下北沢通信

中西理の下北沢通信

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「現代日本演劇・ダンスの系譜vol.10 ダンス編・ダムタイプその後」セミネールin東心斎橋     

VOL.10[藤本隆行×川口隆夫×白井剛 ダムタイプの系譜を継ぐメディアアートとダンスの最前線] Web講義録

講師・中西理(演劇舞踊評論)
特別ゲスト・藤本隆行ダムタイプ
【日時】2009年6月29日(月)p.m.7:30〜 
【場所】〔FINNEGANS WAKE〕1+1 にて

 東心斎橋のBAR&ギャラリーを会場に作品・作家への独断も交えたレクチャー(解説)とミニシアター級の大画面のDVD映像で演劇とダンスを楽しんでもらおうというセミネール「現代日本演劇・ダンスの系譜」の第10回の日時が決まりました。これまで第1回目のチェルフィッチュを皮切りにニブロール青年団イデビアン・クルー弘前劇場レニ・バッソ五反田団珍しいキノコ舞踊団ポツドールと隔月で今もっとも注目の演劇・ダンスの集団(作家)を選んで紹介してきました。
 今回は今夏に東京で再演が予定されている白井剛(発条ト)出演の「true/本当のこと」をはじめ、ダムタイプの主要メンバーの1人でもある照明家の藤本隆行を中心にコンテンポラリーダンスの第一線で活躍する白井や坂本公成(Monochrome circus)らとのコラボレーションによるダンス作品を紹介してきたいと思っています。さらにダムタイプのそのほかのメンバーらの最近の活動の一端も紹介していきたいと思います。
 まずは藤本隆行の最近の活動を紹介していく前に彼が所属しているアートパフォーマンス集団、ダムタイプについて簡単に紹介しておきたいと思います。

ダムタイプ
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
 ダムタイプ(dumb type)は1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成されたアーティストグループ。京都市立芸術大学在学中から海外公演を含めた活発な活動を続け、現在でも拠点を京都に構えながら、海外公演を中心とした活動を行っている。建築、美術、デザイン、音楽、ダンスなど異なる表現手段を持つメンバーが参加し芸術表現の可能性を模索する。

 1980年代はビデオ・アートやコンテンポラリー・ダンスに分類され、近年では広義でメディアアートに分類される。しばしば「マルチメディア・アート・パフォーマンス・グループ」と呼ばれる。

 1983年頃までは「劇団カルマ」の名で活動していたが、1984年頃からダムタイプという名前を使うようになった。メンバーはそれぞれ異なる専攻で作品を制作していたが、科の枠を取り払い、もっとボーダレスなアートの集団を作れないかな、という所からダムタイプは始まったという。

 ダムタイプという名前は英語のDumb(=言語能力を失った、口のきけない、無口な、ばかな、まぬけな)とType(=型、 類型、タイプ)から成る造語Dumb Typeであり、「ヒエラルキー嫌い、サイエンス嫌いからこうなった」と、後にメンバーが語っている。

 多くの作品の制作では、共同制作の方法を取り、公演を行う度に表現も変わるWork in progressの形態を持つ。プロデューサー的な位置付けの人間も、作品ごとで全く異なる。


メンバー
特徴的なのは、固定メンバーを持たず、リーダーを擁立しない点である。また、各々の個人的な活動も非常に活発である。下記に記すのは、現在までで制作や出演に携わった人物のごく一部である。

古橋悌二
高谷桜子
高谷史郎
薮内美佐子
花石眞人
大内聖子
岡本孝司
藤本隆行
泊博雅
砂山典子
田中真由美
川口隆夫
池田亮司
Peter Golightly
前田英一
尾崎聡
藤原マンナ
平井優子
粟津一郎
Bubu
高嶺格
小山田徹
[山中透]
保積幸弘
上芝智裕

主な作品
1986年 「Plan for sleep」(performance)
1988年 「PleasureLife」 (performance)
1990年〜1993年 「pH」 (performance)
1992年〜1996年 「S/N」(performance)
1997年〜2002年 「OR」 (performance,installation)
1999年〜 「memorandum」(performance)
2001年〜 「Voyage」(performance,installation)

