Monochrome circus「TRIPTYQUE 三部作」@アートシアターdB神戸
『Endless』
3/11以後の価値観の変動と揺らぎを、ダンスを通じて見つめ直す坂本公成と森裕子によるデュエット作品。逃れようの無い円環の中で果てしの無いコンタクトを続ける二人。音楽を元dumb typeの山中透が担当。
- 演出:坂本公成
- 出演:坂本公成+森裕子
- 音楽:山中透
- 照明:坂本公成+渡川知彦
- 初演:
- 「Festival Dance Contemporaine Danse d’Alleus」(カーン国立振付センター(仏)/2013年3月)
- 再演 :
- 「i-dance」(台北/2015年11月)
- 「アンサンブルプレイ」(アトリエ劇研/2016年8月),他
『夏の庭』(1998)
日本の夏を想いながらフランスにてレジデンスし製作した作品。
坂本公成と森裕子による初めてのデュエット作品。彼等のコンタクトの原型がここにある。今は亡き祖父の喪服を着て踊る坂本。瑞々しく陽炎のように揺らぐ森。夏の記憶はどこか死の匂いと結びついている。湯本香樹美による同名小説を合わせ読んでもまたよし。
- 演出・振付・出演:坂本公成+森裕子
- 出演:石原菜々子、伊藤彩、井上繭加、今井美帆、上良美紀、介志、坂尾菜里、巽由美子、永井ゆきこ、夏目香織、林南々帆、日向花愛、松田智子、山本和実
- [上演記録]
- 初演:L’etoile du Nord 劇場(パリ)/1998年9月
- 再演 :
- 「掌編ダンス集」(ロクソドンタブラック/2007年1月)
- 「公共ホールダンス活性化事業」(北広島市芸術文化ホール/2012年1月)
- 「HAZAMA」(和歌山市民会館/2016年1月)、他
『きざはし』(2006)
言葉になりようのない言葉、聞き取れない発声。150本のナイフ、テーブルの上と下の男女。身体による対話を重視してきた坂本公成と森裕子による対話のない対話。コンタクトの極北。2006年の初演以来海外を含め多数の上演を数えるモノクローム・サーカスの代表作の一つ。
- 演出・振付:坂本公成+森裕子
- 出演 : 山本和馬+中間アヤカ
- 舞台美術:坂本公成+高室久志
- 衣装 : 堂本教子
- [上演記録]
- 初演:
- 「Gala Performance」(京都芸術センター/2006年6月)
- 再演 :
- 「踊りに行くぜ!!vol.8」(札幌/前橋/2007年10月)
- 「Monochrome Circus アジア・ツアー」(パトラバティー劇場(タイ)/2008年11月)
- 「Festival Dance Contemporaine Danse d’Alleus」(カーン国立振付センター(仏)/2010年3月
- 「Full Moon Dance Festival」((フィンランド)/2011年7月)、他多数
Monochrome circus(主宰:坂本公成)は京都を拠点に「身体との対話」をテーマに活動を続けてきたカンパニー。1990年の結成以降、国内外で活動し、数多くの作品やダンサーを輩出してきた。今回の公演では[坂本公成+森裕子]のデュオという最小ユニットに立ち戻り、この20年間に上演してきた時代も背景も異なる3つのデュオ作品を通じ、作品制作の変容を回顧するとともに、若いダンサー[中間アヤカと山本和馬]に振付の委譲を行い、作品を次世代に継承していくことも試みた。
最初の作品「Endless」は坂本公成と森裕子のデュオ作品。「Festival Dance Contemporaine Danse d’Alleus」(カーン国立振付センター(仏)/2013年3月)で初演された。初見と思い見ていたのだが部分部分にどことなく既視感がある。変だなと思いブログ内検索で調べると、京都アトリエ劇研で一度上演を見ていた*1ことに気がついた。以下がその時の感想。
1本目の「Endless」が坂本公成+森裕子のデュオによる劇場向け作品の再演。元ダムタイプの山中透が音楽を提供。もともとはプロセミアムタイプの客席配置を前提として創作され、初演された作品であったが、今回は相撲の土俵のように円形のアクティングエリアを二重の円形の客席が取り囲むような配置で再構成した。
