下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT第89夜『(生)ももいろフォーク村 第89夜 僕らの音楽』@フジNEXT

坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT第89夜 『(生)ももいろフォーク村 第89夜 僕らの音楽』@フジNEXT

セットリスト
M01:Do You Wanna Dance? (HEAVEN/ザ・ビーチ・ボーイズ)
M02:全力少女 (HEAVEN/ももクロ)
M03:未来へススメ! (HEAVEN/ももクロ)
M04:あの空に向かって (HEAVEN/ももクロ)
M05:DNA狂詩曲 (HEAVEN/ももクロ)
M06:労働讃歌 (HEAVEN/ももクロ)
M07:走れ! (HEAVEN/ももクロ)
M08:ピンキージョーンズ (HEAVEN/ももクロ)
M09:Chai Maxx (HEAVEN/ももクロ)
M10:猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」 (HEAVEN/ももクロ)
M11:ドゥ・ユ・ワナ・ダンス? (HEAVEN/HEAVEN)
M12:天国のでたらめ (ももクロももクロ)
M13:星空のディスタンス (村長&ももクロ&DYWDメンバー/THE ALFEE)
M14:けんかをやめて (あーりん/河合奈保子)
M15:ZOO (しおりん/川村カオリ)
M16:一本道 (夏菜子/友部正人)
M17:悪女 (れに/中島みゆき)
Go!Go!BAND GIRLZ
M18:泣いてもいいんだよ (BAND GIRLZ/ももクロ)
M19:あんた飛ばしすぎ!! (ももクロももクロ)
M20:WE ARE BORN (ももクロ&DYWDメンバー/ももクロ)

アンコール「坂崎幸之助のフォーク村」
M1:さんま焼けたか (村長/斉藤哲夫)
M2:旅の宿 (村長/吉田拓郎)
M3:ぼくのそばにおいでよ (村長/加藤和彦)
M4:ノーノーボーイ (村長/ザ・スパイダース)
M5:鎮静剤 (村長/高田渡)
M6:主婦(かあちゃん)のブルース (村長/高石友也)

前半部分はミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス? 」に登場したアイドルグループHEAVENが登場。実際の舞台では後方の客席だったこともあり、ダンスのフォーメーションなどは鑑賞できて楽しめてもももクロ以外のメンバーの表情などは分からなかったから、映像ソフトが出るのを心待ちにしていたが、その前にこういう機会を作ってくれたのが非常に嬉しかった。
 HEAVENはももクロのメンバーが演じているのだけれど、ももクロと重なり合うことはあってもももクロとは別のグループだ。今回の放送を見た人で「ももクロのパロディ」と書いていた人がいたが、これは最初9人いたメンバーが次第に減っていって最後に4人になるなどももクロの存在を下敷きにしているところはあっても決してももクロのパロディなどではない。川上アキラマネージャーの存在しなかったパラレルワールドももクロとはまったく別のコンセプトで設立されたグループなのだ。ももクロと同じ楽曲を歌って、似たような振付を踊ってはいるが、ももクロ以外のメンバーはもちろんももクロもHEAVENとしてももクロとは違うパフォーマンスを演じているのが面白い。

宮城聰×百田夏菜子×本広克行 トークイベント「文化芸術都市 TOKYOの未来」@東京芸術劇場 プレイハウス

トークイベント「文化芸術都市 TOKYOの未来」@東京芸術劇場 プレイハウス

出演:百田夏菜子ももいろクローバーZ)、本広克行、宮城聰、小池百合子
司会:中井美穂

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「文化芸術都市 TOKYOの未来」は、東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けて、さまざまな文化プログラムを展開する「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の一環として開催されたトークショー

 “演劇”というテーマを共通項に、「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」でミュージカル作品に初挑戦したアイドルの百田夏菜子ももいろクローバーZ)、同作の演出を手がけた本広克行、東京芸術祭の総合ディレクターを務める宮城聰(SPAC芸術総監督)、小池百合子都知事が参加、東京の芸術文化についてのトークを繰り広げた。司会は中井美穂が担当。

