下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

横浜ダンスコレクションコンペティションII・若手振付家(2日目)@野毛シャーレ

横浜ダンスコレクションコンペティションII(2日目)@野毛シャーレ

小林利那『鼈』
髙瑞貴『ひとごと』
加藤哲史『ぽつりと』
今枝 星菜『自分の目を舐めたい、と思ったことはありますか。』
岡﨑 彩音『cicada』
栗朱音『Quiet room』

最近いかに新しいダンス作家を見ることができていないのかという証明になって恥ずかしいのだが、今回横浜ダンスコレクションコンペティションIIで作品を発表する作家たちは全員が初めて作品を見ることになる。だから2日目を前にしても何の予想もできない。だから、逆にこの10人の中から今後その作品を継続的に見て応援したくなるような人が出てくればいいなと思っている。
 こういうことを書くと怒る人が出てくるかもしれないけれど私は最近、ももいろクローバーZというアイドルグループのことを追いかけているのだが、5人いるメンバーのうち「推し」だった有安杏果が卒業、事実上の引退を発表し大きなショックを受けて、いまだに立ち直れていない。
 私はアイドルファンでもなんでもないのでアイドルのライブの現場に出かけるのは初めてだったのだが、そのことにそれほど違和感を持っていなかった。というのはその前に10年ほどCRUSTACEA(濱谷由美子主宰)*1というダンスデュオユニットを応援していて、横浜ソロ&デュオやトヨタコレオグラフィーアワードにノミネートされるごとに当時は大阪に住んでいたのだが、横浜や東京まで出かけてきて応援していたからだ。実はももクロを応援してきた私の構えはこの当時のダンスへの気持ちとあまり変わらないのが、最近分かってきた。今年のコンペティションは推し候補となるような魅力的な作品を作る出演者は登場するだろうか。
 昨日の感想でデュオ作品を最近は見なくなっていると書いたが、 この日最初に踊られた小林利那『鼈』は女性同士のデュオ。実は昨日のデュオ作品でも冒頭で2人でひとりの上にもうひとりが乗り、ポジションをいろいろ変化させるようなことをやっていたが、実はこの日この後の別の作品でもそういうのがあったから最近の流行りなんだろうか。『鼈』はすっぽんのことで、ひとりがもうひとりの背中に乗り、すっぽんを形態模写するような動きを繰り返す。とはいえ、正直言ってそういうのは見ていてダンスとしてそんなに面白いということはないのだが、なぜそういうことをするのだろう。
 2人目の 髙瑞貴『ひとごと』も私にはよく分からない作品だった。冒頭から演者である高はゴリラの全頭マスクのようなものを頭からかぶっている。ゴリラといえば日本の舞台芸術では快快がやっているゴリラの着ぐるみを着て踊り、暴れまわるパフォーマンスがあるが、あれは自己批評的な諧謔もあって面白く見られるものに仕上がっているのだが、この人は真面目すぎるのかそういうユーモアはいっさいない。後半マスクをはずして踊るのだが、そこでの偏差もあまり有効には思われなかった。ゴリラのマスクは世間あるいは世界における疎外の象徴のようなものを意味させようと考えていたのかもしれないが、それなら同じマスクでももう少し選びようがあったのではないかと思ってしまった。
 3人目の加藤哲史という人はプロフィールを見てみると太田プロ所属のお笑い芸人ということで、どんな作品を出してくるのか期待したのだが、作品はそういう経歴とはまったく無関係なフォーサイス的な群舞作品だった。フォーサイス的といったのでは誤解を与える可能性があるが、8人のダンサーが出てきて、ユニゾンのようなものはほとんどなくて、それぞれバラバラの動きで激しく動き回る。感じたのは振付自体は悪くないかもしれないが、これはフォーサイスカンパニーとまで言わないがダンサーを相当以上に技量のある人を揃えないと本当の意味で振付を具現していることにならないのではないかということだ。この日のダンサーは個々の技量に差がありすぎて、振付の意図した以上にバラバラになっているように感じられたのだ。
  この日見てもっとも印象に残ったのは今枝星菜の「自分の目を舐めたい、と思ったことはありますか。」である。この種のコンペティションでソロは難しい。自分と作品が=になってしまいがちだからだ。そういうなかでこの作品での今枝は身体の極端な柔軟性やダンサーとしては意外と筋肉ばかりではないという自分の個性をうまく生かして生きているベルメール球体関節人形みたいなキャラを体現してみせた。
 2000年代ごろ活躍したコンテンポラリーダンサーに2002年「C◎NPEIT◎」で第1回トヨタコレオグラフィーアワード・オーディエンス賞を受賞した 天野由起子という人がいる。天野はダンス以外にデザイナーとしてキャラクターの開発も手掛けており、その中には名前を聞けば誰もが分かるようなものもあったが、そういうこともあってソロダンスでありながら自分をプロデュースしてキャラ化することに長けていた。今枝も現時点ではまだ天野にはおよばないが、自己プロデュース能力があり、この先どんな作品を出してくるかというのが楽しみな作品だった。
 岡崎彩音「cicada」は先述したこの日2つ目のデュオ。桜美林大学出身で木佐貫邦子の門下生出身。先に挙げたCRUSTACEAの濱谷由美子が木佐貫門下だった(本人は不肖の弟子で破門されていると言っていた)ため期待したのだが、前半部分は複雑な組み方を工夫しているが、基本的には先述した組体操、後半はユニゾンで元気よく踊るという風でちょっといただけない。こういうのを見るとCRUSTACEA、ほうほう堂がいかに洗練されていたかが逆に分かる。
 栗朱音『Quiet room』が一番評価に困った。椅子の上でずっと踊り続けるというのがアイデアといえばアイデアなのだが、多分、踊っているのがこの人でなければダンス作品としては凡庸だったと思われる。ところが作品が始まった瞬間に栗朱音というダンサーから目が離せない。日本人離れした身体能力に妖艶さを感じた。ダンサーとしての資質が素晴らしく、これがダンサーを称揚するダンスコンクールのような大会であればダントツで優勝するレベルだ。ところが先述したソロダンス=自分論からすれば、これは作品というよりは私たちが見ているのは「ダンサーとしての彼女」ではないのかと思わさせられる。とにかく、言えそうなの栗朱音という人は今後どういう進路を本人が選ぶにせよ、国際的に活躍するようなダンサーになれそうなスター的要素を備えている。彼女が踊るということがあるなら、ぜひそれを見たい。ただ、どちらかというとそれは振付家としてというより、ダンサーとしての評価だ。あくまで、個人的な希望だが、この人は自分の振付で踊るよりは世界的に活躍しているような振付家が振り付けた作品を見てみたい。






