米国の振付家・ダンサーであるジョディ・メルニック振付による小品2本をアートエリアB1 (京阪電鉄・中之島線「なにわ橋」駅コンコース内)で観劇した。これは年ごとに異なる海外のアーティストが約2週間、大阪に滞在しながら、関西のアーティストたちと共に作品制作を行う「大阪滞在制作シリーズ」の一環として行われた公演で、今回が2回目である。
昨年のアルカディ・ザイデス(イスラエル)に引き続き、今回は米国ニューヨークを拠点に活動するジョディ・メルニックが招へいされ関西の3人のダンサーとソロ・デュオの作品を創作した。
最初に上演されたのは伊藤愛(アンサンブル・ゾネ)による新作ソロ作品である。この日はアートエリアB1は奥の方に客席と舞台空間が設営されていたが、このソロ作品は2つの部分に分かれていて、最初の部分は舞台空間の方ではなく、入り口から少し入ったところの回廊状の空間で踊られ、グラウンドポジションの多い最初の部分のダンスを立ったまま取り囲むようにして見ることになった。少し踊った後でダンサー、観客がともに奥の舞台空間に移動してそこで後半の部分が踊られた。
伊藤愛はアンサンブル・ゾネの中心ダンサーで最近は時折、自らの振付によるソロ作品や即興も踊ることがある。しかし、この日見たムーブメントは基本的にはミニマルでシンプルな動きの連鎖でありながら、なめらかかつ柔らかなでたえまなく動き続けるような踊りで過去に見た伊藤のダンスとは明らかに違う印象を受けた。日本のコンテンポラリーダンサーはソロないしデュオの単位で本人が振付も担当するというタイプのものが多く、あるいはこの伊藤愛のようにカンパニーに所属して1人の振付家(伊藤の場合は岡登志子)の振付を踊るということが多く、そのため今回のように他人の振付をある程度以上のキャリアがある実力派のダンサーが踊るということはバレエ系のダンサーなどを除く限られるので、今回のように魅力あるダンサーがいつもと違う振付家の作品を踊るということはあまりなく、その意味ではダンサーにとっても観客にとっても貴重な機会だったと思う。
一方、黒子沙菜恵、京極朋彦によるデュオ「Fanfare」は彼女自身により2009年にニューヨークのザ・キッチンで初演され、高い評価を受けた作品の再演である。初演版ではジョディ自身が踊った作品だが、今回はそれを黒子沙菜恵が踊った。伊藤愛の踊ったソロ作品は動きにニュアンスがあってシンプルななかにも美しさが感じられたのだが、こちらの方はほぼ同じ単調な動きが厳密に規定された設計図のような指示に従って、複数回繰り返されるなどソロ以上にミニマルな作品。実際の「Fanfare」初演では表題の通りに巨大な扇風機のオブジェがあったり、映像が投影されたりして目先を変えたりしているのだが、今回の上演ではそれもないので正直言って集中力を持続して集中しにくいだった。アフタートークで分かったのだが、途中で音源として流れていてミニマルなノイズ音楽だと思っていた音は実はその美術として使った扇風機の音だったらしく、会場の都合上今回は照明などもなかったこともあり、もう少し完全な形で元の作品を見たかったと逆に思ってしまった。
こういう交流は参加した日本のダンサーにとっても貴重な機会ではあるが、それだけに一過性のものに終わらせないためには1年に1人一度だけではなく、継続した形での交流が必要ではないかと思った。