トークの内容自体は大したものではないといえなくもないのだけれどももクロのリーダーである百田夏菜子と宮城聰がこの日同じ壇上に上がったということはある種の感慨を覚えることだった。というのはやはり壇上に上がった本広克行が映画と舞台の「幕が上がる」によってまず平田オリザももクロを結びつけたのだが、私はそれ以前に「パフォーマンスとしてのももいろクローバーZ」という論考を書いて、そこで宮城聰の提唱する「祝祭としての演劇」とももクロとの深い関連性を論じていた
*1からだ。
 実は興味深かったのは「パフォーマンスとしてのももいろクローバーZ」の第2部として論考「演劇とももいろクローバーZ*2を書き、こちらの最後は鈴木聰が脚本を担当したミュージカル「阿国」で締めくくっている。鈴木が「ドュ・ユ・ワナ・ダンス?」の脚本を担当したことやパンフの対談のなかで「阿国」とももクロとのイメージが重なると自ら話していることなど、4年以上の歳月をへて当時の見通しが現実として実ってきていることなどもあり、私の見方も捨てたものではなかったかもと思い始めているのだ。それでも20年近く見てきた平田オリザももクロと組むことを見破れなかったのは痛恨であった。
simokitazawa.hatenablog.com
 

病院に検査入院(10月11日~24日)

病院に検査入院(10月11日~24日)

朝日生命成人病研究所附属病院(浅草橋)に検査入院(10月11日~24日)。期間中観劇もライブ参戦もできませんが、症状の思い病気というわけではないので、基本的に検査以外のときは暇です。近くにいて暇な人は面会可能ですので以下のアドレス(simokita123@gmail.com)あるいはツイッターなどに連絡していただけるとありがたいかも。
 入院中手持ち無沙汰だったので、ひさびさにミステリ小説を読み出している。最初に読んだのがカーター・ディクスン「九人と死で十人だ」。小説だが、不可能状況もありカーらしい作品とは言える。

革命アイドル暴走ちゃん 国内公演2018・秋!『暴走桜』@しもきた空間リバティ

革命アイドル暴走ちゃん 国内公演2018・秋!『暴走桜』@しもきた空間リバティ

此処は天下の暴走ちゃん! 革命砲火の真っ只中! アイツもコイツも皆で集まれ
チャンチャン★バラバラジャポネスク!
のべつまくなし丁半博打っトン!ナン!シャー!ペー! いー!ある!さん!すー!
群雄割拠の満員御礼 大胆無敵にハイカラ革命 末は女郎か火炙りか。
一宿一飯 忘れやしねぇぜそのご恩。
貴方に捧げるローマーンース!

とーこの生首欲しけりゃおいで 暴走桜で待ってるよ。
男の仁義か 女の意地か 皆で一緒に大団円!(ヘイ)

※尚、今回は火気・水・ナマモノなしのイージーモードです!<音楽・構成・演出> 二階堂瞳子<キャスト>
江花明里
小林ありさ
出来本泰史
以上、革命アイドル暴走ちゃん

犬吠埼にゃん(大江戸ワハハ本舗・娯楽座)
折原啓太(劇団回転磁石)
河野里咲子(ででっぽ)
近藤瑛里
佐戸彰悟(劇団ひまわり
椎葉 菜々恵(ハルベリーオフィス)
菅木まほ(劇団こめの子)
千葉 慧(しもっかれ!)
ちょんかな
遠田風馬
中井宏美
那須野綾音(アルファベットプロモーション)
ぼたもち
丸橋結美(法政大学Ⅰ部演劇研究会)
水森あんり
茂原里華
和釜まこと<日程>
2018年10月10(水)~14日(日)
10日(水)19:30
11日(木)19:30
12日(金)19:30
13日(土)14:00/19:30
14日(日)13:00/17:00
受付開始:開演40分前
開場:開演20分前※変更の可能性あり<劇場>
しもきた空間リバティ
〒155-0031 東京都世田谷区北沢2丁目11-3 4F イサミヤビル4F

