下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

劇団チョコレートケーキ「熱狂」@池袋・東京芸術劇場

劇団チョコレートケーキ「熱狂」@池袋・東京芸術劇場

【キャスト】※五十音順
『熱狂』
アドルフ・ヒトラー 西尾友樹
リヒャルト・ビルクナー 浅井伸治
(以上、劇団チョコレートケーキ)

ヨーゼフ・ゲッペルス 青木シシャモ(タテヨコ企画)
エルンスト・レーム  大原研二(DULL-COLORED POP/TOHOKU Roots Project)
グレゴール・シュトレッサー 佐瀬弘幸
ヘルマン・ゲーリング  中田顕史郎
道井良樹(電動夏子安置システム)
ハインリッヒ・ヒムラー 山森信太郎(髭亀鶴)
ヴェルヘリム・フリック 渡邊りょう(悪い芝居)

 アドルフ・ヒトラーを中心に若きナチス幹部らを描いた群像劇。ミュンヘン蜂起が失敗に終わり、罪びととして裁かれる法廷での裁判から始まり、大衆の圧倒的な支持を得ながらナチスが政権を獲得していくまで描かれる。独裁政権というのは往々にして国民の熱狂に支えられて誕生する。
 ヒトラーらの演説の際のパフォーマンスやレトリック、さらにいえばファッションや立ち居振る舞いその後の歴史的な経緯を知ったうえで見れば「あのナチス」」ということになるが、彼らには一般のドイツ国民からすれば惹かれていくのがおかしくない魅力もあったことがこの舞台を見ると感じられる。
 ナチスドイツの引き起こした最大の罪であるユダヤ人の虐殺(ショア)は今回2本立てで上演されたもう1本「」で描き出されるが、この「熱狂」だけを見るとドイツ復興の理想に燃える彼らのどこが間違ったのかということは判然としない。ちょっとした勇み足に過ぎないなどと見えかねないのが恐ろしいところだ。

青年団リンク キュイ「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」@小竹向原・アトリエ春風舎

青年団リンク キュイ「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」@小竹向原・アトリエ春風舎

作:綾門優季青年団) 演出:得地弘基(お布団/東京デスロック)

この世には、決して受け入れられないひとがいるということ。
決して近寄ってはいけない場所があるということ。


ある日、夜の公園で突然起こった無差別殺人事件。誰かを狙った犯行というわけでもなく、その日、たまたま犯人に出くわした人物という共通点しか被害者たちには存在しない。悪い人物も良い人物も、等しく殺されている。マスコミはそのような事件を起こした動機を必死に探ろうとするが、最近も遠い昔も、何も出てこない。家庭環境に原因も特になさそうだ。その事件を目撃した市民は、あの犯行が何の動機もないものだということを確信していたが、それを証明する術はなく、ただ沈黙した。


出演

大竹 直(青年団) 岩井 由紀子(青年団) 西村 由花(青年団) 矢野 昌幸(無隣館)
井神 沙恵(モメラス) 中田 麦平(シンクロ少女) 船津 健太 松﨑 義邦(東京デスロック)
スタッフ

照明:黒太剛亮(黒猿) 音響:櫻内憧海、渡邉藍
映像:得地弘基(お布団/東京デスロック) 舞台監督:篠原絵美
舞台美術:山崎明史(デザイン事務所 空気の隙間)  衣裳:正金彩(青年団
演出助手:三浦雨林(青年団/隣屋) 制作:谷陽歩

