下北沢通信

中西理の下北沢通信

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8月のお薦め芝居(2004年)

8月のお薦め芝居

by中西理







 8月は夏休みをとってこのところ恒例となりつつあるエジンバラ演劇祭観劇旅行(8月22日〜28日)に行く予定。その模様はいずれ下北沢通信の方でも詳細にレポートするつもりだが、その前にお薦め芝居の方をやっつけてしまおう。




 お薦め芝居と書きながらもここを読んでいる人がいれば、お前のそれはダンスばかりじゃないかと思う人がいるかもしれないが、ここでは自分がどれだけ見てみたいと思えるかを基準に舞台を選んでいると自然そういう風になってしまうのだ。そういうわけで今回もイチ押しは東西でのダンス公演からはじまる。


 東京ではニブロール「NO-TO」★★★★Batik「SHOKU -full version-」★★★★といずれも若手女性の振付家による作品の公演が予定されている。ニブロール「NO-TO」は昨年以来「ノート」の連作として上演されてきた作品の最終バージョン。先日のトヨタコレオグラフィアワードでは大阪の東野祥子(BABY-Q)がアワードを受賞し、惜しくも賞を逃したが、ニブロール矢内原美邦がここ数年、日本のコンテンポラリーダンスの新しい動きのトップランナーとして、もっとも注目されている存在であるのは間違いない。演劇・ダンスを見渡しても、ニブロールの表現は最近のポップカルチャーの動向なども作品中に取り入れながら「21世紀の冒頭にここ日本の東京に住んでいる私たち」による表現という点ではカッコよさも、気持ち良さも兼ね備えた舞台で、昨年神戸で見た連作のなかの作品「ノート」はオリジナルの音楽、衣装、映像などを含めた総合力のレベルの高さから2003年のダンスのベストアクトといってもいい作品であった。今回の東京公演ではどんな形を見せてくれるのかが楽しみ。


 一方、Batik「SHOKU -full version-」は昨年のトヨタアワード受賞者である黒田育世の新作。黒田は谷桃子バレエ所属のバレエダンサーであると同時に伊藤キムと輝く未来でもダンサーとして活躍したという異色の経歴を持ち、日本の振付家としては珍しく群舞の振付に長けており、アワード受賞作品「SIDE-B」はその群舞の迫力では世界レベルの才能を期待させる舞台であった。今回の作品はアワード受賞の記念公演として上演されるもので、こちらも今年注目の公演のひとつとなることは間違いなさそう。




 一方、関西では東京と比べると砂連尾理+寺田みさこやCRUSTACEAに代表されるようにソロ、デュオの活動を主体とする振付家・ダンサーが多く、カンパニーの本格的な公演が少ないのが、これまでコンテンポラリーダンスの観客が増えないネックとなっていた感があった。だが、先にも挙げたBABY-Qの東野祥子がトヨタアワードを受賞。受賞後最初の公演が9月に予定。さらに8月にはj.a.m. Dance Theatre「m/m」★★★★(8月20、21日アイホール)、Lo-lo Lo-lo「RIVERSIBLE」★★★★といずれも若手の女性振付家が率いるカンパニーによる公演が予定されており、まだ、東京で取り上げた2人ほどの実績はないものの今後に期待が持つことができる新進気鋭の振付家が相次いで本公演を行うことに注目が集まる。j.a.m. Dance Theatreは黒田も留学していた英国ラバンセンター出身の相原マユコが率いるダンスカンパニーで、これまでいくつかの小品を創作し、横浜ソロ&デュオコンペ選考会にも参加した実績もあり、関西ではネクストジェネレーションとして期待が掛かる相原だが、カンパニーとしての自主公演はこれが初めて。ここでどれだけのものを見せてくれるのかが今後を占う試金石となりそう。


 一方、Lo-lo Lo-loはニューヨークに拠点を置き、活動し、ダンサーとしてはニブロールにも出演していた田岡和己が帰国し、設立したダンスカンパニー。ニブロール同様に音楽、映像、照明などのスタッフも集団の内部におり、それらの要素を総合した作品つくりを志向しているのが関西では珍しい存在で、過去に見たこの本公演に向けての試作の段階では子供的な身体の表現などニブロールに近いコンセプトが若干気にはなったが、こちらも本公演ではどんなものを見せてくれるかが楽しみだ。




