下北沢通信

中西理の下北沢通信

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コトリ会議「セミの空の空」@こまばアゴラ劇場

コトリ会議「セミの空の空」@こまばアゴラ劇場

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 全編が暗闇の中で展開される不可思議な世界。これまでもコトリ会議は宇宙人が出てきたりして、SF的だったり、ファンタジーな世界が展開されてきたが、今回は死のイメージが全編を覆い尽くしている感覚があり、恐怖はそこにはあまりないけれど、ある種のホラー映画のようなテイストも感じられた。
 今回の作品には宇宙人は出てこない。その代わりとも言えるのが、セミ(セミ人間)である。主人公姉妹の父母がいつの間にかセミに乗っ取られているのだが、「それにどんな意味があるのか」と考えてみたものの、いま一つはっきりしない。「このセミは何かの象徴のようなものなのだろうか」と思案をならせてはみるが何も焦点を結ばないのだ。頭に乗ったセミが本体であり、人間を支配しているというイメージは本来は怖いものと言えるはずだが、実際の舞台では怖いというよりも思わず笑ってしまうおかしさがある。だが、そうしたなんともいえぬイメージの飛躍がこの作家ならではのもので、それがそのまま作品の面白さにつながっているように思えた。
SF的な趣向としては「二つめの月」が出てきて中国のSF「三体」を少しだけ連想させた*1が、その存在によって多くの人間が「死の世界」に送らられたというようなことを除くと劇中でほとんどその正体は明らかにはされない*2

作・演出:山本正典

夏の日、息子がすがりついて、
「お父さん、コトリ会議の次回公演には宇宙人、出ないの?」
「出ないよ」
「僕宇宙人、出てほしいよう」
「タイトルをご覧。宇宙人、ひとかけらもないだろう」
「空の空だってカッコつけたって、どうせ宇宙のことなんだろう?」
「どうせ、どうせ宇宙なんだろう?」
「どうせ宇宙さ、そうだろう?」
「どうせ宇宙なんだろう?」
「どうせ宇宙なんだろう?」
「どうせ、どうせ」
「宇宙なんだろう?」

生きるものの小ささを軽妙な会話で丁寧に描く。その言葉は寓話的な表現を織り交ぜつつ、詩のような言葉で劇世界を立ち上げていく。
シアトリカル應典院演劇祭「space×drama2010」優秀劇団を受賞。
2017年に初めてのツアー公演『あ、カッコンの竹』をいきなり5都市で開催。同作で山本が第25回OMS戯曲賞佳作受賞。同年、第9回せんがわ劇場演劇コンクール 劇作家賞。ツアー公演とイベント企画での神出鬼没な小作品を両軸に活動中。

出演

牛嶋千佳、三村るな、まえかつと(以上、コトリ会議) 野村有志(オパンポン創造社)、中村彩乃(安住の地/劇団飛び道具)、浜本克弥(小骨座)

スタッフ

舞台監督 柴田頼克(かすがい創造庫)
音響 佐藤武
照明 石田光羽
演出助手 要小飴
美術 竹腰かなこ
小道具 伊達江李華(小骨座)
衣装 松崎雛乃
宣伝美術 小泉しゅん(Awesome Balance)
イラスト 牛嶋千佳
制作 若旦那家康

三体

三体

simokitazawa.hatenablog.com

*1:「三体」で描かれる三体世界は2つ以上の太陽が天空にある

*2:冒頭近くの母のセリフでそれが「人間世界で一番の大建造物」であること、そこから発せられるビームを浴びると人間は変わってしまうということなどが、明かされるがそれが何のために建造されているのかという目的やセミと関係あるのかどうかなどの背景もいっさい分からない。