総合プロデューサー:平田オリザ
技術協力:大池容子(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

公園で突然起こる無差別連続殺人事件、教室への連続射殺犯人の乱入、喫茶店で起こる大量毒殺、バスジャック犯による運転手も含む乗客全員射殺、爆死……。
 突然事件が起こり、そこにいる登場人物はあれよあれよと全員が死んでしまう。綾門優季の新作は立て続けに起こるそんな暴力的な場面の連鎖で始まる。
 舞台下手には「1-1」という謎の数字が映写されている。全員が死に暗転すると次の場面に移り、数字は「2-1」「3-1」「4-1」と変わっていく。どうやらこの数字は場面のカウントを表しているようだ。
 これらのシーンを立て続けに見せられて最初何が起こったのかがまったく分からずに混乱させられた。暴力的な場面はあるときは舞城王太郎の小説やともに漫画で後に映像作品にもなった「GANTZ」や「ジョジョの奇妙な冒険」などを彷彿とさせる。どことなくリアルではなく絵空事めいた感覚があるのだ。
この奇妙な暴力的場面は感情移入できず、物語の世界に入って行きにくい。殺人のシーンが続くことで最初のうちはそれなりの刺激があっても、バイオレンス系のゲームや映画のようにすぐにそれには慣れてしまう。時には退屈も感じ始まる。
 冒頭に挙げた4つのシーンが終わった後で暗転があり、舞台下手に提示された数字が「2-2」となると舞台は一番最初の公園の場面に戻っている。どうやら、この世界はループしているようだという構造的な仕掛けが見えて出してきて以降は俄然面白くなってくる。物語の主眼が登場人物が他の誰かを殺すというような出来事そのものではなく、いかにしたら殺人の連鎖によって引き起こされている(らしい)この出来事のループから離脱して抜け出すことができるのかということに対する試行錯誤に重点が移っていくからだ。
 これは東浩紀が考えていたような典型的なループ構造のゲーム的リアリズム
*1の世界ではないだろうか。ただ、ここには少なくとも4つの世界があるので、全体の構造はなかなか複雑。主人公(というか視点人物)は登場人物のうちの男のひとりで、なんとか連続殺人を阻止することでこのループから抜け出そうともがくがなかなかうまくいかない。
 ゼロ年代あるいはポストゼロ年代(2010年代)にはこれに類似したようなループ構造のゲーム的リアリズムの作品がかなり多く作られた。
 例を挙げていけばアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のほぼ同じループを8回繰り返す「エンドレスエイト」と呼ばれる部分。アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」も類似するループの構造を持っている物語である。ただ、そうした物語とこの「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」が決定的に違うのは先述の物語にはこのループの外側、つまり、入れ子の外の描写があり、それが小説でいう地の文のような役割を果たして、なぜこのようなことが起こるのかと言う世界全体の構造のなかでループの意味が解き明かされるのだが、この芝居で提示されるのはループの中の世界だけなので、ループ構造全体を客観的に解き明かすような場がないのである。
 ただ、実はひとつの仕掛けはあり、それは視点人物と思われていた男が最後に登場人物のひとりにすぎないと思っていた女が視点人物の座を乗っ取るような形になって物語は一応終わる。
 そしてこれだけだとその女が実は視点人物だったということのようなのだが「本当にそうなのか」が誰も確定できないような一種の開かれた構造になっているようで、確信は持てないのだ。
 本当なら戯曲を読んで確認したいところであったが、販売はしていなかった。後、何回かは観劇の機会を持てそうなのでそのあたりを確認してみたい。

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ももいろクリスマス 2017 ~完全無欠のElectric Wonderland~ 埼玉公演@さいたまスーパーアリーナ

ももいろクリスマス 2017 ~完全無欠のElectric Wonderland~ 埼玉公演@さいたまスーパーアリーナ

 「ももいろクリスマス」はももいろクローバーZが毎年クリスマスの時期に開催しているライブ。今回は8回目でこれまでもその1年を総括するような意味合いを持つライブとして開催されてきた、ただ、一昨年はスキー場でのライブ、昨年はクリスマス曲を集めたアルバム発売に合わせた公演と企画色も強く、場所柄凝った演出が難しかった。

 本当はさいたまスーパーアリーナでやりたいところだが、クリスマス時期のSSAはやりたい団体が多く、しかもももクロの動員力とキャパから言って本当は複数日取りたいところだった。この条件では会場確保が難しいため、これまでは代替になる会場の開拓に向けてだれも使ったことのない厳冬期の西武ドーム(そもそもドームといっても開放型である)やスキー場と試行錯誤を繰り返してきたが、今回は発想を変えて、時期を前倒しにしての単日開催、しかも大阪城ホールを大阪会場として確保することで何とか公演回数を2回にして、SSAに帰ってくることができたのだ。