<アクセス(交通手段)>
京王井の頭線小田急下北沢駅南西口より徒歩5分

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 革命アイドル暴走ちゃんはアニメ、ボカロ、アイドル曲などをノンストップでかけまくる音楽に乗せてオタ芸を始めはげしい激しい動きで踊り続ける。
 今回は表題「暴走桜」から分かるようにボカロ曲の「千本桜」がテーマ曲。音楽は次から次へと流れ去るようにつながっていくなかで、この曲だけはアレンジを変えて何度も繰り返される。
 最新のサブカルを積極的に取り入れているみたいに感じていたのだが、今回気がついたのは実は作品中で流されている曲は新しいものというより、少し前のものが、多いのではないかということだった。
 これは知らない曲も数多く入っているので、絶対にそうだといいにくいのだが、「涼宮ハルヒの憂鬱」から「ハレ晴れユカイ」がはいっていたり、こちらはけっこう最近といえば最近だが「ようこそジャパリパークへ」も入っていた。一方、アイドル曲はいずれも断片に近いがももクロが「だってあーりんなんだもん」と「Chaimax」の2曲が入っていたのは嬉しかった。
 「ハレ晴れユカイ」などはバナナ学園時代からやっていた曲で最近の若者がどの程度知ってるのかと気になったりもするのだが、海外公演も多いから海外受けするものを選んでいるのかもしれない。
  

ラシッド・ウランダン(フランス)『TORDRE(ねじる)』(2014)@スパイラルホール

ラシッド・ウランダン(フランス)『TORDRE(ねじる)』(2014)@スパイラルホール

公演日時
10/6 Sat 19:00
10/7 Sun 16:00
※上演時間 約70分
※開場は開演の30分前
会 場
スパイラルホール
※12歳から入場可
ミュージカル映画『Funny Girl』の音楽とともに始まる、遊び心のある冒頭部。催眠的・瞑想的な雰囲気が舞台を包み込み、ダンサーのムーヴメントと、彼女たちの身体の親密な物語が繊細に描かれる。
コンセプト・振付:Rachid OURAMDANE
出演:Annie HANAUER & Lora JUODKAITE
照明: Stephane GRAILLOT
美術: Sylvain GIRAUDEAU
製作: CCN2-Centre choregraphique national de Grenoble – Direction Yoann Bourgeois and Rachid Ouramdane
共同製作: L’A./Rachid Ouramdane, Bonlieu – Scene nationale d’Annecy, la Batie – Festival de Geneve dans le cadre du projet PACT beneficiaire du FEDER avec le programme INTERREG IV A France-Suisse
協力: Musee de la danse, Centre choregraphique national de Rennes et Bretagne
作品制作助成: Ministere de la culture et de la communication/DRAC Ile-de- France dans le cadre de l’aide a la compagnie conventionnee et de la Region Ile-de-France au titre de la permanence artistique.

共催:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
助成:アンスティチュ・フランセ パリ本部

The CCN2 is financed by Drac Rhone-Alpes/Ministere de la culture et de la communication, Grenoble-Alpes Metropole, Departement de l’Isere, Region Auvergne-Rhone-Alpes and supported by Institut francais for international tour.

vimeo.com

Dance Performance | Loreta Juodkaite | TEDxVilnius
 まるでフィギュアスケートのような高速回転がLora JUODKAITEのムーブメント(動き)の特徴。一方、Annie HANAUEは滑らかな動きがそのことを感じさせないが、左腕が義肢のダンサーだ。舞台上にはT状になっていて横バーが回転するキネティックアートのような舞台装置が左右2種類配置されている。幾何学的に回転するダンサーLora JUODKAITEが自分の過去を語り、逆に義肢にまつわる何かの過去がありそうなAnnie HANAUEは舞台上ではそのことは一切口にせずというか、言葉はいっさいなしで踊る。
 個性のまったく異なる2人の女性ダンサーへのあてがきのようにも見えるそれぞれの振付が全く対象的でありながら、時にはシンクロして見えるのが面白い。

木野彩子 レクチャーパフォーマンス『ダンスハ體育ナリ?』@ ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター

木野彩子 レクチャーパフォーマンス『ダンスハ體育ナリ?』@

ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター

其ノ一 体育教師トシテノ大野一雄ヲ通シテ(2016)
其ノ二 建国体操ヲ踊ッテミタ(2018)
公演日時
10/6 Sat 15:00
10/7 Sun 12:00
※上演時間 約150分(休憩あり)
※ホール内に資料を展示いたします。開場は開演の45分前に変更させていただきます。
会 場
ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター
※4歳から入場可
日本では体育の一環として教えられているダンス。健康のために音楽に合わせて清く正しく美しく。其ノ一では女子体育の歴史と大野一雄を、其ノ二では1940年幻の東京オリンピックと体操の大流行をもとに、元中高保健体育教師、ダンサー・大学講師の木野が、体操とダンス、そしてスポーツとの違いをレクチャーとパフォーマンスにより明らかにする。
其ノ一 体育教師トシテノ大野一雄ヲ通シテ
構成:木野彩子
出演:林洋子、木野彩子
初演:Dance Archive Project 2016 (2016 BankART Studio NYK)

其ノ二 建国体操ヲ踊ッテミタ
構成/出演:木野彩子
初演:Dance Archive Project 2018 (2018 明治神宮外苑聖徳記念絵画館)

作品企画制作:NPO法人ダンスアーカイヴ構想
協力:大野一雄舞踏研究所,NPO法人ダンスアーカイブ構想,鳥取大学地域学部附属芸術文化センター

 体育とダンスの関係を考察した木野彩子のレクチャーパフォーマンス。木野は横浜ソロ&デュオコンペと受賞者関連公演で見たことがあったが、それも相当以前のことで最近姿を見ない。海外にでも行ったかなと思っていたら筑波大大学院をへて、鳥取大学地域学部 附属芸術文化センターの講師を務めているということらしい。
 日本の戦前の体操やダンス(舞踊)の歴史のレクチャーであり、特にそうした歴史について興味がない人が見て作品として面白いものなのかは微妙なところで、今回のDNAにはダンスプログラムの1つとして入っているが、本来はフェスなどでは関連プログラムとしてレクチャーとして開催される内容だと思われた。「建国体操ヲ踊ッテミタ」という2本目のレクチャーのように最近、研究者が再発掘した「建国体操」というものを皆で一緒に踊ったり、踊ってみせたりと内容を立体化して分かりやすく紹介しているのはレクチャーとしては珍しく、面白いと思った。

アニメ「アトム・ザ・ビギンニング」@ニコニコ動画

アニメ「アトム・ザ・ビギンニング」@ニコニコ動画

atom-tb.com
アニメ「アトム・ザ・ビギニング」を面白かったので動画サイトで1~9回まで一気に見てしまったのだが、今気がついたのだが総監督、本広克行さんだったのね。原作の漫画手塚治虫の「鉄腕アトム」を原作に若き日のお茶の水博士と天馬博士とアトム誕生までの物語を描いた。とはいえ、「機動警察パトレイバー」のゆうきまさみがコンセプトワークに参加、作画をカサハラテツロ―が手掛けたこともあり、「PLUTO」のような哲学的な重厚さはやや薄いけれどもメカニカルの描写や工学的な考証のリアリティーなどにおいては同じく「鉄腕アトム」を原作にリメイクした浦沢直樹PLUTO」とは大きく異なるものとなっている。
 

ルーシー・ゲリン/Lucy Guerin Inc(オーストラリア)『SPLIT』(2017)@スパイラルホール

ルーシー・ゲリン/Lucy Guerin Inc(オーストラリア)『SPLIT』(2017)@スパイラルホール

公演日時
10/3 Wed 20:30
10/4 Thu 20:30
※上演時間 約50分
※開場は開演の30分前
会 場
スパイラルホール
※16歳から入場可
人生を例えているかのような時空の中で、二人のダンサーが互いに関わりあいながら、自己と他者との間に生まれるジレンマを映し出す。オーストラリアで最も果敢なダンスカンパニーによる刺激的で示唆に富んだ秀作。

