下北沢通信

中西理の下北沢通信

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3月のお薦め芝居(2006年)



3月のお薦め芝居


3月のお薦め芝居

by中西理



 




 今月もまたえんぺの締め切りに間に合わなかったが、とりあえずお薦め芝居を掲載したい。先月は注目の舞台がそれこそ目白押しでなかでも衝撃的だったポツドールをはじめとした感想はできるだけ早く大阪日記の方で執筆するつもり。興味のある人は覗いてみてほしい。




 3月(3月13日−4月12日)は以前から注目してきた作家による代表作の再演が相次いで舞台に上る。弘前劇場「職員室の午後」★★★★ザムザ阿佐ヶ谷)、ナイロン100℃「カラフルメリィでオハヨ」★★★★本多劇場)、ピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団「カフェ・ミュラー」「春の祭典」★★★★国立劇場)である。あなたがもしこれらの舞台を一度も見たことがないのであればいずれも「これを見ずしてなにを見る」的なお薦めである。


 弘前劇場「職員室の午後」は主宰の長谷川孝治が劇作家協会最優秀新人賞を受賞して、この劇団が全国的にも注目されるきっかけとなった舞台のひさびさの再演である。思えば大阪から東京へ転勤した直後のこまばアゴラ劇場でこの舞台を見て、そのレベルの高さに吃驚させられたのが、この劇団とのその後、十数年にもならんとする付き合いのきっかけであったし、この1作で長谷川は現代口語地域語演劇というその後のスタイルを確立したといっていい。

 
 弘前劇場は長谷川と並ぶ劇作家で看板俳優でもあった畑澤聖悟ら複数の主力メンバーが退団、集団としては大きな変貌が余儀なくされているが、そうした状況のなかでこの作品の上演を選んだというのは「原点への回帰」ということが必要だと長谷川が考えたからであろう。


 もっとも、長谷川演出ではオーソドックスな会話劇としての上演だったアゴラ劇場での上演に対して、その後しばらくしてのザ・スズナリでの上演では遊びの要素をふんだんに取り入れて速射砲のごとき会話のアクロバットによるスラップスティックとしての上演となるなど、再演のたびに大きな変貌をとげたのも「職員室の午後」の特徴。今回の上演では再演とはいえ10年以上の時を超え、初演に出演した福士賢治らひとにぎりのキャストを除けばいずれもこの芝居への出演は初めてというニューキャストでの上演となるだけにどんな舞台になるのか、楽しみである。


 一方、ナイロン100℃「カラフルメリィでオハヨ」は劇団健康時代に初演。その後、ナイロン100℃になって再演、今回が再々演となるKERAの代表作といっていい。もっとも、KERAが「自分にとって唯一の自伝的演劇」と話すように執筆時に病院で最期の時を迎えつつあったKERA自身の父親の看病をしながら、その病院で書き上げた作品だけに「死」という主題に正面から真摯に向かい合ったKERAにとってはワン・アンド・オンリーな作品となっている。こちらは再演時に記憶に鮮烈に残る演技をした山崎一みのすけが再び出演。KERA
の作品だからもちろん、本当に馬鹿馬鹿しい入院患者のシーンなどそれこそ抱腹絶倒に笑えるのだけれど、それだけじゃなくて、いつの間にか気がついたときには「人間が生まれて死ぬということ」について、いろんなことを考えさせられる深い芝居なのである。 




 さて、ピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団「カフェ・ミュラー」「春の祭典」★★★★はピナの評価を世界的なものとした彼女の代表作であり、これまで映像などでは何度か見たことがあるのだが、実は私は生でこの2作品を見るのは初めてである。実はピナについては来日公演において、毎回期待がすごく大きいためか、
最近見た作品では確かに面白くはあるのだけれど、最初に見た時のような衝撃が感じられないという不満もあって、それだけに満を持してのラインナップとも思われる今回の2本については大きな期待をしてしまう。