 ダムタイプ(だむたいぷ, Dumb Type, dumb type)は京都市立芸術大学の学生を中心に1984年に結成されたアートパフォーマンス集団です。その作品は広く海外にも知られ、現在でも拠点を京都に構えながら、海外公演を中心とした活動を行っています。建築、美術、デザイン、音楽、ダンスなど分野の異なる表現手段を持つメンバーが参加し新たな芸術表現の可能性を模索。80年代にはビデオアート・コンテンポラリーダンスに分類され、最近では広義でメディアアートに分類されています。またしばしば「マルチメディア・アート・パフォーマンス・グループ」と呼ばれています。特徴的なのは、固定メンバーを持たず、リーダーを擁立しない点である。多くの作品の制作では、共同制作の方法を取り、公演を行う度に表現も変わるWork in progressの形態を持つ。プロデューサー的な位置付けの人間も、作品ごとで全く異なります。
 現在は2001年に制作した「Voyage」の海外ツアーがいまだに継続中で、これには今回インタビューした照明家の藤本隆行、映像の高谷史郎をはじめ主要メンバーがかかわり続けており、その一方で高谷が坂本龍一との共同でインスタレーションを制作したり、音楽家の池田亮司もライブパフォーマンスや美術館での大規模な映像・音響インスタレーションを展示するなど、ライブパフォーマンスから美術まで広い分野での個々の活動も盛んになってきている。
 実は今回のセミネールでも最初はまずダムタイプ本体についてやった上で今回のようにそこから派生した各メンバーの活動をその次の回で取り上げる予定で準備を進めていたのですが、今春に発売予定だったDVDが発売延期の告知が出たまま、現在もまだ発発売されておらず、それで急きょこちらの方を先に取り上げることにしました。このため、ダムタイプの作品については今回の講義では本格的に取り上げることはせずに楽しみは後にとっておくことにしますが、せっかくの機会ではあるのでここでいくつかの代表作品について抜粋をお見せしながら話を進めていくことにしましょう。
(「pH」の映像抜粋を見せる)
 これは1990年に制作された「pH」という作品です。藤本隆行は87年にダムタイプに入団。もっとも、古橋悌二とは高校の同級生(藤本が1浪、古橋が2浪だったため学年は1つ上)、小山田徹、泊博雅らほかのメンバーの何人かともバレー部で一緒だったため、旧知の仲であったということなのですが、ちょうどそのころダムタイプには舞台のことが分かる人間がひとりもいなかったこととと藤本がバイトで京都舞台という会社で働いていて、舞台の裏方のことをよく知っていたということもあって手伝うようになったということです。
 ダムタイプは「睡眠の計画 Plan for sleep」シリーズまでは穂積幸弘が中心だったということらしいのですが、その後の「PleasureLife」からはメンバーによる共同演出にその創作形態を変えつつあり、藤本もそこに加わり最初はセットである蛍光灯の設営など裏方に加わります。そして、この「pH」が共同制作にも本格的に参加した初めての作品となりました。
 メンバーの中にアーティストスタッフも参加していてコラボレーション的に作り上げていくという集団はほかにもありますが、ダムタイプの興味深いのはこうしたスタッフワークに関してさえ、それぞれの役割が完全に固定化していないということだと思います。例えばこの「pH」のころは高谷史郎が照明デザインをしていたということですが、その高谷もインタビューで「僕は、もともとダムタイプのチラシなどのデザインを担当していたんですが、なぜか照明をやるようになり、いつの間にか古橋に習いながら映像を作っていました」と話しています。あるいは音楽についても最初は古橋が自分で作っていたのが、その後、山中透が中心となり、さらに池田亮司が加わっています。現在は亡くなった人やメンバーからは離脱した人もいますが、こういう風にそれぞれが得意な領域を持ちながらも相互にかかわったり、手薄なところをほかの人間が担うようになったりする。通常舞台芸術を作るといっても、ダンスの場合でいえば振付以外に関してはまったくノンタッチ、あるいはある程度イメージを伝達するという意味ではかかわってもそれ以上のことは相手にまかせきりということが実は多いのがこの世界の現状です。そうじゃないところにダムタイプのよさがあり、面白さがあるのだと思います。
(「S/N」の映像抜粋)