振付: Lucy GUERIN
出演: Melanie Lane,Lilian Steiner
音楽: SCANNER
照明: Paul LIM
衣裳: Harriet OXLEY
音響: Robin FOX
協力: City of Melbourne through Arts House
Lucy Guerin Inc is supported by the Australian Government through the Australia Council for the Arts, its arts funding and advisory body; the Victorian Government through Creative Victoria’s Organisation Investment

白いテープが張られて正方形に区切られた空間に2人の女性ダンサーが現れる。ひとりは着衣であり、もうひとりは裸体であるが、作品が始まってしばらくの間、2人のダンサーはシンクロして全く同じ動きで踊る。最初の部分のダンサーの動きはシンプルかつエレガントで「FASE」とか初期のケースマイケルの作品を連想した。
 ただ、面白いのは裸体という仕掛けを舞台に登場させたことで、ローザスとは全然違ういろんなことを舞台を見ながら考えざるを得なくなるのが面白い。ダンスとは思考でもあるんだということを再認識した。
 ここからは私があくまで感じた感じで、こういうのは人によって大きく異なることになるのかもしれない。裸体のダンサーが肉感的というよりはすらっとした均整のとれた姿態をしていることもあるのだろうが、裸体というのは絵画によるデッサンでもそんなことがあるが、意外とオブジェ的にしか見えない。

黒田育世『ラストパイ』(2005)@草月ホール

黒田育世『ラストパイ』(2005)@草月ホール

世間的には菅原小春が出演することに話題が集まるだろうし、私も楽しみなのでそれに異論はないが、個人的には北村成美(しげやん)の出演に注目している。黒田と北村のこれまでの活動は自ら率いるBATIKを中心にグループ作品を主体に創作してきた黒田育世に対し、しげやんという得がたいキャラクターを核にソロダンス主体に活動を続けてきた北村は対極的な存在だ。

北村成美プロモーションムービー

=菅原小春ダンスパフォーマンス= #StrongSouls –世界同日開催新アルティミューン発売イベント-

 ただ、この2人には実は共通点も多い。ひとつは2人ともダンスの原点はバレエであり、黒田は谷桃子バレエ団、北村は石井アカデミー・ド・バレエ*1の出身でともに踊りの基礎にバレエを持ち、時期は違うが英国のラバンスクールへの留学経験を持つ。
 近年はともに子供を持ち、育児とダンスを両立。ともに自分の子供を舞台に上げたことがあるというのも共通点で、この2人の活躍はこれから結婚、出産をする女性ダンサーにははげみになっているのではないかと思う。
 「ラストパイ」は2005年7月15日に金森譲率いるNoism05により「Triple Bill」として初演された。残念ながら初演を見られなかったのだが、この作品の元となった黒田育世本人が踊るソロダンス「モニカモニカ」は何度も見たことがある。強烈なリズムを刻む松本じろのギター演奏に合わせて、激しい動きを何度も何度も繰り返していくことで、強い負荷を受けた身体が立ち現れるのを見せていく、という作品だ。
 身体に負荷を与えることでそこから立ち現れる生命のエッジのようなものを見せていくという作品群は2000年代以降のダンス、演劇においてひとつの潮流をなしてきた。この「ラストパイ」は「3年2組」など矢内原美邦のいくつかの作品、多田淳之介の「再生」「RE/PLAY」などとともに代表的な作品だということを今回の再演を観劇して再確認させられた。
 さて、それでは実際の舞台がどうだったのかといえばこれはソロを踊った菅原小春の命を削るような全身全霊をかたむけたダンスには強烈なインパクトがあった。かつてテレビ番組「情熱大陸」で彼女の紹介を見た。その印象ではこのひとはとにかく妥協というものを知らずにダンスに向けて純粋な熱意で飛び込んでいく人なんだなと感じた。そうした意味では自分を追い込んでいくのは彼女のダンスへの取り組みとしてはルーティンだと言ってもよいのだろう。
 だが、いくら妥協をしないといっても普段踊っているような自分の振付作品ではそこに無意識に自分の限界を設けているようなところがあるはずだ。
 黒田の「ラストパイ」はそうした無意識の妥協さえ許容せず、ダンサーをひたすら追い込んでいく作品。この作品における菅原小春はもがき苦しんでいて、スタイリッシュにダンスを切れよく踊れるダンサーというこれまでの彼女のイメージを根底から覆すしている。
 これまで菅原小春が辿り着いたことのない領域だったのではないかと思う。舞台終了後の菅原は何とかカーテンコールには現れたもののふらふらで憔悴しきった様子。いかにこの日の彼女がエネルギーを最後の一滴まで搾り取るかのように全身全霊で踊ったのかというのが伺えた。これを機に菅原がどんなダンス作品を創作していくのかというのが楽しみな舞台でもあった。

