庭劇団ペニノ「地獄谷温泉 無明ノ宿」 神奈川・神奈川芸術劇場大ホール(KAAT)
2017年11月4日(土) 〜12日(日) 〈大スタジオ〉
作・演出:タニノクロウ
出演:マメ山田 辻孝彦(劇団唐組) 飯田一期 日高ボブ美(ロ字ック) 久保亜津子 森準人 石川佳代
「地獄谷温泉 無明ノ宿」はタニノクロウの岸田戯曲賞受賞作品でそれゆえ代表作といっていい作品なのだと思うが、これまでなぜか見逃してきていて、実際に上演を見たのはこれが初めて。今回は庭劇団ペニノとしてはこの作品の最終上演*1ということなので、スケジュール的に厳しかったのだが、なんとか調整して公演に駆けつけることができた。
戯曲から起ち上がり描き出される世界も戯曲賞受賞作らしく、独自性は感じるけれど、この公演でもっとも印象的なのは宿の部屋、温泉の更衣室(?)、湯殿の3つの場面が盆に載って回り舞台と展開していく舞台装置である。
無明とは劇中でも簡単に解説されるように仏教用語で「邪見・俗念に妨げられて真理を悟ることができない無知。最も根本的な煩悩で、十二因縁の第一」なのだが、それだけではなく時として闇の中に窓からの明かりで部屋がぼんやりと照らし出されるような「無明=闇に浮かび上がる世界」というイメージが今回の美術、照明によりビジュアル化されていく。
初演時の劇評で安藤光夫氏が書いているが、劇団の常連出演者であるマメ山田へのあてがき的書き下ろしのような性格がこの芝居にはあり、彼の存在なしに成立しないような舞台だ。物語の中心は東京から田舎の寂れた温泉町にある宿にやってきた人形遣いの親子、小人症の父親(マメ山田)とそれに付き添う息子、一郎である。
親子はそれぞれがどこか欠けた人物だが、それを迎える宿の住人も口の利けない三助と盲目の男とそれぞれ障害がある。
彼らの織り成す闇深き夜の出来事。「ダークマスター」を前に見ていたから「ひょっとしたら人形の方が人形遣いの男たちを操っているという類のホラーかな」と思った瞬間もあったが、男たちが人形に取り付かれているというような部分はあっても、人形が人を操るとかそういう怪談話ではない。
*1:初演時の安藤光夫氏によるレビュー spice.eplus.jp