下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団リンク ホエイ「小竹物語」@アトリエ春風舎(3回目)

青年団リンク ホエイ「小竹物語」@アトリエ春風舎(3回目)

「恐怖」をエンターテイメントにする怪談師たち。
「恐怖」を快感とするオーディエンス。
今日は怪談イベントのネット中継の日。


本公演は、怪談イベントをネット中継する人たちの話です。
本編中に行われる怪談イベントを実際にネット中継(ライブ配信)します。遠方にお住まいで劇場まで足をお運び頂けない方もお楽しみいただければ幸いです。
配信アドレスは@にて公開いたします。
なお、怪談イベントは上演の一部ですので、上演全編を中継するわけではありません。あらかじめご了承ください。



作・演出:山田百次(ホエイ|劇団野の上)

出演:河村竜也(ホエイ|青年団) 菊池佳南(青年団|うさぎストライプ) 永山由里恵(青年団
斉藤祐一(文学座) 成田沙織 和田華子 山田百次(ホエイ|劇団野の上)

プロデュース・宣伝美術:河村竜也 制作:赤刎千久子 照明協力:井坂浩 演出助手:楠本楓心

冒頭で河村竜也が演じる高橋*1が「私はもうすぐあちらの世界(と舞台方向を指す)に行ってしまいますが、またこちらの世界に戻ってくるかもしれません。その時はどうぞよろしく」みたいなことを客席の中央部分に設けられたネット配信の中継ブースの中から客席に向かって話しかける。最初にこの作品を見た時にはただの前説だと思ってうっかりしてその重要さを見落としていたが、実はこの部分が非常に重要だ。3回舞台を見終わった上で、この舞台のことを反芻していて初めてそのことに気がついた。
 青年団リンク ホエイの「小竹物語」の主題は様々な意味で通常交わることがない「あちらの世界」と「こちらの世界」を対比させ、その境界を揺さぶろうということじゃないかと思う。この場合、「あちら」というのはまず舞台であり、「こちら」は客席である。舞台とは役者たちが演じている作品の劇世界であり、それが客席側の現実と対比される。
この「小竹物語」では劇場(アトリエ春風舎)があるスペースから怪談イベント「小竹物語」をネット配信しようとしている怪談師たちが描かれていて、劇中のイベントで語られるという呈で観客である私たちは「怪談」を聞くことになる。ところで本当に怪談イベントに参加して怪談を聞いている人であれば目的はあくまで「怪談」であり、さらに言えばそこで語られる怖い話が目的だ。そこで語られる「怪談」にはいろんなタイプの話があるが、多くの場合、この世にありえないような種類の怪異が語られる、ということになる。
実際の怪談イベントでも「怪談」(あちら)とそれを語る「怪談師」(こちら)というあちら/こちらの二重構造があるが、「小竹物語」では「怪談語り」もそれを語る怪談師もともに俳優が演劇の一部として演じていて、観客である我々はそれを舞台の外側から俯瞰してみる構造になる。あるいは劇中では「死んでいる」(あちら)と「生きている」(こちら)という2つの状態も対比している。劇中で高橋は量子理論などを引用しながら、「生」と「死」はどちらも量子の振動の状態であり、それは別々のものではなく、つながっていると語るのだが、それがこの劇の後半に起こる大きなパラダイムシフトの伏線となっている。
 「怪談」語りの部分で山田はそれぞれの語りと並行して怪談師たちの間に流れる何か不穏な空気感を提示していく。このように会話の端々に表れるちょっとしたトーンなどから隠れた関係性を提示していく手法は平田オリザに代表される「関係性の演劇」そのものだが、ネット中継が終わるとそれまで垣間見えるだけだったのが、山本ふみか(ふーみん)が中継の最後で突然、西園寺への当てつけのように怪談アイドル卒業宣言をしてしまうなど2人の間に引き起こされる決定的な対立が全面的に露呈していく。
 2人の対立はやや強引な展開ではあるが、目玉焼きにどんな調味料をかけるかということで、ふーみんがかけてくれと頼む前に西園寺が醤油を勝手にかけてしまうのはおかしいと糾弾したのに対し、西園寺は「醤油以外に何をかける。目玉焼きに醤油は常識だ」と主張して他のメンバーの同意を求める。ここからしばらく、西園寺とふみか(ふーみん)の「目玉焼きに醤油は常識かどうか」についての動員合戦がはじまり、一度は企画主催者の西園寺への忖度から皆が「醤油」と答えるものの、周囲の空気を全く読まない(読めない)青森県の佐々木ソメがトイレからも砂糖と答えたことをきっかけにそれぞれがかけているのが本当は実は塩こしょうであったり、酢であることが明らかになり、西園寺はあっという間に少数派に転落、ふみかの「かならずしも目玉焼きにかけるのは醤油とは限らない」という主張が説得力を持つ見解として復活する。 
 

*1:あるいはこの時点ではまだ前説を行っている青年団リンクホエイプロデューサー、河村竜也が、なのかもしれない