青年団若手自主企画vol.85 近藤企画「更地の隣人」@アトリエ春風舎
近未来(令和18年)の東京で起きた大災害後の出来事の話にはなっているが、東日本大震災がその背景にあることは間違いないであろう。とはいえ、実際の被災に基づくドキュメント的な色彩は薄く、ともに震災に遭遇し配偶者が行方不明になってしまった隣家に暮らすことになる男女の物語となっている。
二人はどちらも配偶者を探しているのだが、実はその行為の裏にある思いがそれぞれ異なることが作品の進行に伴い浮かび上がってくる。そこにこの作品のキモはあるわけなので、「震災劇」と受け取るのは少し違うのかもしれない。男(近藤強)は周囲の地面を自分の手で掘り起こして、遺骨を探しDNA鑑定で妻の死を確認しようとしている。
一方、女は大災害以降離れ離れになってしまい生死も分からぬ夫に対し、毎日超短波無線で呼びかけるという日常を続けていた。
このように物語は震災を彷彿とさせる大災害を巡る被災者としての男と女を巡って進んでいくのだが、二人の被災が額面通りのものではなさそうだというのが次第に明らかになってくる。男性は妻とやはり失われた子供(息子)を巡る悪夢を毎日見ているようなのだが、それは普通考えるような災害から妻を救えなかったという後悔の念からくるものとは違うようだ。どうやら男性は災害を予測して被害を防ぐようなシステムを開発する仕事を被災時も現在もしているようだから、そういう仕事をしていたのに大事な人を救えなかったということになりそうなのにそうではないのだ。
女の方も誰が聴いているか分からない超短波の発信機に語り掛けるが、どうやらそれは一方通行のようで、それを聴いている人からの返信などはいっさいないようだ。
二人の行動にはどこか現実味がなく、さらにこれに男、女それぞれの回想や悪夢が絡み合ってくるために表現される世界は夢とも現実ともはっきりしない。
終わりは過去と決別した二人の現実との和解のようにも見えるが、ハッピーエンディングなのかどうかもはっきりとはしない。そこがいかにも大人の演劇と思った。
作・演出:平松れい子(ミズノオト・シアターカンパニー) 企画:近藤 強
令和18年、度重なる大規模な土砂崩れによりインフラの一部が使えない状況が続き荒廃した日本。
行方不明の夫を探す女の隣に引っ越してきた、行方不明の妻を探す男。女は夫が生きている事を願っているが、男は妻が死んでいて欲しいと願い、更地を掘り続ける。 噛み合わないふたりの交流の果てに……■平松れい子
個人ユニット、ミズノオト・シアターカンパニーという名前で演劇の脚本や演出を担当。MS. NO TONE(ミズノートーン)の意味は「音痴さん」。視覚中心に細分化された現代に、音を聞き気配を感じてもらえるような、聞く演劇を目指し、作品づくりをしています。舞台芸術財団演劇人会議・優秀演出家賞受賞。コメディから不条理まで、アングラからミュージカルまで、ジャンルを軽快に往来し、カテゴリーの壁をくぐり抜けていきたいです。■近藤 強
俳優 / 2007年より青年団に所属
青年団「革命日記」、「冒険王」、「月の岬」などに出演。
他に、ウンゲツィーファ、玉田企画、水素74%、うさぎ庵などの団体にも出演。
映画美学校アクターズ講師。近藤企画とは、青年団の俳優近藤強が気になる演出家と一緒に作品を制作する企画。
ミズノオト・シアターカンパニー作品『ウサギ小屋あるいは悪いのはそれではなくあなたが混乱しているだけ』
出演
折笠富美子 近藤 強* 根本江理* 海津 忠* 伊藤昌子 石垣 直
スタッフ
[音楽]のっぽのグーニー [ムーヴメント指導]藤瀬のりこ* [美術]青木祐輔
[衣装]さとうみち代 [照明]佐藤佑磨 [音響]泉田雄太 [舞台監督]海津 忠*
[宣伝美術]アントニア・ルイ [制作]太田久美子*
=青年団[総合プロデューサー]平田オリザ [技術協力]大池容子(アゴラ企画) [制作協力]木元太郎(アゴラ企画)
[協力](株)アトミックモンキー (有)レトル