言わずもがなのことかなと思ったが、私が選ぶなら今枝星菜だろう。池田たっくんも悪くはないが、少しだけ既視感がある。ダンサーとしての個人賞でもあれば栗朱音なのだが。後非常に個人的にはロボットの子が好きだ。

横浜ダンスコレクションコンペティションII(1日目)@野毛シャーレ

横浜ダンスコレクションコンペティションII(1日目)・若手振付家@野毛シャーレ

斉藤 稚紗冬『みいむ』
小林 菜々『ニセモノ』
永野 百合子『まぐろ』
池上たっくん『捨てる』
髙宮 梢『なかりけり』
長岡 慧玲奈『しつらい』




審査員(五十音順)
伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団主宰・振付家・演出家・ダンサー)
ヴィヴィアン佐藤(美術家)
浜野文雄(新書館「ダンスマガジン」編集委員


昨年は結局1日目しかコメントできなかった。最終的な結果が出てからだとやはりコメントは出しづらいのが昨年分かったので今年は短くていいから私なりの評価を書いていきたい。ちなみに昨年は私の評価は審査員の出した結果と一致せず(笑)。まあ、この方がどうせ個人の見解だと好き勝手自由に書けるかも。でも普通の人(特に批評家)はそういうリスク背負わないからねえ。