 次の作品がダムタイプの代表作とされる「S/N」です。この作品を最後にそれまでの中心メンバーであった古橋悌二HIVで亡くなります。そのことも含めて、あるいはこの作品は「S(シグナル)」と「N(ノイズ)」という対立軸から「性」や「生と死」など人間にとっての根源的な問題に迫ろうとした問題作で、そのなかで実際に舞台に登場した古橋が「自分はHIV+」であるとカミングアウトし、それも作品に取り込んだという意味で衝撃的な作品でした。藤本が現在仕事としている照明のオペレートをするようになったのはこの「S/N」からでアデレードフェスティバルに参加した時に初めて現地のスタッフに操作の仕方を聞いて、見よう見まねでオペレートをするようになったということです。

 dumb type 「S/N」
 @青山・スパイラルホール (1995/1/7-16 9ステージ)
 全自由前売り4,000円

 構成・演出:古橋悌二 構想・ビジュアルクリエイション:小山田徹、高谷史郎、
 藤本隆行、泊 博雅 音楽・作曲:山中 透、古橋悌ニ ライブ演奏:山中 透
 コンピュータープログラミング:上芝智裕
 コンピューターシステムデザイン:中川典俊
 音響スタッフ:山田晃司 制作:高谷桜子
 出演:古橋悌二石橋健次郎、鍵田いずみ、砂山典子、高嶺格田中真由美、薮内美佐子、Peter Golightly 

(「OR]「memorandum」の映像抜粋)

「OR]
新宿・パークタワーホール(1997/10/1-5 6ステージ)
 構成・制作:ダムタイプ ビジュアル・クリエイション:高谷史郎ほか
 音楽:池田亮司、山中透 照明:辻野隆之 パフォーマー石橋健次郎、
 大内聖子、川口隆夫、砂山典子、田中真由美、前田英一、薮内美佐子

「memorandum」




「memorandum」
構想・構成 :ダムタイプ アーティスティックディレクター・映像 :高谷史郎
 音楽 :池田亮司 照明 :藤本隆行 映像 :泊博雅 映像アシスタント:大脇理智
 舞台アシスタント:尾崎聡 コンピューター・プログラム:上芝智裕
 コンセプチュアル・コラボレーション:アルフレッド・バーンバウム
 出演:
 大内聖子、川口隆夫、砂山典子、田中真由美、前田英一、藪内美佐子

 実はここからが本日の本題です。ダムタイプのメンバーで照明家でもある藤本隆行ダムタイプの活動と平行して、最近ではダンサー・振付家あるいはダムタイプ関係者以外のメディアアーティストとの共同制作を次々と作品化、海外でのツアーも積極的に展開しています。今日はその代表作として、ダムタイプのメンバーでもある川口隆夫と発条トの白井剛との共同制作作品「true 本当のこと」を見ていただくのですが、その前に藤本がシリーズの第1弾として京都のMonochrome circusの坂本公成と共同制作した「Refined Colors」という作品を見ていただくことにします。
「Refined Colors」

モノクロームサーカス+藤本隆行ダムタイプ)「Refined Colors」(京都造形芸術大学studio21)を観劇。

ディレクション/照明=藤本隆行(dumb type)

演出/振付/出演=坂本公成(Monochrome Circus)

振付/出演=森川弘和・佐伯有香(Monochrome Circus)

振付=森裕子(Monochrome Circus)

音響/ヴィジュアル・デザイン=南琢也(Softpad)

