体地図"が、満を持して吉祥寺シアターに降臨!
気鋭のダンサー、入手杏奈・北川結・涌田悠の3名と共に、
独自の身体メソッド「網状身体」を元にした作品を創作し、発表します。


[岩渕貞太]
舞踏や武術、生物学、脳科学等のリサーチから、身体表現メソッド「網状身体」を開発、それを基底に作品を創造。2007-2015年、故・室伏鴻の舞踏公演に出演。舞踏は世界を先導する財産であると確信し、自身の解釈を重ねながらダンスの革新を目指す。カラダの内臓はココロの根源であり、鼓動、呼吸、音声はその表れ、これこそダンスだと考える。


BONUS 座談会 岩渕貞太のダンスのかたち

岩渕貞太 作曲:身体奏法/stick

Teita Iwabuchi 岩渕貞太 - amazing Butoh performance #1 | Museum of Human E-motions

simokitazawa.hatenablog.com

*1:構成上この部分の動きが緩やかであるのは私にとっては大きな意味があった。というのはダンスを見る視線は全体を漠然とみるだけではなく、個々のダンサーそれぞれにも向かうのだが、それが次に別のダンサーに移っていき、一通り全員見た後に次は全員の調和に目を向けるなど、視線の移ろいにこの緩やかさが助けとなっていたからだ。動きがこの以上早いか人数が多ければ全体⇔個の素早い反復以上のことは私の認識能力を超えてしまう。今気が付いたがこのことはアイドルを見る視線でも同じなのかもしれない。大勢のグループが苦手な理由はそこにあるかもしれない