初日よかったのは池上たっくんの「捨てる」だった。この種のコンペには珍しい男性2人女性3人のアンサンブル。今年から会場が赤レンガ倉庫の2階から野毛シャーレに替わり、柱もなくなり、天井も高くなった。あるダンサーがもうひとりのダンサーに力をかけるとそのダンサーが吹っ飛んでいき、天井を向いて人形に横たわるというような場面が多用されたりするのだが、広い空間でより迫力のあるパフォーマンスが可能になったが、そうした利点を存分に活用した。
ロボット少女を演じた小林菜々も魅力的であった。ただ、それは彼女がもともと持っているキャラや容姿を十分に活用したものであり、その愛らしさこそ作品の魅力の源泉だと考える。ダンスの振り付け自体にはいわゆるロボットダンスにはならない独自性はあるとしてもダンスコンペで評価するような作品なのかについて疑念が残った。ただ、パフォーマーとして魅力的で出演する舞台があればぜひ行ってみたいと思わせた。
高宮梢「なかりけり」は女性ダンサー2人によるデュオ作品。振り付けのムーブメントに強烈な個性があるわけではないが、2人が醸し出す柔らかな空気感に女性デュオ特有の魅力を感じた。
この作品を見ていて思い出していたのはこのコンペの前身の横浜ソロ×デュオコンペティションにはほぼ10年にわたり応援してきたCRUSTACEA(濱谷由美子)をはじめほうほう堂など魅力的なデュオユニットが活躍していたが最近はあまり見かけなくなった。それが今回この作品を見ていて改めて感じたのは「表現=自分」になりがちなソロと違い、作品の客観性がはっきりとしているし、それでいて個々の動きのディティールが分かりやすいデュオが好きなのだということだった。
  ただ、最後に残念な思いがしたのは作品の最後の部分で高宮がひとりで踊ったことだ。デュオが継続的なものであるならばしばらく追いかけて応援しようかなという気分にもなったのだが、あの終わり方からすると今回の作品はたまたま2人で踊っただけで、ペアが継続的なものというわけでもないのかもしれない。継続的な活動をしているデュオならばああいう終わり方はしないような気がする。
一方、斉藤 稚紗冬『みいむ』は典型的なソロダンス。冒頭しばらく見ただけでこの人が相当以上に卓越した身体能力を持つ優れた踊り手だというのは分かる。洋舞コンクールのようなコンペであれば上位入賞するのかもしれないが、振付作品として評価はしづらい。
  長岡慧玲奈『しつらい』も一定以上の技量を持ったダンサー3人による群舞作品でこういうものを高く評価する層の存在があることを否定できないが、それだけでは私には退屈と言わざるをえない。しかも、これはなぜこういう作品を選んだのかという選考過程にも疑問がぬぐいきれないが、これからどう展開するのだろうかと見ていたら作品が短くて展開する前に終わってしまった。これだと振付家としての才能を評価すること自体が困難なのではないか。
  さて、最後は永野百合子『まぐろ』。こういうものが選ばれているということ自体面白くはあって1日目最大の問題作かもしれない。とはいえ、言葉こそ使っていないが、私の基準からすればこれは演劇である。多摩美術大学の出身者だということもあって、被り物の「まぐろ」の着ぐるみや紙芝居などビジュアル造形のセンスには面白いところがないではないが、ダンスの振付・ムーブメント自体が新味がないのは厳しい。


simokitazawa.hatenablog.com

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モモンガ・コンプレックス プロジェクト大山 MOKK ダンス30s!!! シアターコレクション特別上演/トリプル・ビル(2回目)

モモンガ・コンプレックス プロジェクト大山 MOKK ダンス30s!!! シアターコレクション特別上演/トリプル・ビル(2回目)

プロジェクト大山『てまえ悶絶30s』(2006年初演)
 出演:三輪亜希子、長谷川風立子、三浦舞子、松尾有記、菅彩夏、加藤未来、辻滋子、古家優里
モモンガ・コンプレックス『勘違いの庭。』(新作)
 出演:北川結(Wキャスト)、白神ももこ(Wキャスト)、内海正考、土路生真隆
MOKK『Dum Spiro, Spero.』(2015年初演)
 出演:金子愛帆、亀頭可奈恵、郡満希、菅彩夏、手代木花野、村田茜

プロジェクト大山の公演。仕事の関係で途中からしか見られなかったのだが、一度目の観劇では群れとしか見えなかったユニゾンや体位法的な動きが個々のダンサーによって違いがあるというディティールが見えてきて面白かった。このカンパニーは一見簡単に見える動きにかなり強度のある動きが散りばめられていてそこが面白いと思った。

セミネールin東京・三鷹SCOOL 候補リスト

セミネールin東京・三鷹SCOOL 候補リスト

レクチャー&トークセミネール」を東京で再開。10月、1月と三鷹SCOOLでダムタイプの前音楽監督、山中透氏=写真下=をゲストに開催しました。現在それに続くプログラムを準備中なのですが、第2回となった1月20日開催分では思ったほどの集客ができず(1回目は参加者が30人近く集まったが、半分程度にとどまり赤字となってしまった)、今後について再考を迫られるはめになってしまいました。4月24日には第3回として「ダンスパフォーマンスとしてのアイドル Perfume×ももクロ×乃木坂 」を開催しますが、集客的に暗礁に乗り上げており、以後の開催が危ぶまれる状況です。
 とりあえず今後の候補をリストアップしてみましたが、「これなら行きたい」というようなのがあればコメントあるいはDMなどいただけると有難い。