 大御所ピナ・バウシュとほぼ同時期に来日、同じ春の祭典を上演するマリー・シュイナール「春の祭典」「牧神の午後への前奏曲」★★★★(大阪メルパルクホール)にも期待したい。とはいっても、こちらはピナ・バウシュのように深く感動するというよりは「どれほど馬鹿馬鹿しく、変なものを見せてくれるのか」という期待なのである(笑い)。


 この人カナダの振付家なのだが、実は初来日の時にはチラシを見てなんか変だなと気にはなっていたものの、完全にノーマークで見逃し、後で変なもの好きの知人から好評判を聞いて悔しい思いをした。主催者側の紹介では「マリー版『春の祭典』は、これまでのどの演出とも異なり、ワイルドで原始的な雰囲気を醸し出し、人間同士のコミュニケーションのあり方や身体の関係性などに気付かせてくれる意欲作です」と紹介されているが、見てみないと分からないとはいえ、この人の作品の第一印象は絶対にそんなアカデミックなものではないはず(笑い)。なんといっても、初来日の時に桜井圭介氏がみうらじゅんの「とんまつり祭り」とカップリングしてのレビューを書き、乗越たかお氏が「小品大王」の称号を奉るほどなのだ。特に「牧神の午後への前奏曲」は初来日時に上演された時に人から聞いた感想は「なんなんだこの人は」というもので、その期待が大きすぎたために2度目の来日ではちょっと物足りない感があったのだが、ついにその作品が見られるのは本当に楽しみ。




 ダンスではKIKIKIKIKIKI「サカリバ」★★★★ボヴェ太郎「Monodiematerial」★★★★の2本立てが上演されるTake a chance project PLATFORM伊丹アイホール)にも注目したい。KIKIKIKIKIKIは京都造形芸術大学の学生(今春卒業)であるきたまりの率いるカンパニー。きたまりは学生でありながら大阪のダンスボックスを拠点に活動する舞踏カンパニー「千日前青空ダンス倶楽部」のメンバーであり、すでにソロダンサーとしても自らの振付作品でJCDN巡回公演の「踊りに行くぜ!!」に選考され、今年の秋は全国3ヵ所の会場で踊るなど若くしてすでに学生の域を超えた活動を開始している。まさに関西ダンス界のアンファンテリブルといってもいい存在でソロダンサーとしても今後の成長が楽しみなのだが、それ以上に大きな期待をしているのはコレオグラファーとしての才能で、卒業制作として上演した「プロポーズ」は学生の制作の域を超えた作品で、私はこれを2005年ベストアクトの第2位に選んだ。


 「サカリバ」はその前に京都芸術センターでワーク・イン・プログレス的に初演した後、京都造形芸術大の学内で再演された作品の再々演で、この作品が実質的にKIKIKIKIKIKIとしての大学を離れてのデビュー作品となる。


 一方、ボヴェ太郎「Monodiematerial」はまったくの無名から突然、トヨタコレオグラフィアワード2003の最終ノミネートに選ばれ話題になったダンサー・振付家。こちらもそれ以降の作品を見ていないので、どのように成長した姿を見せてくれるのかが楽しみである。

 




 一方、東京では珍しいキノコ舞踊団「また家まで歩いてく。」★★★★が表参道・スパイラルホールで上演される。こちらはさいたま芸術劇場で上演された「家まで歩いてく。」の再演ではあるが、最近のキノコの場合、「フリル・ミニ」や「Flower Picking」がそうであったように再演というよりも、ver.01、ver.02と上演ごとに少しずつ変貌していく同じシリーズの連作といった趣きが強いため、ダンサーが舞台の上でオリジナルの生歌(鼻歌?)を披露するなど遊び心が満載であったこの作品が今度はどんな風にバージョンアップしたのか。期待が膨らむ。