セットリスト全体を振り返ってみると新旧の曲が具合よく取り混ぜられていてとてもバランスのとれたものだったという印象だったのだが、終了後確認してみて驚いたのは昨年発売されたクリスマス曲アルバムに収録されていた曲は昨年同様歌っているし、さらに今回のための新曲2曲、山寺宏一夏菜子のデュエット曲、直近のシングル曲3曲と昨年以上に縛りが多いセットリスト。実は昨年はクリスマスアルバム曲を全曲歌ったためにセットリストの自由度が低く、窮屈な印象もあったのだが、今年のももクリはそういうマンネリ感はいっさいなかった。

今回の特徴はバンド編成をいつものダウンタウンももクロバンド(DMB)ではなくて、元カシオペアのドラマー、神保彰によるドラムとシンセドラムによりすべての楽器の音色をひとりで演奏するという「ワンマンオーケストラ」と宗本康兵率いるアコースティックカルテットが参加。一緒に演奏するというのではなくて、それぞれが合う楽曲を担当するという形をとった。DMBがいつもの形で参加しなかったのは武部聡志音楽監督をつとめるFNS歌謡祭にほとんどのメンバーが参加していたためだが、結果的には今回の「ワンマンオーケストラ」、アコースティックカルテットとの共演は近年のももクロの音楽的な対応力の高さを見せ付けることになった。

 中でもももクロのことは置いておくことにしてもその圧倒的な演奏力に唖然とさせられたのは神保彰。なかでも凄かったのが「Neo STARGETE」。この演目といえば百人以上の合唱隊を背後に圧巻のパフォーマンスと展開した国立競技場のが非常に印象的で、そのせいもあってかあまりやられなくなっている感があったが、前奏となっている「カルミナブラーナ」をひとりで演奏したのには驚嘆させられたうえにそれを受けて登場したももクロ5人のパフォーマンスも引けをとらないもので、この日のパフォーマンス全体でも白眉といえるものだった。

 この曲だけではなく、インステュメンタルで演奏した「さらば愛しき~」から「Neo STARGATE」「Chai Maxx ZERO」「BLAST!」と続くブロックはドラムの分厚い音圧にももクロメンバーそれぞれの歌唱が拮抗していくようで「いまのももクロはここまで来ています」をモノノフの前でまざまざと見せ付けるようなパワフルさを見ることができた。

 この日のもうひとつの見せ場はアコースティック編成の宗本カルテットの演奏によるUnplugedのブロック。MVTUnplugedのライブやももいろフォーク村、杏果、れにのソロコンを加えてもいいと思うが、シンプルなアコースティック楽器だけの演奏で歌声そのものをきっちりと聞かせるような機会が増えてきている。以前からそういうパフォーマンスは時折はあったが、転機になったのは武部聡志のピアノだけの演奏で披露した太宰府天満宮(男祭り)での「灰とダイアモンド」のパフォーマンスだと思われるが、この日披露した「白い風」「灰とダイアモンド」「空のカーテン」といった楽曲はボーカルグループとしてのひとつの到達点を示したものであり、ももクロのことを相変わらず「下手」とディスっている人たちに見せつけてやりたいほどのものだった*1


音楽の神様 神保彰


 ももいろクリスマスのもうひとつの目玉はももクリ限定シングルによる新曲の発売・披露だが、今回は2曲が昔風の言い方をすれば両A面。

 ライブで最初に披露された新曲「天国の名前」は、戦後を代表する作詞家であった阿久悠の未発表(楽曲としてはということ)の詞にももクロ曲作曲ではヒャダインと双璧といえるNAKARAKIが曲をつけた。もちろん、直接の関係はないわけだが、亡くなった人間に呼びかける歌詞は現時点で聞けば突然逝去してしてしまったエビ中のりななんのことを想起せずにはおられぬだろう。曲自体は今後長い間その時々の思いを胸に歌いついでいくべき楽曲であろうし、ピンクレディーキャンディーズといったアイドルにも楽曲を提供していた阿久悠氏の詞を著作権保護者の了解を得てもらいうけることができたということはももクロのこれまでの活動実績が認められたことだと素直に喜びたい。