音響/プログラム=真鍋大度

機材協力 カラーキネティクス・ジャパン株式会社

技術協力 有限会社タマ・テック・ラボ

京都芸術センター制作支援事業

共に京都に本拠を置く集団であるMonochrome Circusの坂本公成とdumb typeの藤本隆行のコラボレーション作品「Refined Colors」を京都造形芸術大学studio21で観劇した。YCAM山口情報芸術センター)の企画として、昨年7月に山口でアーティスト・イン・レジデンスの形で製作されたもので、その後、シンガポール、マレーシアなどのアジアツアーをへて、両者の本拠地でもある京都で上演されることになった。

 初演も見ているが、今回の京都公演ではこの後に予定されている欧州(スペイン)ツアーをにらんで、ダンサーを3人(坂本公成・森川弘和・佐伯有香)に絞り込んだことでダンス部分が一層タイトになり、作品の完成度も高まった。オリジナルの音楽(音響)を提供した南琢也(Softpad)、真鍋大度も加え、きわめてクオリティーの高い舞台作品に仕上がった。

 「Refined Colors」の特徴は、R(ed)、G(reen)、B(lue)の3色の発光ダイオードを組み合わせて、自由に色を作り出せる新しい照明器具「LEDライト」を使ったダンス作品だということだ。LEDライトはデジタル制御で瞬時に約1670万色のカラーバリエーションをつくりだすことができ、次世代の照明といわれている。デジタルカメラで撮影したものをコンピューターで再構成し、照明として取り込むことも可能で消費電力が格段に少なく発熱もほとんど伴わない上に、重装備が不要。音響や照明の操作も全てノートブックPCで行うことにより、機動性に優れた公演が可能となる。この照明の部分を藤本隆行が担当した。

 dumb typeからこのプロジェクトに参加したのは照明の藤本だけであり、パフォーマンス部分はMonochrome Circusの坂本公成森裕子の振付で、音楽も池田亮司のものとは方向性が異なるものだが、それでも舞台の印象全体からはdumb type的なクールな匂いが感じられる。これは参加した坂本公成、南琢也らがdumb typeチルドレン的な立場のアーティストであるせいもあるかもしれない。古橋禎二なき後、本家のdumb typeの作品自体は音響・映像インスタレーション的な志向を強めているように見えるだけに藤本がダンスカンパニーとのコラボレーションにより、本格的なダンス作品を手掛けたということには今後のdumb typeを考える意味でも興味を引かれた。

 Monochrome Circusは振付家でコンタクト・インプロビゼーション(コンタクト・インプロ)の指導・実践者でもある坂本公成森裕子の2人を中心に、ダンサーやアーティストにより編成されている。その活動でもっとも特徴的なのは出前公演「収穫祭」プロジェクト。ダンスの小品をどこにでも呼ばれれば出かけていって、劇場以外の場所で観客の目の前で踊ってみせるのが「収穫祭」のコンセプトだが、その過程において様々な形起こる出会いを作品のなかに取り入れていくというダンスをコミュニケーションツールとしたコンセプトアートの側面も持っている。

 「Refined Colors」は「収穫祭」とは異なり、劇場で上演されることを前提とした舞台作品だが、出かけていった場所とコミュニケートすることで作品が変容していくという意味では「収穫祭」的なコンセプトもそのなかに取り入れている。dumb typeを連想させるハードエッジなテイストとアジアツアーを通じて、現地でサンプリングした音や光を作品のなかに取り込んでいくような融通無碍なMonochrome Circusのテイストが渾然一体と溶け込んでいるところが、この両者の共同製作ならではのオリジナリティーを感じさせた。

 Monochrome Circusの振付ではこれまでコンタクト・インプロにおける即興性が強調されてきたきらいがあるが、この作品は照明効果との関係性もあって、ほとんどのシーンでタイトな振付の要素が強まり、音楽とシンクロしてアクロバティックなリフトや倒れこむような動きが多用されるなどいつもの公演以上に身体的な強度が強いムーブメントとなった。

 坂本公成によれば「この作品は今後も変化し続ける」ということで、照明にしても振付にしても実験的な要素も強いだけにまだ汲みつくされていない可能性も感じさせられた。欧州ツアーをへてどのような次の変容を見せてくれるのか。その時には再び関西で上演されることに期待したい。