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① ダンス×アート 源流を探る ダムタイプと音楽 ゲスト山中透 2017年10月16日
② ダンス×アート 源流を探る ダムタイプと音楽2 ゲスト山中透 2018年1月20日 
③ ダンスパフォーマンスとしてのアイドル Perfume×ももクロ×乃木坂 ゲスト木皮成(出演) 2018年4月24日
④ ポストゼロ年代演劇の新潮流(1) チェルフィッチュと身体 山縣太一 2018年5月29日
⑤ ポストゼロ年代演劇の新潮流(2) 青年団 平田メソッドと俳優 河村竜也 大竹直 7月1日
⑥ ダンス×アーツ ニブロール ゲスト 高橋啓祐・矢内原美邦 12月(出演了解済み 日時交渉中)

⑦ ポストゼロ年代演劇の新潮流 木ノ下歌舞伎 木ノ下裕一 11月(検討中)
⑧ ポストゼロ年代演劇の新潮流 青年団リンク キュイ 綾門優季 8月(出演了解)
⑨ ポストゼロ年代演劇の新潮流 玉田企画 玉田真也 9月
⑩ ポストゼロ年代演劇の新潮流 ホエイ 山田百次 10月(出演了解)
⑪ ポストゼロ年代演劇の新潮流 東京デスロック 多田淳之介 11月
⑫ ポストゼロ年代演劇の新潮流 サンプル 松井周 1月
⑬ ポストゼロ年代演劇の新潮流 悪い芝居 山崎彬 2月
⑭ ポストゼロ年代演劇の新潮流 ロロ 三浦直行 3月
⑮ 演劇×アーツ マレビトの会 ゲスト 松田正隆 (検討中)
⑯ パフォーマンスとしてのももいろクローバーZ レクチャー
⑰ 演劇とももいろクローバーZ ゲストなし レクチャー
⑱ ポストゼロ年代演劇とももクロ ゲストなし レクチャー
⑲ 演劇×アーツ 維新派と音楽 ゲスト 内橋和久 (検討中)
⑳ 2・5次元演劇と何か? ゲスト 西田シャトナー (検討中)

KUNIO TALK 001(中村壱太郎・茂山童司)

KUNIO TALK 001(中村壱太郎・茂山童司)

杉原邦生が、いま、会って話したい方をゲストにお招きし、毎回ここでしかできないお話を聴く新たな企画です。 第一回目となる今回は「古典演目を現代に上演すること」をテーマに、大蔵流狂言方の茂山童司さん、歌舞伎俳優の中村壱太郎さんをゲストにお迎えしてお送りします。


【出演】
杉原邦生

ゲスト
茂山童司
中村壱太郎

司会:九龍ジョー[編集者・ライター]

歌舞伎俳優の中村壱太郎狂言師の茂山童司をゲストに演出家の杉原邦生がトーク。内容は古典を現代に上演するにはどうしたらいいかというようなことだったが、刺激的で面白いものだった。
随所に「そうなんだ」という発言があったのだが 歌舞伎、狂言などの最大の強みはそれによって幼少の頃から訓練された俳優集団の存在であり、歌舞伎とは、そして狂言とは歌舞伎俳優、狂言の俳優によって演じられるものだということで声を合わせていたこと。
特に中村壱太郎が歌舞伎役者が歌舞伎と題して舞台に上げたものはどんなテキスト、演出だとしても歌舞伎になると言い切ったところに歌舞伎を担うものとしての矜持が感じられ、共感を覚えた。

モモンガ・コンプレックス プロジェクト大山 MOKK ダンス30s!!! シアターコレクション特別上演/トリプル・ビル

モモンガ・コンプレックス プロジェクト大山 MOKK ダンス30s!!! シアターコレクション特別上演/トリプル・ビル(1回目)

プロジェクト大山『てまえ悶絶30s』(2006年初演)
 振付:古家優里
 出演:三輪亜希子、長谷川風立子、三浦舞子、松尾有記、菅彩夏、加藤未来、辻滋子、古家優里
モモンガ・コンプレックス『勘違いの庭。』(新作)
 振付:白神ももこ
 出演:北川結(Wキャスト)、白神ももこ(Wキャスト)、内海正考、土路生真隆
MOKK『Dum Spiro, Spero.』(2015年初演)
 振付:村本すみれ
 出演:金子愛帆、亀頭可奈恵、郡満希、菅彩夏、手代木花野、村田茜