 詞の話を聞いたときに次に思ったのは「誰が作曲者なんだろう」ということだったのだが、それがNARASAKIだったというのも納得の選択。自分が選ばれたことの意味をおそらく考えながら、たいていの人がバラード曲だろうと思う詞にあえてロック調のギターサウンドをつけたNARASAKIの矜持にも拍手をしたい。
一方、清竜人作詞作曲による新曲「ヘンな期待しちゃ駄目だよ…?♡」は佐々木彩夏&ももメイツのクレジット通りのあーりん曲だが、あーりんのキャラクターを活用した楽曲としては初見の印象では、どうしてもヒャダインによる強烈な楽曲群と比べてしまうこともあり、やや線が細い感じが否定できないものであった。 今回はトロッコを移動しながらの楽曲となったことがそういう印象を強めたかもしれないので、歌いこなせばそういう印象は薄まることはあるだろうが、「メリークリスマス メリークリスマス」と曲中で何度も唱和されることもあって、クリスマスライブ以外では歌いにくいだろうというのも少し気になった。
 この日は声優、山寺宏一が登場しアニメ映画「かいけつゾロリ ZZのなぞ」の主題歌でもある「夢は心の翼」もライブとしては初披露されたが、この歌の夏菜子は声が本当に伸びやかで、魅力的だった。この歌も地上波テレビを含め今後いろんなところで披露してもらいたいところだが、相手も多忙な声優であり、スケジュール的に厳しいのが残念である。今後、披露できそうな場としては来年になってしまうがももクロも参加するアニメフェスぐらいだろうか。


セットリスト
M1:何時だって挑戦者
M2:LOST CHILD
M3:BIRTH Ø BIRTH
M4:真冬のサンサンサマータイム
M5:僕等のセンチュリー
M6:天国の名前
M7:Wee-Tee-Wee-Tee
M8:モノクロデッサン
M9:きみゆき
M10:Neo STARGATE
M11:Chai Maxx ZERO
M12:BLAST!
M13:白い風
M14:一粒の笑顔で…
M15:境界のペンデュラム
M16:DECORATION
M17:サンタさん
M18:猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」
M19:SECRET LOVE STORY
M20:ヘンな期待しちゃ駄目だよ…?♡
M21:夢は心の翼 (百田夏菜子山寺宏一)
M22:行くぜっ!怪盗少女
M23:灰とダイヤモンド
M24:白金の夜明け
アンコール
EN1:泣いちゃいそう冬
EN2:空のカーテン
EN3:今宵、ライブの下で

*1:もっともその手の輩はどんなパフォーマンスを見ても下手と言い続けると思われるのでむしろ黙殺すべきなのだが

劇団チョコレートケーキ『あの記憶の記録』@池袋東京芸術劇場

劇団チョコレートケーキ『あの記憶の記録』@池袋東京芸術劇場

【キャスト】※五十音順

『あの記憶の記録』
岡本篤
浅井伸治
(以上、劇団チョコレートケーキ)

川添美和(Voyantroupe/(株)ワーサル)
寺十吾(tsumazuki no ishi)
藤松祥子(青年団
水石亜飛夢
吉川亜紀子(テアトル・エコー
吉田久美(演劇集団円

【スタッフ】
脚本    古川 健(劇団チョコレートケーキ)
演出    日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
舞台美術  鎌田朋子
照明    和田東史子
照明操作  松田桂一(松本デザイン室)
音響    佐久間 修一
音楽    加藤史崇
衣装    藤田 友
舞台監督  本郷剛史
演出助手  和田沙緒理
宣伝美術  R-design
写真    池村隆司
撮影    神之門 隆広(tran.cs)
Web    ナガヤマドネルケバブ
制作    菅野佐知子(劇団チョコレートケーキ)
制作協力  塩田友克
企画・製作 一般社団法人 劇団チョコレートケーキ

アウシュビッツの悲劇を描いたというよりはアウシュビッツを生き延びた生存者が今も抱える「あの記憶」に対するトラウマとそれゆえの現在のイスラエル国家に感じている違和感を描き出している。
 演劇としては非常によく出来たものではあるが、自分たちの身にではなくまったく離れた場所に出来た出来事に演劇がどのようにアプローチしていけるのだろうかということに対して、居心地の悪さを感じざるを得ない。
 それはどういうことか。この「あの記憶の記録」では一見直接的にアウシュビッツで起こったショアのことを描いているように見えて、実は直接は書いていない。
 描かれるのは父親のそこでの記憶とショアの記憶を記録する活動をしている息子、娘が通学している女性教師に対して、父親が語る「あの記憶の記録」である。

