下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

うさぎストライプ「ハイライト」(3回目)@こまばアゴラ劇場

うさぎストライプ「ハイライト」(3回目)@こまばアゴラ劇場

f:id:simokitazawa:20190410155807p:plain

作・演出:大池容子

“東京” と呼ばれた男の結婚式。その余興のために集まった三人と、
友人代表のスピーチを任された一人の男。
彼らが「おめでとう」と「さようなら」を告げるのは、
東京という、もうどこにも無い場所だった。

大池容子による「北海道戯曲賞」受賞後初の新作です。


うさぎストライプ

2010年結成。「どうせ死ぬのに」をテーマに、演劇の嘘を使って死と日常を地続きに描く作風が特徴。2017年にこまばアゴラ劇場で上演した『バージン・ブルース』で平成30年度 北の大地の戯曲「北海道戯曲賞」大賞を受賞。


大人になれない大人のためのうさぎストライプとは?

いつのまにか大人になってしまった人々の、叶わなかった夢と当たり前に続く日常を描くシリーズ。これまでに『セブンスター』『わかば』『ゴールデンバット』を上演。

『バージン・ブルース』(2017)撮影:西泰宏
出演

亀山浩史 菊池佳南 小瀧万梨子(以上、うさぎストライプ) 芝博文
スタッフ

制作:金澤昭(うさぎストライプ)
宣伝美術:西泰宏(うさぎストライプ)
舞台監督:杉山小夜
照明:黒太剛亮(黒猿)
音響:角田里枝(Paddy Field)
制作補佐・当日運営:山下恵実
当日運営:鈴木南音

芸術総監督:平田オリザ
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)

平田オリザ風の群像会話劇(現代口語演劇)と多田淳之介(東京デスロック)に影響を受けた身体的な負荷や身体表現を取り入れた演劇表現を往復しながら自らの立ち位置を模索してきた感があった大池容子(うさぎストライプ)であるが、ここ最近上演したいくつかの作品で独自のスタイルを確立しつつあるようだ。
 「東京の没落」という主題を寓話的に描いた作品。大池が所属する青年団も東京を離れて、兵庫県豊岡市に拠点を移動することが決定済み。とはいえ、俳優はともかく青年団演出部所属の劇作家・演出家で豊岡に移住するものは少ないようだが、大池は豊岡への移転を決めたということで、この作品は同じく東京を離れて生まれ故郷である仙台に戻ることを決めた菊池佳南を含め、メンバー個々の居住地はバラバラになっても劇団活動は継続することを決めている。今回の舞台はそういう自分たちが置かれた状況の下での心情を東京五輪とその後に東京に起こったことを寓話的に描き出している寓話的と書いたのはその状況はリアルに描かれるというわけではなく、物語が展開される場所も時期も融通無碍に転換していくのが特徴。登場人物たちもキャラの同一性は保ちながらも、工事現場で働く人からコンビニの店員、はとバスの運転手とバスガイドなど「ごっこ」じみた変貌を遂げていく。
 歌手を目指して東京に出てきたが、夢破れて故郷仙台に帰ろうとしている女(菊池佳南)。彼女は工事現場に置かれている人型のロボット作業員「安全太郎」と結婚したいという強い執着を抱いている。彼女だけでなく、多くの人間が東京から逃げ出そうとしているが、それは五輪の時に起きた大きな事故で数百人の死者が出て、それを機に「東京はもう終わり」と考える人が増えたからだ。
 もうひとつの売り物は演者たちが作中で歌うマイ・ペース「東京」など生歌の数々。しかも菊池、小瀧万梨子らが歌う。これがなぜかいずれも昔の歌謡曲、懐メロであるのが面白い。うさぎストライプと言えば以前は相対的理論やゆらゆら帝国など(当時の)若者受けする楽曲を好んで劇中で流す劇団というイメージが強かったが、いつの間にかレトロ好みの音楽劇へと変わってきて、この作品などを見ると全体の雰囲気もそれに合わせて変わってきているのが興味深い。