下北沢通信

中西理の下北沢通信

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屋根裏ハイツ『とおくはちかい(reprise)』@配信

屋根裏ハイツ『とおくはちかい(reprise)』@配信

 本来はこまばアゴラ劇場の公演を観劇する予定で予約していたのだが、実母の急逝それに伴う告別式・葬儀などの関係で見ることができなくなり、見逃していた。映像アーカイブを有料配信することが分かり、映像でではあるが、公演を見ることにした。
 男優二人による二人芝居。スタイルは現代口語演劇といっていいだろう。描かれている場所は東日本大震災の被災地である地方都市に暮らす男の部屋。そこにかつての友達で今は(おそらく)東京でくらす男が5年ぶりに訪ねて来るという設定である。
 中村大地(屋根裏ハイツ)の作品は現代口語演劇の中でもミニマルなスタイルで例えばこの「とおくはちかい」で起こっているのは二人の男がぼそぼそと会話を交わすことだけに限られ、それ以上の展開はほとんどない。
 作品は2つのシーンからなり、2年前の作品の再演ではあるが、今回の舞台では男たちのうち、部屋を訪問してきた男がマスクをしていることから、正確な季節などは分からないが、コロナ禍以降の現代だということははっきりと分かる。
 ここでは震災体験のことが赤裸々に語られることはないのだが、ここでは震災から5年目、10年目のある時間を実時間のように切り取り、見せることでかつてあった震災とそこからの時間的距離を静謐の中で提示していく。
 二人は震災に関することに直接は触れることはないが、この舞台の根底にはそれがある。そういう意味では「とおくはちかい」は震災劇であるが、同時にここから伝わってくるのはこの二人の震災との距離感の違いで、震災との遭遇の仕方によってその距離感はまちまちであり、実家が健在ではっきりはしないが被災当時被災地にはいなくて東京にいた訪問者と実家が被災し、それこそ描かれないが、家族もそれで全員失い、避難所、被災者住宅を転々としてきた男とでは震災との時間的距離感は物理的時間として測られる同じ時間ではないのである。

映像編集:小森はるか(映像作家)
東京公演 2020年7月27日収録

出演
三浦碧至
渡邉悠生(仙台シアターラボ)

あらすじ
大きな地震があった町で暮らす知人を尋ねる男。2人は、何を話すわけでもなく、訥々と、寄り道をしながら言葉を重ねる。忘れていいことと、忘れてはいけないことと、忘れなくてはいけないこと。忘れたくても思い出せないこと。時が記憶を言葉にして、「言い切れなさ」も形を変える。
2017年初演の記憶と忘却をめぐる会話劇、『とおくはちかい』を全編改稿し、初演とは異なるキャストで上演。

作・演出・音響・照明オペ 中村大地
舞台監督・照明プラン 山澤和幸
舞台美術 大沢佐智子
演出助手 宮﨑玲奈(ムニ/青年団
衣装 佐藤立樹
制作統括 河野遥(ヌトミック)
デザイン 渡邉時生(屋根裏ハイツ)
映像記録 小森はるか

主催 屋根裏ハイツ
提携(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 
助成 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

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