下北沢通信

伊藤キム×山下残「ナマエガナイ」@横浜STSPOT

伊藤キム×山下残「ナマエガナイ」@横浜STSPOT

ST Spot 30th Anniversary Dance Selection vol.1
ジャーナリストになりたかった伊藤キムのヒストリーに山下残が着目した、
ダンサーによる時事放談『ナマエガナイ』。
国内外で上演を重ねてきた本作品が、初演の会場だったSTスポットに戻ってくる。

振付・演出 山下残
出演 伊藤キム

スタッフ
テクニカル・ディレクター:ラング・クレイグヒル 照明操作:江花明里

日程 2017年10月18日(水)〜19日(木)
18日(水)19:30
19日(木)14:00 19:30

伊藤キム×山下残「ナマエガナイ」@横浜STSPOTで観劇。2014年初演(表題は「PROFILE」)の際にはこれを「ダンス作品だ」と主張する山下残の説明に納得せず「このように言語テキストを多用する表現は普通に演劇なのではないか」と反論した記憶がある。山下は「(中西さんのように)こういうものを演劇という風に普通に見なす人は珍しい」というので、私は「(当時の)例えばマレビトの会も普通に演劇と思っているのでこれはそういうものとそれほど差がないのではないか」などと応えた。そこで私にとって興味深かったのはこれが演劇であるか、ダンスであるのかということではなくて、山下残がこれを「ダンスと呼びたいのだ」ということは分かったので、さてその場合のダンスというのはどの程度の意味的広がりを持っているものなのだろうということだった。
 さて山下残によると「作品内容は変わってない」ということのようだが印象はかなり違っている。
 表題の「ナマエガナイ」は伊藤キム山下残がそうだとされているコンテンポラリーダンスがジャンルとされているにもかかわらず、ジャズダンス、ヒップホップ、サルサ、社交ダンス、バレエなどダンスの種類とされているものの外側にあって、それ自体をこういうものだと名付けることができないということを一義的には示していると思われる。
 だがもう一方で、同じようにこの「ナマエガナイ」という作品が「ダンス」とも「演劇」とも「名指しできない何ものか」であり、だからこそこの表題なのではないかとも思われた。
演劇、ダンスの両方の領域にそれぞれ「ダンスのような演劇」「演劇のようなダンス」が数多く生まれる現象はここ数年より顕著なものになっているが、この作品はそうした作品群とは一線を画して、「ダンスのような演劇」でも、「演劇のようなダンス」でもなく、「ナマエガナイ」(名付けられない領域)であることを確信犯として目指しているように見えた。伊藤キムによるひとり語りやそれにともなう身体所作は一見ゆるやかでアドリブ的なものにも見えるが、実は山下残の手により厳密に演出、振り付けられたものであり、伊藤自身の生み出す身体言語をモデルにしているように見えてもダンサーの伊藤キムが通常即興で生み出すようなボキャブラリーとは明確に異なる。そういうところが山下残らしいといえるだろう。
 4年前の初演時にはダンサーである伊藤キムをキャスティングした演劇としていわゆるフィジカルシアター的なものの一変種と見えたが、周辺領域の作品が増えたことで逆にこの作品の特異性がくっきりと浮かび上がったように見えた。