  今回の3人の振付家の共通点は群舞をふくむような複数のダンサーの登場する作品を得意とするところだ。日本の場合、「踊りに行くぜ!!」などに応募してきた作品を見ても女性のダンサーがソロで踊るタイプのものが多くて、この場合往々にしてあるのが「踊っている私を見て」という類のものになりがちなのだ。ただ、この3人はそういう悪癖は脱している。カンパニーの主宰者というのも共通しているが、それは彼女らにとっては自分以外のダンサーの存在が不可欠だからなんだろう。。
 プロジェクト大山の古家優は「トヨタコレオグラフィーアワード2010」(トヨタアワード)の受賞者であるから本来この世代のスターと目されるような存在だったはずだが、その彼女にしても舞台芸術におけるプレゼンスがその直前の世代(KENTARO!!、きたまり、鈴木ユキオら)と比べるべくもない。このことがある意味、2010年以降の急速なコンテンポラリーダンスの注目度の縮小を象徴しているかもしれない。
「てまえ悶絶」は頭部をかぶるようにした衣装に見覚えがあったのでこれでトヨタアワードを受賞したと間違って記憶していたのだが、2006年初演というクレジットから考えるとそうではなく、調べてみるとこの作品で「踊りに行くぜ!!」in大阪にも出演しているのだった(その時はトヨタは2次選考まで進んだが、そこで落ちていたようだ)。
おかしみのある群舞で見せていくという作品傾向からするとイデビアン・クルー井手茂太の系列かもしれない。ただ、井手にはそれまでに見たことのないようなムーブメントの奇天烈さという武器があった。古家のダンスはそういう強烈な個性は欠けているきらいがある。もっとも、それはなにも古家優里だけに言えるのではなく、白神ももこにも村本すみれにも共通して言えることだ。これはひょっとしたらカンパニーのメンバーも含め、彼女たちがバレエやモダンダンス、現代舞踊といった既存のテクニックで鍛えられて育ってきたダンサーであり、そういうなかで古家にせよ、白神にせよ、村本にせよ、それには飽き足らずにそこから脱皮したり、ずらしたりしようという意図は強く感じられるが、既存のテクニックを根本的に解体するような新たな方法論の模索という風にはなっていない気がするからだ*1
 もちろん、作り手の側もことさらそういうものを求めてないのかもしれない。その意味では大山のダンスがどういうものなのかということにはひさしぶりに見てみたけれどいまだよく分かっていない。私の目にはどうしても既存のダンスにキャラ付けした「面白ダンス」に見えてしまう。この公演はもう一度見るのでそこを再度考えてみたい。
  白神ももこもこの世代では代表的な振付家ではあるが、F/Tにおける「春の祭典」の上演などモモンガ・コンプレックス単独での大規模な公演はなくはないが、これまでの実績で目を引くものはままごと「わが星」の振り付けや木ノ下歌舞伎での共同作業など演劇におけるダンスシーンの振り付けなどで知られてきたことも確かなのである。
その作風は今回単独公演で再演した「ウォールフラワーズ。」のように既存のダンスに対して批評的な距離感を取りながら、解体とか再構築などといった前衛的な手法ではなくて、エンターテインメントとして楽しませながら擽りや揶揄のようなものを織り交ぜていくというものだ。
 「ウォールフラワーズ。』」は「壁の花」のことで通常はダンスパーティーなどで自信や勇気がなく、中央のダンスフロアーには行けず壁際に佇んでしまう女性のことを意味しているのだが、この作品の冒頭シーンでは舞台の中央にはスポットライトが当たっているのに誰もそこには行く勇気がないという状況がまず物語られたり、次に一人で舞台の隅にいるとスポットライトが当たっているのでそこに入って踊ろうとするとスポットが次々と位置を変えてしまう。さらにはやっとのことでスポットに入っ踊ろうとすると自分の前には別のダンサーが割り込んできて、いいポジションの取り合いになるなどというシークエンスを続けて、バレエにありがちなことを戯画化して見せてみせる。
 さらに言えばこのバレエにおける「壁の花」状態を描き出したこの作品はコンテンポラリーダンス界あるいはもう少し広く言えばダンスの世界における白神ももことモモンガ・コンプレックスの立ち位置を自ら自虐的に揶揄して描いたような部分があり、そこが「クスリ」というおかしみを誘うのだった。
 それに比べると『勘違いの庭。』は何を意味しているのかが理解しにくい作品と思えた。とはいえ表題からこのダンスの意味合いを考えると「理解しにくい」という印象には無理ないところもありそうだ。「勘違いの庭。」という言葉を語義どおりに解釈すればこの作品の主題が「勘違い」すなわち「ディスコミュニケーション」にあるのだろうということはまず間違いないと思われるからだ。
前半は男2人がそれぞれ離れて庭に陣取っている間を白神ももこがその間をぬいながら自由に踊って回るシーン。後半冒頭で男2人が「君は僕で僕は君だ」などとアニメ「君の名は。」を連想させるようなセリフを叫ぶと今度は白神がセンター、左右に男たちがい踊った、男たちは交互に白神の踊った振付を真似ようとするがうまくいかなくてまったく似ても似つかぬ動きになってしまう。その後は同じ動きで3人が横並びで動きながら白神を挟み込んで動きが取れないようにするなどコミカルな動きが続いた。
 最後のMOKK『Dum Spiro, Spero.』(2015年初演)は村本すみれが日本女子体育大学の学生らに振付して初演。その後、ダンサーを入れ替えて韓国、国内で再演を繰り返してきた作品。子供が遊んでいる光景を作品の中に取り入れながら、激しい動きやリフトなどこのトリプルビルで上演された3本の中ではもっともオーソドックスにダンスであり、ダンス関係者(特に踊り手)には評判が高いようだが、それゆえかこういう傾向の作品がどうも私は苦手であるという風に思われてきた。ところがどのように表現したらいいか微妙なのだが、私はいわゆるノンダンス系の踊らない作品には否定的。より正確に言えばタスク系とかの「踊らないダンス」を妙に持てはやし現代のダンス表現の最前線のように言い立てる言説はよくないと考えてみる。今回参加した3団体などはそういうような東京の最近のダンスを巡る状況のなかで、端に追いやられてきたきらいがあるとも思っている。
 ではなぜそういう中でMOKKのようなダンスを素直に楽しめないのか。ひとつには「踊る」と言うことが私には無根拠の前提となっているように思われて、踊ることに対する根源的な疑義の思考が感じられないからなのだが、かといって「踊らないダンス」がいいわけじゃないのが難しい。