 今年上期に一番刺激的だった演劇公演にチェルフィッチュ「三月の5日間」が挙げられるのだが、そのチェルフィッチュが初のダンス作品を発表するという「東西バトル ユーモアinダンス」★★★★はダンスファンも演劇ファンも必見。その他にも赤ふんどしの裸体の男2人がくんずもつれつする珍妙なパフォーマンスで、トヨタアワードでオーデュエンス賞を受賞した身体表現サークルやなにわのど根性娘北村成美、ぱっと見美人でスタイル抜群なのに変な森下真樹とダンス界きってのオカシナ人たちがそれを迎え撃つ。コンテンポラリーダンスってなんとなく難しそうってこれまで敬遠して皆さんは一度見にいけば最近のコンポラがいかに飛んでもないことになっていて、反則ぎりぎり攻撃なんでもありの世界になっているのかが分かって唖然とすると思うのでぜひ。




 ダンスでは他にもヒップホップを取り入れた本格的コンテンポラリーダンス作品で注目されているレニー・ハリス・ピュアムーブメント「REPAERTORY」★★★北村薫のミステリ小説をダンスにするという「盤面の敵」★★★など気になる舞台があるのだけれど、エジンバラ旅行と重なるため行けそうにない。うーん、残念。




 アサヒアートフェスティバル2004に参加してのトリのマークの連続公演「花と庭の記憶-向島-」★★★★は現代美術ギャラリーの壁にテープを貼って絵を書いていくという無言劇「測量士ハム、プシュカル山」、米屋を改装したカフェでのリーディング公演「プシュカル山カフェ」に引き続き、向島百花園の庭園での野外公演(9月11、12日)でフィナーレを迎える。


 「場所から発想する演劇」として、既存の演劇の枠組みを超えて外部へと出ていこうというこの集団の戦略は中ハシ克シゲの「ZEROプロジェクト」や小島剛の「なすび画廊」(現代美術)とかMonochrome Circusの「収穫祭」や伊藤キムの「階段主義」(コンテンポラリーダンス)のように劇場・美術館のホワイトボックスに代表される近代主義からの超克としての現代アート全体のポストモダニズムの流れのなかで捉えた方が位置づけしやすいのではないかと思っていたので、このアサヒアートフェスや8月に新潟妻有のアートフェスに参加したことなどでこれまで以上に活動のフィールドが広がっていけばいいと思う。


 このところ毎月のように取り上げていることの1つには10月11日(日)、12日(祝)の2日間にわたって西陣ファクトリーガーデンで初の京都公演を予定しているということがあって、この公演の詳細は日にちが近づけば大阪日記のサイトのほうでも紹介していくつもりだが、関西の人にもぜひ一度トリのマークを見てもらいたいからである。




 ナイロン100℃「男性の好きなスポーツ」★★★★はナイロンがスポーツもの? ケラらしくないけれどオリンピックもあるしなあなどと思っていたら……セックスを主題にしたコメディだったのね(笑い)。まあ、あれもスポーツといえばいえなくもないか(苦笑)。こちらはロマンチカの林巻子が美術を担当。ほかにも横町慶子らロマンチカの面々がダンサーとして参加。このところすっかり演劇活動から遠ざかっていた彼女らの雄姿をひさびさに見られるのが嬉しい。できれば、これを契機にふたたび舞台に復帰してもらいたいのだけれど。




 東京「ドレスを着た家畜が…」★★★は関西のくせ者劇団といっていいクロムモリブデン、WI'RE、デス電所が合同しての公演。ユニット公演を東京にしたのは「東京公演はありません」というキャプションをつけたかったがためのことらしい(笑い)。最近絶好調のクロムモリブデン青木秀樹が演出、デス電所の竹内佑の脚本をどのように料理するのか。さらには美術を担当するほか、今回ひさびさに青木演出に役者として出演するWI'REのサカイヒロトが森下亮、板倉チヒロとの掛け合いでどんなキ×××ぶりを見せてくれるのか楽しみである。




 ほかにもあなざわーくす「ギリシャ悲劇 MJ物語」★★★山下残ソロ「せきをしてもひとり」★★★などくせ者が並ぶのだが、エジンバラ旅行にいくせいで私がどれだけ行けるのかわからないのが悩ましい。




 最後にガーディアンガーデン演劇祭最終選考会★★★★はどんな隠し玉が現れるのか。ここ数年ぱっとしないなと思っていたのだが、チュルフィッチュの登場は衝撃的であった。それを超えるような驚きがあること期待して本番を待ちたい。
 





 
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 AICT関西支部が創刊する演劇批評誌「アクト」(5月末発行予定)に砂連尾理+寺田みさこ「男時女時」のレビューを寄稿しました。手に入れるのは難しいかもしれませんが、もし機会があれば読んでみてください。







中西