下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青☆組「Butterflies in my stomach」小竹向原アトリエ春風舎

青☆組「Butterflies in my stomach」小竹向原アトリエ春風舎

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作・演出:吉田小夏

7脚の椅子と、7人の女優達。
描かれるのは、ある女の、7才から77才までの物語。約70分間の、人生賛歌。

Butterflies in my stomach (バタフライズ イン マイ ストマック) は、ドキドキする気持ちを表す慣用句。 お腹の中で蝶々がそっと羽ばたくような、言葉にしがたい温かさや痛みを、7つの鼓動で紡ぎ、贈ります。
2013年に演劇ユニットOn7への書き下ろし作品として初演され、第2回せんだい短編戯曲賞 最終候補にノミネートされた本作。青☆組での上演は初の試みとなります。ご期待ください。

出演

福寿奈央
大西玲子
土屋杏文
  - 以上、青☆組

東澤有香 (キコ/qui-co.)
今泉舞
石田迪子
清水ゆり(CHAiroiPLIN)

スタッフ

舞台美術アドバイザー 濱崎賢二 (青年団)
照明 伊藤泰行
音響 泉田雄太
演出助手 久間健裕 (ネジマキトカゲ/マチルダアパルトマン)
宣伝美術 空
宣伝写真 chara*coco*
制作 吉田千尋、田澤奈那 (以上、LUCKUP)
制作助手 佐度那津季 (青☆組)
俳優宣伝写真・撮影:金子愛帆
総合プロデューサー 平田オリザ
技術協力 大池容子(アゴラ企画)
制作協力 木元太郎(アゴラ企画)

2013年に演劇ユニットOn7(おんなな)への書き下ろし作品として初演された作品の再演。7歳から77歳までひとりの女性(ななこ)の一生の出来事を7人の女優が演じ継いでいくという構成にはままごと柴幸男の「あゆみ」を連想させるところがあって、思わず終演後作者に女性の作家として女性の目からは「あゆみ」に不満があって書いたのか、と聞いてしまった。
 こういう構成になったのは7人の女優からなるプロデュースユニットOn7による委嘱であったことから、全員に見せ場を平等に作りたかったことや、準備期間にあまり時間がなくシンプルな構成にせざるをえなかったというような外部的な制約が大きかったということだった。さらにいえば稽古期間が短いことなどもあり、演者側からリーディング公演としたいとの依頼もあったともいう。
 とはいえ、そうした制約から逆に通常はオーソドックスな群像会話劇が多い吉田小夏の作品の中では異色のスタイルの作品となった。今回の再演はリーディング公演ではないが、冒頭部分では出演者全員が椅子に座り、本を読むようなシーンから始めるなど初演の仕掛けのイメージ的な部分は残したものとなっていたという。
 冒頭で「あゆみ」のことを作者本人に問いただしたのは形式上の類似点はないわけではないが、実は作品はむしろ対照的なのではないかと感じたことにある。
 「あゆみ」は歩く(生きる)ということを象徴するような「あゆみ」という名前に仮託した女性像は個人というよりも人が生きて死ぬことを抽象化したような「どこにでもいるがどこにもいない人」となっているのに対して、ここで吉田が描き出す「ななこ」はかなり具体的なディティールをイメージできる一人の女性だからだ。しかも女性作家にはよくも悪くもあることだが、この舞台の中核をなす母親と娘の関係性にはもちろんそのままではなく変形が施されているが、吉田自身の母親との関係が反映されたものとなっているのだという。そして、実際に舞台からもそうしたリアリティーを感じた。
 そういう印象から柴が意図的に構築したような「どこにでもいるがどこにもいない人」はひょっとしたら吉田のようなタイプの作家にとっては不満の種だったのではないかと勝手に思い込んでしまったのだ。
 この作品ではそれぞれの俳優がいつ生まれて、両親はどうだったなどの個人ごとの経験を盛り込んだ部分があり、この部分は今回のキャストに合わせて完全に差し替えている。その意味でもmotomotomoそうだし、今回の舞台でもこの舞台では「演じる人」と「演じられる役」がどちらも可視化された形で明示されるような仕掛けになっている。こうした構造も初演の制約から生まれたものといえなくはないだろうが、2010年以降活発な活動を開始した若い作家の作品に同種の趣向の作品が多いことを考えれば意識したか、無意識かは分からないが相互作用のようなものが働いていたのではないかといえそうだ。