 関西では北村成美がバレエ音楽に振り付けたCa・Ballet「くるみ割(風)人形と二十日(ぐらい)のネズミの戦争(キャー!!)」★★★栗東さきら芸術劇場)にも注目したい。バレエの「くるみ割り人形」を下敷きにした創作コンテンポラリーバレエで、これまでも何度か再演してきた作品の改訂版だが、今回はほぼ全編にわたって振付を変更。それまで一部だけを使っていたチャイコフスキーの音楽をほぼ全曲近く使い新たなシーンを付け加えて、再構成するなど「実質的に新作に近いものとなっている」(北村成美)という。




 大阪のgrafインスタレーションを展示中のKATHYが来阪してパフォーマンスを行うKATHYKATHYティーパーティー “KATHYのお作法”」★★★★(3月26日、grafgm)にも注目したい。KATHYはこれまで主として美術フィールドで活動してきた女性3人の集団で、その正体は謎という覆面カンパニー(黒のストッキングと金髪の鬘をいつもかぶり、観客には顔を見せない)ということになっている。
 カンパニーの名称でもある「KATHY」というのは米国女性の名前で、彼女の指令のもとに彼女らはいろんな場所に出没、その強大なる力に操られるままにパフォーマンスを見せる、ということになっている。grafとは昨年末に横浜で「炎のメリーゴーラウンド」というパフォーマンスを上演したが、これまでクローズドに近い企画のゲストとしてgrafでパフォーマンスをしたことはあるが、関西の人の目の前に姿を現すのはこれが初めてとなる。





 BRIDGE「POOL3」★★★★(大阪・新世界フェスティバルゲート内BRIDGE)にも注目したい。大阪でオルタネイティブな即興音楽の一大拠点となっているのが、フェスティバルゲートのBRIDGE(ブリッジ)だが、これまで維新派の音楽監督として知られる主催者の内橋和久、現代美術家で照明インスタレーションを得意とする高橋匡太、ダンサー・振付家の東野祥子らによるコラボレーションとして行ってきたパフォーマンス・インスタレーションが「POOL」である。これまで「POOL1」では会場の床一面に蛍光灯を敷き詰め、そこでダンスと映像のパフォーマンスを行う、「POOL2」では会場に数〓の白い砂を持ち込む、などの異色のライブ・パフォーマンスを行ってきた。第3回目となる今回は詳細は不明だが、「完全暗転の漆黒の闇のなかでのパフォーマンスとなる」(内橋和久)らしい。東野もその暗闇のだれも見えないなかで踊るらしいのだが、果たしてどんなパフォーマンスが展開されるのだろうか。




 お薦め芝居といいながら、またもやダンスばかりになってしまったが、関西の演劇ではヨーロッパ企画「Windows5000」★★★★に期待してみたい。映画「サマータイムマシンブルース2005」が上映されるなど人気も上昇中の彼らだが、
この映画となった作品のように学生が大勢でてくる集団劇というのがこれまではひとつのパターンとなっていたのが、さすがに年齢的にはそうした設定には少し無理が生じてきたのも確か。前作の「平凡なウェーイ」は意欲は買うけれどちょっと無理もあったのではという展開だったが、いろいろな意味で新機軸には取り組んでいたので、今度はどんな手を繰り出してくるのかに注目したい。




 演劇・ダンスについて書いてほしいという媒体(雑誌、ネットマガジンなど)があればぜひ引き受けたいと思っています(特にダンスについては媒体が少ないので機会があればぜひと思っています)。特にチェルフィッチュについてはどこかにまとまった形で書いておきたいと思っているのだけれど、どこか書かせてくれるという媒体はないだろうか。
 私あてに依頼メール(BXL02200@nifty.ne.jp)お願いします。サイトに書いたレビューなどを情報宣伝につかいたいという劇団、カンパニーがあればそれも大歓迎ですから、メール下さい。パンフの文章の依頼などもスケジュールが合えば引き受けています。

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中西