Monochrome Circusはダンサーのソロ、デュオによるレパートリー作品を複数持っていてもそういうものの1本。「カーン国立振付センター」主催の「Festival Danse D’ailleurs」が初演。初演ではどうしたのか不明だが、円形の舞台作りにした今回は坂本と森が正面にグラウンディングで向きあい、上下を入れ換えながら、反時計回りに回転していった。山中透のノイズ系の音楽のはじまりとともにすでに作品はスタートしているが、
ほとんど暗闇の中で最初は何も見えない。時間の経過とともにおぼろげに何かがうごめく姿が垣間見え、次第に照明が明るくなってくると先に書いたような動きを2人がしていたことが初めて分かる。しかし、2人のうち男性の坂本の方は照明が明るくなった後もずっと目を閉じ続けていて、最後に床に仰向けになったままで、手足を伸ばして森をリフトしてもその目は開くことはない。復興しても心は暗闇に閉ざされているという隠喩であろうか。
震災後、坂本は三好達治の詩「灰が降る」を引用しながら反原発への強いメッセージ性を感じさせる「HAIGAFURU / Ash is falling」を創作しているが、この「Endless」もポスト3.11の日本を象徴させる作品ではある。ただ、こちらの方は抽象度が高く、「HAIGAFURU」にこめたような具体的なメッセージ性はない。デュオ作品としては過去に製作された作品と比べれば動きの種類、数も限られていて、少し物足りない印象を受けてしまうのも確かなのだが、シンプルに震災後の心情を提示したらこうなったということなのだろう。
京都アトリエ劇研での上演はわずか2年前のことだが、その時点ではこの作品を震災と原発事故との関連において捉えている。今回は少なくとも昼夜2度の上演を見たリアルタイムの印象ではそういう問題を想起することはほぼなかった。むしろ、技法的な面ではコンタクトインプロにおいてダンサー同士が身体を預けあうことで生まれるリフトの多種多様な変化に目が行き、コンタクトインプロから生まれたダンステクニックの方法論という面についていえばこれまでの手法の集大成的な作品というのを感じた。
Monochrome circusはいわゆるコンタクトインプロビゼーションというダンス技法の日本での紹介者として第一人者としても知られる。それで誤解している人が時折いるようだが、注意しなくてはいけないのは彼らの作品はほとんどが巧緻な振り付け作品として製作されるものだ。インプロビゼーション(即興)の要素はほとんどない。 ただ、ダンス作品を構築するにあたりコンタクトインプロによる手法は数多く活用される。
「Endless」は冒頭2人が地面に寝た状態から始まるが、ほとんどの瞬間において、2人のうちどちらか(大抵は森裕子)がもうひとりの身体の上にあって長い間フロアに直接接触することはない。しばらくすると坂本が上半身を起こすが、森は坂本の身体の上にいるままで体勢を変えていく。それは立ち上がった後は変形リフトのようになるのだが、次々とリフトの位置を変えながら2人の体勢は静止することなく変化し続けていくのだ。この2人の身体の動きは寸分の狂いも許されぬような微妙なバランスにおいて成立しており、ここにはいっさい即興が介在する余地はない。
彼らが使用する技法は西洋のコンタクトインプロを起源としたものではあるが、通常のコンタクトインプロが人間の身体同士が接触(コンタクト)して、互いに相手に身体を預けていくことで生まれるコミュニケーションのようなものを根底としている。これに対し、コンタクトの対象を人間以外の「モノ」にも拡大していく独自のコンタクト技法を発明し、それをもとに作品を制作していることだ。そのため、コンタクトの対象として椅子やテーブルのような家具や場合によっては古民家そのものに拡大。今回上演される3作品のうち海外での上演例も多く、カンパニーレパートリーの代表作といっていいのが「きざはし」だが、ここではテーブルの上と下に2人のダンサー(上が女性ダンサー、下が男性ダンサー)がいて、それぞれテーブルと接触しながら動く(踊る)がこの2人が直接接触するということはないのである。
*1:「アンサンブルプレイ」(アトリエ劇研/2016年8月)