下北沢通信

中西理の下北沢通信

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福名理穂の岸田國士戯曲賞受賞後第1作 故郷広島を舞台に母娘の葛藤描く ぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」@こまばアゴラ劇場

ぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」@こまばアゴラ劇場


  ぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」@こまばアゴラ劇場を観劇。前作『柔らかく搖れる』(2021年)で、第66回岸田國士戯曲賞を受賞した福名理穂の受賞後第1作である。前作同様に作者の出身地である広島市周辺の方言により展開される群像会話劇で、この分野の先達である松田正隆作の青年団プロデュース「夏の砂の上」(平田オリザ演出)で鮮烈なデビューをした占部房子が出演していることになにやら因縁のようなものを感じた。
 実は「夏の砂の上」は今年、玉田真也の演出*1でも見ていて、占部房子の存在を度外視しても今回のぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」と「夏の砂の上」には共通点が多いのではないかと感じた。「夏の砂の上」は崩壊した夫婦の影が周囲の人間をいや応なしに巻き込んでいくのを描いている。そして、その根底には作品には直接は出てこない亡くなった息子の存在があることが次第に分かっている。
 ぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」はかつて娘(岡本唯)の父親が出て行ったことを契機にそのことが母親(占部房子)の心の奥底に影を落として、スピリチャルにのめり込んで常軌を逸していく母親とその闇の渦に巻き込まれて、自律が出来ずに母親に縛りつけられる娘の姿が描き出される。
 とはいえ、「夏の砂の上」では初演で占部が演じた姪の存在が暗い世界を一筋の光のように照らし出していた部分がありこういうヒロインのあり方にはよくも悪くも松田正隆のセンチメンタリズムのようなところがあるが、福名の描き出す世界は単純にもっと身も蓋もない世界。最後には娘が「東京に出してくれ」といい、紆余曲折はありながらそれを許す母親の姿も描かれるが、そこからは明るい未来への予感などは感じられない。娘の父親の死を知ったことがひとつの契機とはなっているが、そこからは苦さとして母親の諦念が漂ってくるからだ。

作・演出:福名理穂
夫に捨てられたトラウマをもつ母と、そんな母を置いて家を出る決断ができない娘。
ある日、二人の住む広島の小さな町で殺人事件のニュースが流れる。


ぱぷりか
福名理穂により2014年旗揚げ。
主に会話劇を中心とし、人との繋がりで生まれる虚無感を描く。
第5回公演『柔らかく搖れる』(2021年)で、第66回岸田國士戯曲賞受賞。
今作は受賞後初の長編新作となる。
Webサイト:https://www.paprika-play.com


出演
占部房子
富川一人(はえぎわ)
林 ちゑ(青年団
阿久津 京介(DULL-COROLED POP)
岡本 唯(ぱぷりか/時々自動)

スタッフ
舞台美術:泉 真
音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
音響操作:たなかさき(Sugar Sound)
照明:山内祐太
舞台監督:岩谷ちなつ
演出助手:坂本奈央(終のすみか)
イラスト:三好 愛
宣伝美術:中北隆介
当日運営:大橋さつき(猫のホテル
制作:込江 芳、半澤裕彦