*1:矢内原美邦、伊藤千枝、黒田育世井手茂太という前世代の振付家にはそれが感じられた

横浜ダンスコレクション2018 「Dance Cross | Asian Selection」@横浜にぎわい座 のげシャーレ

横浜ダンスコレクション2018 「Dance Cross | Asian Selection」@横浜にぎわい座 のげシャーレ

2018年で23回目を迎える「横浜ダンスコレクション」が開催される。2018年2月2日〜18日の3週間、「SESSION / TRACE / HOME」をテーマに、世界的に活躍するアーティストによる領域横断的なクリエーションや国内外のコンテンポラリーダンスシーンをリードする振付家による新作と再創作、近年の受賞振付家による意欲作を上演。アジアセレクションでは、日韓期待の若手振付家によるトリプル・ビルを行う。


浜田純平『Sank you very much』(日本初演
横浜ダンスコレクション2016「若手振付家のための在日フランス大使館賞」を受賞した浜田。フランスでの6か月間のレジデンスプログラムにて創作した作品を上演する。

キム・ジユン『MAT (MAN) NAN』(日本初演
韓国最大級の舞台芸術フェスティバル「Seoul Performing Arts Festival 」のコンペティション「ソウルダンスコレクション2016」受賞作を発表する。2009〜12年まで京幾道立舞踊団、17年は国立現代舞踊団のダンサーとして活動。

白いオムツを履いて踊りまわり、圧倒的な存在感をみせつけた『オムツをはいたサル』で横浜ダンスコレクション2017コンペティションII「最優秀新人賞」と「タッチポイントアートファウンデーション賞」をW受賞した下島礼紗による新作。

横浜ダンスコレクション2018
Dance Cross | Asian Selection

開催日
2018年2月3日~2月4日
14:00〜

出演者
浜田純平『Sank you very much』
振付・出演:浜田純平 (YDC2016 コンペティションI 若手振付家のための在日フランス大使館賞)

