下北沢通信

中西理の下北沢通信

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9人バージョンの「転校生」 上演歴に新たな足跡 青年団若手自主企画vol.89 山中企画「転校生」@小竹向原・アトリエ春風舎

青年団若手自主企画vol.89 山中企画「転校生」@小竹向原・アトリエ春風舎

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山中企画「転校生」

山中企画「転校生」青年団俳優部所属の山中志歩による自主企画。青年団の場合、松井周(サンプル)、伊藤毅(やしゃご)らのように俳優として青年団に所属し続けながら、自らが作演出を手掛ける集団の公演を行う場合もあるが、山中企画はそうではなくて、平田オリザの「転校生」を演出家も招いて、自らはプロデューサー的な役割とともに俳優として出演もするという形になっている。
 今回は当初柳生二千翔が演出を担当する予定だったが、体調不良により降板、やはり俳優として出演する石渡愛が演出も手掛けることになった。
「女子高生しか登場しない『転校生』を年齢も性別もバラバラな人たちでやってみたらどうなるんだろう」と山中によると思われる企画意図にはあるのだけれど、演劇というのはそこに提示されているものが、そのままリアルにそれを示しているのでないということもあって、マレビトの会など最近のリアリズムではない演劇を見慣れた観客にとっては脳内翻訳されて普通にあるクラスの女子高生たちが出てきて、ある日一人の女生徒が転校してくるという物語にしか見えないのであった。
 マレビトの会のことをまず挙げたが、これを宮崎玲奈(ムニ)としても同じことで、今回演出を引き受けることになった石渡愛はそのどちらにも俳優として参加した経験があるから、当然こういう形になるだろうなと思う形態となっていたようだ。
 むしろ、興味深いのは原脚本では21人いたはずの登場人物を9人*1にしていることだ。「転校生」の最大の特徴は平田オリザの劇作の特徴である同時多発の会話を複雑に組み合わせていることにあるが、平田の戯曲には物語の意味上のつながりなどから、同時多発と言っても完全に地と図がはっきりしないというわけではなくて、大部分の観客はこちらを聞く(見る)であろうと計算がされた「表」とサブリミナルに聴こえればいいという「裏」とがあって、今回の「転校生」ではかなり「裏」の部分は切り捨ててしまったのではないかと思う。
 21人バージョンは正直言って平田オリザの作品に慣れた観客でないとどこに注目して舞台を見ていいか分からないから、そういう重なっていた部分を削除してしまったことで格段に分かりやすくなった部分はある。ただ、やはりそうすることで失われてしまった作品世界の豊饒さもあるわけで、この9人バージョンは戯曲の形で公開すれば現役高校生の演劇部などの手によっても上演しやすいと思うし、そういうものが上演されることの意味はあるのだけれど、性別年齢が多様な出演者にすること以上に人数を減らしたことの方に変更の影響は大きいように思えた。

作:平田オリザ 演出:石渡愛
いつもと変わらない、ある高校の教室の朝。そこへ、「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」と言う転校生がやってくる。高校生たちの日常、生活。生きること、死ぬことへの疑問。転校生を受け入れながら、身近な出来事を通して、この世の不条理を描き出す群像劇。
1994年に上演されて以来、何度も高校生や若手キャストによって上演され続けている。平田オリザが提唱した「現代口語演劇」の代表作としても知られる。


企画者からのコメント:山中志歩
女子高生しか登場しない「転校生」を年齢も性別もバラバラな人たちでやってみたらどうなるんだろう、と興味が湧きました。今後、年齢とか性別とか人種とか見た目とか、どんどん自由になっていくと思うし、自由になっていってほしい。そんな願いを込めてみたり。
最初で最後の「転校生」。是非、劇場で体験してみてください。

青年団若手自主企画vo.89 山中企画『転校生』演出家変更のお知らせ
演出を予定しておりました柳生二千翔は、体調不良のため演出を降りることとなりました。
柳生二千翔に代わり、青年団俳優の石渡 愛が演出いたします。



出演
石渡愛*  イム・セリュン 川隅奈保子*  黒澤多生*  五島ケンノ介 西風生子*  西山真来*  根本江理* 日和下駄(円盤に乗る派) 山中志歩*  *青年団

青年団若手自主企画vo.89 山中企画『転校生』出演者変更のお知らせ
出演を予定しておりました坊薗初菜は、演出家変更に伴い、降板いたします。
坊薗に代わり、青年団俳優の根本江理が出演いたします。
スタッフ
舞台監督:黒澤多生
音響・照明:櫻内憧海
衣装:金定和沙
宣伝美術:松橋和也
制作:太田久美子、寺垣沙織
総合プロデューサー:平田オリザ
技術協力:大池容子(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

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*1:この他、イム・セリュンがZOOMで映像参加している。