下北沢通信

中西理の下北沢通信

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解かれないままで終わる謎の連鎖 独自性はあるがもどかしさも うさぎストライプ「かがやく都市」@小竹向原アトリエ春風舎

うさぎストライプ「かがやく都市」@小竹向原アトリエ春風舎


うさぎストライプ「かがやく都市」@小竹向原アトリエ春風舎を観劇。うさぎストライプは青年団系の若手劇団の中では作品ごとの作風の振れ幅が大きい方で、だから全くの新境地というには語弊があるのだが、作品のあり方がこれまでのこの劇団の作風とは違うように感じた。
まず上演時間が50分と短い。物語の設定として冒頭から説明もなしに宇宙人の兄妹というのが出てくる。そのことについて、設定上謎なことがけっこう多く存在し、これまでの大池容子の作品ならそのうちの一部は直接明らかにならなくても物語の進行に従い観客には了解されていくことが多いが、「かがやく都市」はそれがあまりなく、「え! ここで終わりなの」と感じたほどずいぶんあっけなく終わった印象なのである。
設定上謎なことというのをもう少し具体的に言うと、まず物語の中心である宇宙人の兄妹(亀山浩史、安藤歩)だが、彼らは宇宙人であって頭に一対の触角のようなものが生えており、テレパシーのような人を超えた能力を持っていることから、そうであることが分かるのだが、実際に何の目的でこの街に来て住んでいるのか、兄が経営する工場で作っている「人間」とは何のことなのかなどは最後まで明らかにならない。宇宙人というのは単純にこの街に移住してきた「外部からの人(エイリアン)」つまり移民のメタファーなのかとも考えてみたが、そういう風にも解釈できなくはないけれど、そんな陳腐な説明ではやはり納得しにくいことが多いのも確かなのだ。
 この街には広場がある。都市計画の専門家としてそれを設計したのが宇宙人の妹とその学校の先輩の少年(安藤歩)を相手に都市計画の授業をしている先生(伊藤毅)。この男は途中で教師を辞めると言い出すのだが、辞める理由もよく分からない、というかほとんど説明されない。辞める前にひさびさに昔友達だったという宇宙人の兄に会いにくるのだが、それも理由が示されない。
 また、この街からは人がどんどんいなくなっている。物語の中では「宇宙人に連れ去られていっているのではないか」などという話も出てくる。さらに夫と子供が宇宙人に連れ去られたという謎の女(小瀧万梨子)も登場するが、その真偽もやはり分からず、彼女の正体も分からず、すべてが解明されない謎のままに終わるのだ。
つまり、「かがやく都市」という作品はそういう解明されない謎のエピソードが次々と提示されるものの、それはいずれもほとんど解明されずに終わり、その連鎖がなんとも不思議な世界観を醸し出すような作りになっている。これはともすれば未完成のまま放棄されてしまったようにも見えかねない危うさをはらんでいて、そこにはここでしか味わうことができない感覚というのがある。そういう風に感じながらも現時点ではまだしっくりこない部分も多々あるというのも現時点の印象なのだ。

作・演出:大池容子
ここにはもう、なに一つ残っていない。

“平成の残り香”というお香が爆発的に流行する近未来。
高校で美術講師をしている男は、それが手放せない生活をしていた。

男が勤務する、高校の美術室。
“ネオ・トーキョーシティ” という模型を組み立てる、高校生の男女。
それは彼らが思い描く理想の街を模型にしたものだ。

ある日、男子高校生の前に謎の女が現れ、彼の才能に惚れ込む。
一方、女子高校生の兄は、家族に言えない秘密をひた隠しにしていた。

やがて街は、ゆっくりと煙に包まれていく。


うさぎストライプ
2010年結成。劇作家・演出家の大池容子の演劇作品を上演する。「どうせ死ぬのに」をテーマに、演劇の嘘を使って死と日常を地続きに描く作風が特徴。
2019年3月、一人の娘と二人の父親による“ありふれた”家族の形を描いた『バージン・ブルース』で平成30年度 希望の大地の戯曲賞「北海道戯曲賞」大賞を受賞。


出演
宝保里実(コンプソンズ)
安藤歩(演劇企画もじゃもじゃ)
伊藤毅青年団リンク やしゃご/青年団
亀山浩史(うさぎストライプ)
小瀧万梨子(うさぎストライプ/青年団

スタッフ
[照明監修]黒太剛亮(黒猿)
[音響監修]泉田雄太
[制作]金澤昭(うさぎストライプ/青年団
[宣伝美術]西泰宏(うさぎストライプ)