キム・ジユン『MAT (MAN) NAN』
振付:キム・ジヨン
ダンサー:チャン・キョンミン、キム・ジヨン

下島礼紗 『sky』
振付:下島礼紗
出演:下島礼紗ほか

韓国最大級の舞台芸術フェスティバル「Seoul Performing Arts Festival 」のコンペティション「ソウルダンスコレクション2016」受賞作と横浜ダンスコレクション入賞者の新作の3本立て。
  3本の中では下島礼紗 『sky』が問題作だった。連合赤軍事件における集団リンチ殺人、オウム真理教事件などを取り上げながら、共同体における過剰な暴力行為が時として殺人にまでいたる「閉じた世界における暴力」の問題に迫る。
 オウム事件連合赤軍事件を同時代として体験した世代からすれば(とはいえ連合赤軍浅間山荘をテレビで見ていただけだが)、この2つを簡単に同じ範疇に入れてしまうのはどうなんだろうという疑念を拭いきれないのではあるが、作者のように20代前半から見ればどちらも歴史上の出来事に見えるのかもしれない。
 受賞作品で下島礼紗がはいていた白いオムツを今回の新作では

ニブロール(Nibroll)『コーヒー』@横浜赤レンガ倉庫

ニブロールNibroll)『コーヒー』@横浜赤レンガ倉庫

振付・演出:矢内原美邦
出演:上村有紀、鈴木隆司、友野翔太、昇良樹、間瀬奈都美、望月めいり、八木光太郎
映像:高橋啓
衣装:矢内原充志
共催:急な坂スタジオ
広報協力:株式会社プリコグ
協力:studio Nibroll近畿大学矢内原研究室・オンビジュアル・SNOW Contemporary・たかぎまゆ・岩渕貞太・高橋幸平・伊藤剛・滝之入海・加藤由紀・久野啓太郎

17年前に横浜ダンスコレクションの前身のダンス企画で横浜ランドマークホールで上演された作品の再演。初演の映像、音楽をそのまま使っているらしいのだが、思いの外古びてはおらず新鮮なパフォーマンスに見えた。
冒頭部分のカモメが飛んでいるアニメーション映像がシンプルで美しい。矢内原美邦の振付のムーブメント自体は暴力的な部分があるのだが、高橋啓祐の映像と純白を基調にした矢内原充志の衣装、加藤由紀の音楽はほぼ初演の通りにそのままで上演。出演者は総入れ替えとなり、若い出演者全員をオーディションで選んだ。興味深いのは当時暴力的だと言われた作品内容が「暴力」という要素を含みながらもむしろ洗練されきわめてスタイリッシュなパフォーマンスに見えてくることだ。
これは当時と現在の、「暴力」や「差別」など社会に噴出してきている様々な問題を作品としてビジュアル化する際の手つきに大きな違いがあるからかもしれない。この作品の後半に航空機による空爆とそれを地上から撃ち落とそうとしている場面がコンピューターのシューティングゲームのような画面で提示されるのだが、上演時期が2002年のことであるから、これは「三月の5日間」で描かれた2003年のイラク戦争バグダッド空爆ではなくて、9・11の米同時多発テロ後にブッシュ政権が引き起こしたアフガニスタン空爆とかを念頭に出しているのかもしれない。
 ニブロールというか矢内原美邦はこの後、特に東日本大震災などを経緯として政治的や時事的な主題に正面から取り組むような作品も増えてくるのだが、この頃はまだそうでもなくて、ゲーム画面を映したアニメーションや町を破壊しそうな怪獣の登場も具体的な問題の反映というよりはこの時期から世間を覆い始めた漠然とした不安や自分たちはなんだかよく分からない暴力のようなもに晒されているという空気感を表現したものだったのかもしれない。
このように感じられたのはひとつにはこの日ニブロールを見る前に横浜ダンスコレクション2018 「Dance Cross | Asian Selection」@横浜にぎわい座 のげシャーレで下島礼紗振付の 『sky』という作品を見て、これもやはり「暴力」に焦点を当てた作品ではあったのだが、女性ダンサーの裸体の臀部を掌で実際に叩いて赤くなってしまうようにしたり、箱型に小さく切り取った氷をやはり実際に素手で持たせたりと身体的な負荷が直接かかるようになっていて、ニブロールにあるような振付けられたダンスを介しての抽象化のようなことがされてないことだ。その結果、その表現はよく言えば生のものとなっているとはいえ、ここから表現としての洗練などは出てこないだろうし、それを目指してもないように思われること。
 ところがニブロール「コーヒー」が初演された当時を振り返ると「コーヒー」の1年前2001年には北村明子率いるレニ・バッソが「FINKS」を初演。これも都市文明における侵犯とそれに対する防御反応などある種「暴力」と隣接する領域の表現があったより、これには同じく映像を多用してもニブロールのような具象的な要素は少なく、それゆえよりスタイリッシュをきわめたような作品であり、それとの比較においてはニブロールの表現は「暴力的」で「荒々しく」も見えたのだろうと思われた。
ただ、もうひとつ言えそうなのは2002年の「コーヒー」の時点ではまだ矢内原の振り付けによる方法論も模索の過程であり、初演の映像などを見るとパフォーマーも「ただ暴れているだけ」みたいに見えかねない部分があったのだが、その後、彼女の方法論は「ある振りをダンサーに指示して、それを具現化する段階はあるが、普通の振付ではイメージ通りの振りを踊るために訓練によってメソッドのようなものが習得されていく(典型的にはW・フォーサイス。彼は彼の常識はずれの身体的負荷を持つ振付を具現化するためにサイボーグとさえ称される超絶技巧を身体化できるフォーサイス・ダンサーを育成した)のに対して、ここではその『振り』を加速していくことで、実際のダンサーの身体によってトレース可能な動きと仮想上のこう動くという動きの間に身体的な負荷を極限化することによって、ある種の乖離(ぶれのようなもの)が生まれ、それが制御不能なノイズ的な身体を生み出す」というものに収斂していった。
 今回の再演ではそれぞれの動きの「振り」自体は初演のそれをなぞってはいるものの、これ以降、矢内原の作品作りのなかで明確化されていった方法論は若いダンサーの動きのなかにより洗練された形で落とし込まれている。
 こうした演出・振付の洗練も全体としてスタイリッシュな印象の理由となっているのかもしれない。
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流山児★事務所 2018新春!公演『オケハザマ』@下北沢ザ・スズナリ