ブス会*ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』@こまばアゴラ劇場

ブス会*ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』@こまばアゴラ劇場

脚本・演出:ペヤンヌマキ


谷崎潤一郎の『痴人の愛』を、現代に置き換え男女逆転させて描くブス会版『痴人の愛』。
仕事人間で40歳独身女性の“私”は男性に対して独自の理想を持つようになる。それは未成熟な少年を教育して自分好みの男に育て上げるというもの。ある日“私”は美しい少年ナオミと出会い、「小鳥を飼うような心持」で同棲を始める。人見知りで垢抜けない少年だったナオミは次第にその美貌を利用して奔放な振る舞いを見せるようになり“私”はナオミに翻弄され身を滅ぼしていく…。


出演

安藤玉恵 福本雄樹(唐組) 山岸門人 / 浅井智佳子(チェロ演奏)

スタッフ

原作:谷崎潤一郎痴人の愛
美術:田中敏恵 照明:伊藤孝(ART CORE) 音響:中村嘉宏
舞台監督:村田明、土居三郎 演出助手:奈良悠加 小道具:小林麗子 
イラスト:Cato Friend 宣伝美術:冨田中理(Selfimage Products) WEB:rhythmicsequences  舞台写真:宮川舞子  
制作:半田桃子、横井佑輔 制作助手:榎本靖、岩田博
制作協力:木下京子 黒澤友子 企画協力:山田恵理子


現代に置き換えて、男女を入れ換えてはいるが谷崎潤一郎痴人の愛」の持つ気品のようなものはうまく残している演出がみごとだった。劇伴音楽をチェロの生演奏にしたのも利いていた。














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<生誕○周年記念ブス会*とは>

脚本家・演出家・演劇ユニット「ブス会*」主宰のペヤンヌマキが、同い年の女優・安藤玉恵と立ち上げた新しい舞台のシリーズ。「生誕40周年ブス会*」を皮切りに、節目の年に公演を行っていく予定。



痴人の愛』リーディング公演(撮影:宮川舞子)


出演

安藤玉恵 福本雄樹(唐組) 山岸門人 / 浅井智佳子(チェロ演奏)

スタッフ

原作:谷崎潤一郎痴人の愛
美術:田中敏恵 照明:伊藤孝(ART CORE) 音響:中村嘉宏
舞台監督:村田明、土居三郎 演出助手:奈良悠加 小道具:小林麗子 
イラスト:Cato Friend 宣伝美術:冨田中理(Selfimage Products) WEB:rhythmicsequences  舞台写真:宮川舞子  
制作:半田桃子、横井佑輔 制作助手:榎本靖、岩田博
制作協力:木下京子 黒澤友子 企画協力:山田恵理子

ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 × チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション|レビュー&公開討論会

ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 × チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション|レビュー&公開討論会

11月14日に開催され大きな反響を呼んだ、ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾「岡田利規についての評論を執筆せよ」を受け、
『三月の5日間』リクリエーション公演とのコラボレーションが決定。
受講生によるレビューの公開、それを踏まえての公開討論会チェルフィッチュのホームグラウンドSTスポットで開催
します。
当日はKAAT公演(18:00)とのハシゴも可能です。ぜひご参加ください。<レビュー>
12月6日(水)チェルフィッチュ20周年WEBサイトにて公開
https://chelfitsch20th.net/

<公開討論会>
日時 : 12月10日(日)13:30~16:30
場所 : STスポット
司会進行 : 佐々木敦

佐々木敦東浩紀両氏が主催する「批評再生塾」の塾生らによるチェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーションを巡る公開討論。特定の演劇作品についてこれほど多数の論者により論議が交わされて、様々な論点が論じられたということ自体画期的なことではないだろうか。議論自体の論点には個人的には拱手しかねる部分も当然あったが、佐々木敦氏も同席しているということもあり、同氏のご高説を承るということになりかねないところをこういう風な活発な議論が行われたという意味でも刺激的な企画であった。
marron-shibukawa.hatenablog.com

chelfitsch20th.net

山田せつ子ソロダンス『青空 その窪み』@三鷹SCOOL

山田せつ子ソロダンス『青空 その窪み』@三鷹SCOOL

出演 山田せつ子

日程
12月8日(金)19:30
12月9日(土)15:00

料金 2,500円(予約のみ)