 さて、最初に書いた北村成美だが、アンサンブルの一員として周囲を引っ張っていく役で健在振りを発揮した。このダンスは舞台下手で延々とソロの菅原小春が踊り続けるが、途中から4人のソリスト的なダンサーが出てきて、舞台中央あたりでそれぞれのソロ的なダンスを踊る。さらに中盤以降はBATIKのダンサーらが集団で出てきてこちらは先に出た4人のようにソロの集積ということではなく、群舞として円状の形態を全体として形成しながら、全体として脈動するような動きになっている。実は北村はこのアンサンブルの核をなすような扇の要的な役割を任せられており、ソロではないので一見地味なようではあるが、Noismの初演ではこの部分は井関佐和子が踊ったというから、重要な役割を任せられたといえよう。
 とはいえ、この公演の大きな意義は狭義のコンテンポラリーダンスの外側で活躍してきた優れたダンサーである菅原小春をコンテンポラリーダンスと出会わせたことにあると思う。
観客の一部からこの作品を踊るのにバレエ経験のない菅原小春は作者の黒田や初演の金森譲と比べ、柔軟性やテクニック的な多様性を欠き、不適との指摘を耳にした。私も作品を見始めてからしばらくは動きが意外と直線的なんだなとか、もう少し動きが柔らかいとより映えるのになと思う瞬間はなくはなかった。ところが、この作品においてはそういうことはどうでもいいとまで言えなくても、それほど重要じゃないんだというのが菅原小春の踊りを見続けていると次第に分かってくる。それはある意味、ダンスという形を取った生命の蕩尽といってもいいのだが、踊り続けるということが何度も身体能力の限界にぶち当たり、もがき苦しむなかで立ち現れてくるもの。これこそが黒田自身がいくつもの作品で体現してきたものだし、この作品において菅原が黒田から継承したものなのだ。

公演日時
10/3 Wed 19:00
10/4 Thu 19:00
10/5 Fri 19:00
※上演時間 約40分
※開場は開演の15分前
会 場
草月ホール
※4歳から入場可
日本のコンテンポラリーダンス界を牽引する振付家黒田育世が、Noism05から振付委嘱され2005年に初演した話題作。
異なるダンスシーンを駈け抜けてきたダンサーらによるドリームチームがDance New Air 2018に集結。伝説の作品が蘇る。
振付・演出:黒田育世
音楽・演奏:松本じろ
出演:菅原小春、小出顕太郎、加賀谷香、熊谷拓明、樋浦 瞳、北村成美、奥山ばらば、関 なみこ、BATIK(伊佐千明、大江麻美子、大熊聡美、政岡由衣子)

照明デザイン:森島都絵(株式会社インプレッション)
音響プラン:牛川紀政
音響オペレート:青谷保之
舞台監督:千葉翔太郎

衣装デザイン:山口小夜子

制作:瀧本麻璃英

初演:Noism05「Triple Bill」2005年7月15日 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館<< 

*1:ちなみに寺田みさこは同バレエ団のプリマである。

漫画「ちはやふる」

漫画「ちはやふる

 ネットカフェで漫画「ちはやふる」を現在刊行中の(39)まで読了。「ちはやふる」は実写版映画に加えて、テレビ版のアニメ、原作である漫画があるが、基本的なシチュエーションは共有しながらも物語の筋立てがそれぞれ違う。映画版の終わり方は極めて秀逸だったのではないかと思うが、原作漫画が完結していない状況で映画としては終わらせなければならないという苦慮の果てというのがあったのに違いない。