流山児★事務所 2018新春!公演『オケハザマ』@下北沢ザ・スズナリ

 作 しりあがり寿
 脚本協力 竹内 佑(デス電所
 演出 流山児祥
 演出協力 林 周一(風煉ダンス)
 音楽 坂本弘道


 出演

 塩野谷正幸
 伊藤弘子
 上田和弘
 谷 宗和
 甲津拓平
 小林七緒
 里美和
 柏倉太郎
 平野直美
 坂井香奈美
 武田智弘
 山下直哉
 荒木理恵
 山丸りな
 五島三四郎
 佐原由美
 森 諒介
 星 美咲
 竹本優希
 橋口佳奈
   (以上、流山児★事務所)

 山像かおり
 井村タカオ(オペラシアターこんにゃく座
 成田 浬
 勝俣美秋(劇団わらく)
 水谷 悟(WGK)
 眞藤ヒロシ
 林 周一(風煉ダンス)
 堀井政宏(風煉ダンス)
 外波山流太(風煉ダンス)

スタッフ



 【振付】北村真実(mami dance space)
 【擬闘】栗原直樹(WGK)
 【美術】水谷雄司+小林岳郎
 【照明】沖野隆一(RYU CONNECTION)
 【音響】島 猛(ステージオフィス)
 【衣裳】竹内陽子
 【映像】浜嶋将裕 
 【舞台監督】小林岳郎
 【演出助手】小形知巳
 【舞台監督助手】武田智弘
 【制作】米山恭子
 【宣伝美術】しりあがり寿+江利山浩二(KINGS ROAD)

 【協力】
  ㈲さるやまハゲの助
  デス電所
  mami dance space
  WGK
  RYU CONNECTION
  ステージオフィス
  フクダ&Co.
  フレンドスリー
  ㈱スーパーエキセントリックシアター
   (順不同)


今川義元織田信成桶狭間の奇襲に敗れ討死したのは誰もが知る有名な史実。

ダンス30s!!! シアターコレクションモモンガ・コンプレックス『ウォールフラワーズ。』@こまばアゴラ劇場

ダンス30s!!! シアターコレクションモモンガ・コンプレックス『ウォールフラワーズ。』@こまばアゴラ劇場

 構成・演出・振付:白神ももこ
 出演:北川結、夕田智恵、白神ももこ(以上モモンガ・コンプレックス)、内海正考
 演奏:やぶくみこ

30代を迎えた3人の振付家(白神ももこ、古家優里、村田茜)によるダンス企画が「ダンス30s!!! シアターコレクション」。ともにダンスカンパニーの主宰者でもあり、集団も設立後10年以上を経過した。もはや、若手ともいいがたく、中堅といってもいいのだが、本人たちによればこの世代はコンテンポラリーダンスのブームが去り、先輩の振付家、カンパニーのように脚光を浴びることも少なく、とはいえ地道に活動を続けてきたとの思いが強いのかもしれない。ここで一度振り返って自分たちの立ち位置をそれぞれ確認する企画ともいえそうだ。