「Refined Colors」@滋賀会館レビュー
「Refined Colors」という作品全体の枠組みについては昨年9月の京都公演の時に詳しく書いた*3からそちらを参照してもらいたいのであるが、この作品は藤本隆行(dumb type)と若いときからdumb typeの周辺にずっといてその強い影響を受けて、育ってきた坂本公成(Monochrome Circus)、南琢也(Softpad)という2人のアーティストが参加してのコラボレーションだから、やはりいろんな意味で「らしさ」を感じさせるものとなっている。しかも、dumb typeといっても最近のというよりは「S/N」ならびにそれよれ少し前の時代のdumb typeで、藤本がどう考えているかは不明だが、振付の坂本公成、音響/ヴィジュアル・デザインの南琢也にはオマージュというか、意図的な引用があった、という。

 典型的なのは後半の最初の方でフレッシュライトが点滅するなかで3人のダンサーが激しく動き回った後、それまでの激しさとは対照的に前を向いて、配置を入れ替えるようなミニマルな振付のもとに今度は光が舞台の下手から上手に向けて走りぬけ、それとシンクロして「ピンッ」という音が一定間隔で鳴り響く。これは誰が見ても明らかなdumb typeの引用であり、南に確かめたところ意図的なものだということであった。

 もちろん、この「Refined Colors」はダンスパフォーマンスであり、パフォーマーも出てくるとはいってもダンスというよりはビジュアルアートの色彩の強いdumb typeのパフォーマンスとは明らかに異質な部分を含んでいるのだが、dumb typeのパフォーマンスにおいても全体をダンスと呼ぶことにはいささか躊躇することはあっても、「S/N」のフラッシュライトの点滅のなかに次々と壁の向こうにパフォーマーが落ちて消えていく場面のようにそこだけ取り出してダンスと呼びたくなる忘れがたい印象を残すシーンが以前はあった。そういう意味では最近のdumb typeの舞台は映像中心のビジュアルインスタレーションの色合いが強く、そういう面での印象深さには欠ける気がしていたので、そういうところを彷彿させるという意味でも「Refined Colors」は興味深い舞台なのである。

 さらに言えばこの作品にはイメージとしてこれまでのMonochrome Circusにはあまりなかったような政治的な主題を感じさせるところがある。全体としては抽象度の高いダンスパフォーマンスであり、dumb typeのように直接的に言語テキストを使用することはないのだけれど、坂本公成と森川弘和の2人が舞台の床に赤いロープか糸のようなものおいて、その糸によって作られる一種のボーダー(境界線)の両側で踊りながら、次々と糸を動かして、その領域を相手の側に侵犯して広げていったり互いに相手を挑発しあったりする暴力的な場面はきわめて象徴的。「ボーダー(境界線)」とその「侵犯」というのは「S/N」における重要なモチーフでもあったが、この場面は中東をはじめ世界各地で現在を絶えない国境をめぐる紛争のことをまず連想させるし、それだけではなく、抽象的であるがゆえに個人レベルから国家規模にいたるあらゆる「ボーダー/侵犯」に関わる事象を重層的に連想させるところがあるからだ。

 もっともそれはこれまでも坂本が好んで取り上げてきた「コミュニケーション/ディスコミュニケーション」にかかわる主題とも関係している。さらに以前にも書いたが、今回も欧州でのツアー先でそれぞれの国でサンプリングしてきた街や自然の音を作品に取り込み、それに合わせて、振付・照明も細かく手直しして、さらに作品を変容させてきているようにMonochrome Circusがこれまで行ってきた「収穫祭」の主題のひとつでもあった「旅」そしてそれを通じての「収穫」を取り込みながら、作品を変容させていくというコンセプトも生かされており、特に音に関していえば場面ごとに例えば緑色の照明のなかで雨音のような音の元で踊る森川・佐伯有香のデュオでは「アジア」、どこかの駅舎の音のようなものを採集した場面では「ヨーロッパ」とこの作品の「旅の過程」を感じさせるというところはより一層ビビッドになっており、それもこの作品に以前にも増して一層の深みのようなものを感じさせた。

