下北沢通信

中西理の下北沢通信

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2003年の演劇ベストアクト − 私が選ぶ10の舞台

■2003年の演劇ベストアクト − 私が選ぶ10の舞台

 中西 理<演劇コラムニスト>

 クロムモリブデン「直接KISS」
 五反田団「ながく吐息」
 ク・ナウカマハーバーラタ
 シベリア少女鉄道「遥か遠く同じ空も下で君に贈る声援」
 TAKE IT EASY!「御法度。」
 くじら企画「夜、ナク、鳥」
 桃唄309「貝殻を拾う子供」
 スクエア「打つ手なし」
 松竹+劇団☆新感線阿修羅城の瞳
 第2劇場「正義の存在」(順不同)

 2003年を振り返った時、一番のトピックスはクロムモリブデンの復活であった。10年前に関西の若手で今後ブレークが期待される劇団として遊気舎、惑星ピスタチオと共に挙げたのが、青木秀樹クロムモリブデン。前2者が現代を代表する劇団として、90年代後半を疾風のように駆け抜けたのに対し、クロムは相次ぐ主力役者の退団など劇団体勢の課題などもあり、やや低迷期が続いていたが、いままでの狂気の演劇に加え、身体表現を含むエンターテインメント性も兼ね備えた劇団として見事に甦った。「直接KISS」における板倉チヒロ、森下亮に代表される壊れた役者たちの饗宴はここだけでしか味わうことができない魅力に溢れたもので遅ればせながらの真打ち登場を喜びたい。
 東京の若手劇団では五反田団シベリア少女鉄道の快進撃が続いた。それぞれ今年を代表する舞台ということから「ながく吐息」「遥か遠く同じ空も下で君に贈る声援」を選んだが、五反田団では「逃げろ女の人」「家が遠い」、シベ少では「二十四の瞳」「笑ってもいい、と思う2003」と甲乙つけがたい公演があり、集団としての充実ぶりが際立った年となった。
 関西では壮大な構想の芝居にTAKE IT EASY!にブレーク寸前の旬の勢いを感じた。仏教系男子校を舞台に少女漫画から飛び出したようなキャラが大活躍する「御法度。」を選んだが、シェイクスピア贋作者の実話を元にした「SHAKESPEARE」も素材選びのセンスが光った。
 一方、大竹野正典のくじら企画「夜、ナク、鳥」、四夜原茂の第2劇場「正義の存在」と自分と同世代に近いベテランの劇作家が健在ぶりを見せてくれたのも嬉しかった。特にイラク戦争に触発されながらも、声高に叫ぶことなくあくまでバカバカしい舞台で演劇人としての気骨を見せた「正義の存在」は一般には今年の収穫とされるであろうNODA MAP「オイル」と見事な対照を見せたという点でも忘れ難い印象を残した。橋本健の「貝殻を拾う子供」も核物理学者らを主人公にした群像劇で、丁寧な芝居作りで科学の原罪という重い主題に正面から挑んだ秀逸な舞台であった。
 インドの叙事詩を題材にそれを日本の昔物語に見立てて珠玉のアイデアを次々と盛り込み祝祭的な演劇空間を見事に作り上げたのク・ナウカマハーバーラタ」も好舞台だった。ムーバー(動く俳優)とスピーカー(語る俳優)を分離するというこれまでの2人1役に加えて、この舞台では1人のスピーカーが複数の人物を次々と語りわけるという義太夫語りを思わせる演出も取り入れ、「語りの演劇」の新たな可能性を開いた。
 宝塚の元スターと歌舞伎界の御曹司を主役に堂々たるスペクタクルを綴ってみせた「阿修羅城の瞳」、西田シャトナーという異色の客演を見事に生かしてみせたコメディー「打つ手なし」も作り手の抜群のセンスに脱帽せざるえない楽しい舞台であった。


P.A.N.通信 Vol.49掲載