山田せつ子ダンスソロ@SCOOLの第二弾、『青空 その窪み』です。不可視の冒険を携えて、白い空間に招きいれるもの、訪れるもの、観客の皆様とその時間を楽しみたいと思います。ご来場お待ちします。

シベリア少女鉄道 vol.29 <シベリア劇まつり>『残雪の轍(わだち)/キャンディポップベリージャム!』@池袋サンシャイン劇場

シベリア少女鉄道 vol.29 <シベリア劇まつり> 『残雪の轍(わだち)/キャンディポップベリージャム!』@池袋サンシャイン劇場

作・演出 土屋亮一

出演 安本彩花私立恵比寿中学) 中島早貴
篠塚茜 吉田友則 藤原幹雄 風間さなえ
加藤雅人(ラブリーヨーヨー)  浅見紘至(デス電所)小関えりか 濱野ゆき子 ほか

観劇をした後で作品の内容について触れると「ネタばれ」になってしまうので、見る前にちょっとした内容の予想を少しだけ書いておこう。とはいえ内容はあまり予想できないのではあるが、 <シベリア劇まつり> とあるのがひとつのヒントにはなるかもしれない。
 その後の表題が『残雪の轍(わだち)/キャンディポップベリージャム!』とダブルタイトルになっているというのは明らかに「東映まんがまつり」などを思わせる2本立てということだろう。
 さらにいえばそのうちの1本「キャンディポップベリージャム!」*1シベリア少女鉄道というよりは土屋亮一が私立恵比寿中学と一緒にやっている「シアターシュリンプ」の公演を思わせるところがある。今回は安本彩花私立恵比寿中学)を客演に迎えていることもありその辺を意識しての仕掛けがあるかもしれない。
  もっとも単なる2本立て興行などをシベリア少女鉄道がするとは思えないので、たぶん、この2本は何かの形で関連していて、そこにシベ少らしいネタが仕込まれているのではないか。 
(以下ネタばれ注意。ただ、シベリア少女鉄道の作風を配慮してミステリのトリック明かしのようなネタばれは避けます)










 「残雪の轍(わだち) 」は忍者の里の物語。運命に引き裂かれた二人の娘(姉妹?)として安本彩花私立恵比寿中学)、中島早貴(ex℃-ute)が可憐な演技を見せる。一方、「キャンディポップベリージャム!」は大学(?)の女子寮のロビーを舞台に引き起こされるドタバタ劇。「シアターシュリンプ」の公演を思わせるところがあるだろうという当初の予測はそんなに間違っていないといえるが、それでもその後の展開が予測の遥かに上をいくのが、シベリア少女鉄道の真骨頂であろう。
 今回の舞台を見てあらためて思ったのは土屋亮一はやさしいのだなということを再発見させられたこと。
飛び道具的なことを躊躇なくやらせるという意味では客演の2人(現役アイドルと元アイドル)にも他の俳優と区別なく、やらせるということはあるが、逆に舞台も視野に入れている若い才能を意識して、演技経験があまりないであろう安本彩花中島早貴が出てくる冒頭部分など相当以上に丁寧に演出、演技指導をしてあげているのではないだろうか。
 シベリア少女鉄道を楽しむファンとしては別の見方もあろうが、彼女たちの視線に立てばこの舞台での演出の要求にこたえることができたら、普通の舞台の4~5本に出演したぐらいの演技経験が得られる。
もちろん、作家・演出家としては彼女たちがいい演技をしてくれれば作品的にもいい効果を生むのだという見方もできるのだが、この劇団のこれまでの上演を考えるとそういうところは手を抜くということも明らかにあった。そういう意味では今回の土屋には彼女たちを俳優としても育てたいという気持ちがあるなと感じられたのだ。
 そして、内容について少しだけ触れることにするとこの舞台はシベリア少女鉄道版のクリスマスストーリーなんだろうなと思った。そして、それはこの池袋サンシャイン劇場という公演会場にもすごく合っている。というのはこの劇場は演劇集団キャラメルボックスが長年ホームグランドとして使い続けてきた劇場でもあり、キャラメルといえば毎年クリスマスの時期にハートウォーミングなクリスマスの物語を上演してきた。
 クリスマスストーリーというのはディケンズの「クリスマスキャロル」に代表されるようにクリスマスの夜にとても奇跡的な瞬間が訪れるというモチーフの物語のことだ。
 舞台を見て「そんなわけないだろう」と言いたくなる人の気持ちも分からないわけではないが、今回のシベリア少女鉄道の作品のキーモチーフのひとつがクリスマスツリーであったことは確かだ。そして、そのツリーを巡って、特別な奇跡が起こるという物語であったことも間違いない。しかも、それが上演されたのが池袋サンシャイン劇場だということになれば、シベ少の新作は演劇集団キャラメルボックスへのオマージュだと指摘してもどこがおかしいだろうか*2
(ねたバレレビューの公演終了後ネタバレ)
 「また逢おうと竜馬は言った」は心の師匠(背後霊のように主人公についている)に坂本竜馬を持った主人公の物語なのだが、ここも別の作品のネタばれになってしまうが、主人公には永遠のライバルがおり、その2人の対決シーンでライバルも主人公同様に新撰組土方歳三を心の師匠としているということが分かるという話で、このシベリア少女鉄道の「残雪の轍(わだち)/キャンディポップベリージャム!」では「残雪の轍」に登場する忍者の元夫婦が城にいる敵の当主を暗殺すると言って、最初のシーンから消えた後、いつの間にか学園ものである「キャンディポップベリージャム!」の学園ものの世界に入り込んできて、そちらの世界を侵食し始めるが、その行動がこちらの世界で喧嘩をして対立状態にある二人の女生徒の行動とシンクロしていく。この二重化した対立の構造が 「また逢おうと竜馬は言った」を私には連想させたのである。
 