 京都公演以来、ひさしぶりに作品を見て思ったのは特に森川・佐伯の2人の動きが今回の欧州ツアーをへて、また一段とソリッドで無駄なものをすべてそぎ落としたような研ぎ澄まさされたものとなっていたことだ。特に高い身体能力を存分に生かした森川弘和の動きはちょっとこの役は代替がきかないと思わせるほどのもので、聞くところによると森川が今年いっぱいでカンパニーを離れるということらしいので、この形でのこの作品の上演が見られるのはこれが最後になるかもしれないが、やむをえないこととはいえ非常に残念である。

 Monocrome Circusとはこの後、森裕子のソロ作品である「lost」というのも制作しています。

 それでは今日のメインの映像である「true 本当のこと」について説明したいと思います。これは前述したように川口隆夫、発条トの白井剛とのコラボレーション作品です。

白井剛
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
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白井 剛(しらい つよし、英:Tsuyoshi Shirai、1976年 - )は長野県飯田市生まれの舞踏家、振付家。ダンサー、コリオグラファーであり映像作家。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。主な振付作品に『Living Room - 砂の部屋』(00/製作:発条ト)、『タイムニットセーター』(00/製作:発条ト)、『テーブルを囲んで』(00/製作:発条ト)、『Swingin' Steve』(01/製作:発条ト)、『衝動とミディアムスロー』(01/ソロ/製作:発条ト)、『彼/彼女の楽しみ方』(02/製作:発条ト)、『予定地M』(03/製作:アイホール)、『リビングルーム/さきら編』(03/製作:発条ト・さきら)等がある。


年譜 [編集]
1976年 長野県飯田市に生まれる。
1995年 千葉大学モダンダンス部に入部。ダンスを始める。
1996年-2000年 ダンスカンパニー「伊藤キム+輝く未来」のダンサーとして活躍。
1996年 発条トの振付家として活動を開始。
2000年 バニョレ国際振付賞(Prix d'Auteur du Conceil general de la Seine-Saint-Denis 2000)を受賞。
2002年、2003年 トヨタコレオグラフィーアワード(最終審査会)に2年連続して選出される。
2004年 愛知芸術文化センタープロデュースによるダンスオペラ『悪魔の物語』(振付:ユーリ・ン)にダンサーとして出演。
同11月、ソロ作品『質量, slide , & .』をシアタートラムにて発表。

 白井剛は「伊藤キム+輝く未来」のダンサーとして活動するかたわら、自らの集団である発条トの振付家・ダンサーとして2000年にバニョレ国際振付賞を受賞しました。これはダンス作品というよりは映像を多用したパフォーマンス的といってもいい作品であり、発条ト自体も最近はレニ・バッソにも参加して重要な役割を果たしている音楽家の粟津裕介らとのコラボレーション的な性格が強く、表現のテイストは異なりますがやはりダムタイプの系譜に入る
グループ(アーティスト)といってもいいかもしれません。
(「true」の映像を流す)
 
 どうだったでしょうか。実はこれまでのダンスの講義でも触れてきたのですが、これまで取り上げてもきたニブロールレニ・バッソをはじめ、今回も取り上げた発条ト、Monochrome circusさらには東野祥子のBaby-Q、Nestと最近の関西の若手では京都造形芸術大学出のdots……。映像を多用し、照明、音楽などのスタッフワークもコラボレーション的に作品制作にかかわっていくようないわゆる「マルチメディアパフォーマンス」というのが日本には多く、その中にはニブロールレニ・バッソのように国際的な評価を受けて海外での活動もしているグループも少なくありません。
 これは世界的にはおそらく特異なことでひとつにはパフォーマンスなどに自らかかわる映像作家やエレクトロニカ系の音楽家のレベルの高さというのもあると思うのですが、やはりそこには直接に人脈的な関係はない場合も含めて「ダムタイプがそこにあったか」ということがあるのではないかと思うのです。