下北沢通信

中西理の下北沢通信

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新たな神話 黄泉巡りの物語。劇団アレン座「1925→2025」@吉祥寺シアター

劇団アレン座「1925→2025」@吉祥寺シアター


劇団アレン座「1925→2025」@吉祥寺シアターを観劇。私が普段観劇することが多い劇団は歴史のけっこう長い老舗劇団から、学生時代に旗揚げしてから数年程度の若手劇団と幅はあるけれど、いわゆる「小劇場系」と言われる劇団が多い。世代によって作風にも違いはあるけれど、多いのは青年団系の現代口語会話劇やそのカウンターとして最近多くなってきたマレビトの会などに代表されるような非リアリズムの会話劇などが作風の中心だ。
劇団アレン座の舞台を見て最初の印象はこの集団の作品にはそういう最近流行の演劇スタイルとは一線を画するような特徴があるということだった。
 表題の「1925→2025」から予想していたのは1925年から2025年のこの100年の歴史を俯瞰する一種の歴史劇のようなもので、この間にあった出来事が短いシーンの連鎖によってつながれているような作劇だったのだが、冒頭からそうした予想は完全に裏切られることになった。
そこで展開されていくのが、リアルな歴史上の出来事などではなく、死によって異世界に転生してしまった主婦の体験する出来事のようなものになっていて、しかもそこで描かれる世界はSFやファンタジーのような不思議な異世界ではあるけれども、それだけではなく、どことなく現実世界への寓意を感じさせる。
この作品を見ていて直接的な引用などはないと思われるのに二つの作品が頻繁に思い出された。ひとつは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」、残りのひとつはサン・ティグジュベリの「星の王子さま」である。この二つの作品には共通点があって、それはどちらも宇宙を旅して、そこで様々なものと出会うのだけれど、それぞれのシーンに呼応しているのは夢の中のような非現実なシーンでありながら、どこかでこの現実世界の寓話としても受け取れるようなところがあるからだ。この舞台にも「飛び降り自殺する人を遠くで見て、それを応援する人たち」や「死んだ人間の魂を食材とするラーメン店」「シーシャと呼ばれる麻薬のようなものを吸う人たち」「フェイクニュースを流すニュースサイト」など謎めいた場面が数多く登場する。主人公である主婦はそれを何度も繰り返し巡ることになりそのたびにそこにいる人たちに「間違っている」と訴えるが、次第に彼らには彼らの言い分があることも分かってくる。そしてそれぞれのエピソードには現実世界の出来事を象徴するようなたとえ話にも感じられてくる。
 重要なのはこの三つの作品に出てくる世界には「死」が介在しているということだ。舞台の冒頭で主人公の主婦はテロリスト集団に射殺されて死ぬ。そして、その後に展開される世界はすべて「死後の世界」と受け取ることができるが、この同じ構造を三つの作品は共有している。そして、異世界を彷徨っていたいた主婦が最後に現実世界に戻ってくることで、それはギリシア神話や日本の神話にもある黄泉巡りの系譜の物語にも通ずる神話的な構造を持っていることも分かってくる。
 しばらく、舞台を見ていると最初はよく分からないのだが、次第にここに登場する人物たちはそれぞれ自分が所属していた時代を象徴しており、それを代表するようにここに存在していることがおぼろげに判明してくる。そして、そうした人物を介在させることで作者はこの100年を俯瞰するような表現したいのだろうなということも感じられる。
 とはいえ、やや残念なのは先ほど言及したような複数の世界を並列して提示しただけではその世界全体の形は十全に示されたという風には感じられないことだ。舞台全体を貫く物語にかけるため、それはただのタブローのように見え、相互の関係が弱い。これは受け手である私との相性もあるとは思うが、はっきりとした構図がフォーカスされるということがなく全体の印象があまりにも茫漠としているように思われたのだ。
 
 

出演者
枝元萌
林田麻里
竹中凌平(劇団アレン座)
栗田学武(劇団アレン座)
來河侑希(劇団アレン座)
尾形大吾
安保卓城(NORD)
桑原勝
甲斐千尋
池田倫太朗(文学座
近澤智
桜彩
澄華あまね
雪村花鈴
伊藤静
のの
荒川大三朗
演劇集団円

スタッフ
作・演出:鈴木茉美
舞台美術:土岐研一
舞台照明:尾形瑛子
音響:川西秀一(Lucky jr. Sound)
映像:浦島啓(colore)
舞台監督:森下紀彦
楽曲提供:9101
歌唱指導:ハッピー林
ダンス振付:kizuku(お痩せになるまで待って)
/枝元萌、のの(A・ki・su)
ヘアメイク:藤本麗
衣裳:西田さゆり(Ns costume)
撮影:木村健太郎(Allen)
宣伝美術:小倉美緒(Allen)、(株)Allen
制作:藤田秀幸(アーラェ アンゲリー)、仲宗根久乃
制作協力:島崎翼(feather stage)
プロデューサー:キタガワユウキ
主催・制作:(株)Allen