 

*1:シアターシュリンプ 第一回公演「エクストラショットノンホイップキャラメルプディングマキアート」

*2:そういえばキャラメルボックスには「また逢おうと竜馬は言った」などいくつか時代劇の人気作品もあった。あれ、「竜馬」と「残雪の轍(わだち)/キャンディポップベリージャム!」ってそういえば…

うさぎストライプ『ゴールデンバット』(2回目)(作・演出:大池容子)@アトリエ春風舎

うさぎストライプ『ゴールデンバット』(2回目)(作・演出:大池容子)@アトリエ春風舎

大人になれない
大人のための
うさぎストライプ


ゴールデンバット

菊池佳南の新作一人芝居。

数十年前、アイドルになるために上京した女は、叶わなかった夢を追うように地下アイドルのライブに通い始める。そこで出会った一人のアイドルに、女は心を奪われていく。

*第2回いしのまき演劇祭 参加作品


『セブンスター』

2012年、2016年と上演を重ね、今回が再々演。
ガレージで1人、自転車を組み立てる男は、幼い頃に宇宙飛行士になりたいと思っていた。JAXAのロケット開発者を目指していた兄と共に宇宙を夢見た彼は、未だに捨てられない宇宙への憧れと、初恋の〈あの子〉の言葉を忘れられずにいた。

作演出の大池容子に菊池佳南になぜ地下アイドルの役を書き下ろしたのかと聞いたら、「彼女はもともとオタ芸のようなことをやっていたことがあるから」などと言っていたので、ハロプロか何かアイドルのファンだったことがあったのかと本人に確かめてみた。
 それで分かったのは菊池佳南は青年団に入る前に「バナナ学園純情乙女組」のメンバーとしてパフォーマンスに参加していた時期があり、バナナ学園が組織改変で「革命アイドル暴走ちゃん」に変わってパフォーマンス色を強めた*1際に「私は演劇がやりたい」とそちらには加わらず退団し、青年団に入ったということであった。
それがキャラクターを生かされて青年団リンク ホエイ「小竹物語」では怪談アイドルひふみん役に続き、この「ゴールデンバット」では昭和顔の地下アイドル・憂井おびる(元・梅原純子)とずっと以前に宮城県から東京に歌手志望者として出てきた「エイコ」の2役を演じている*2
 
 

*1:spice.eplus.jp

*2:正確に言えばそれだけではなく、「エイコ」の父母、妹、大学の先輩、純子のマネージャーなど数多くの役柄をたったひとりで演じ分けている。似たようなことを井上みなみもやっていたから、青年団の若手女優たちは異常に高スペックである。