下北沢通信

中西理の下北沢通信

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渡辺源四郎商店「ヤナギダアキラ最後の日」@下北沢ザ・スズナリ

 作・演出:畑澤聖悟 照明:浅沼昌弘 音響:藤平美保子 舞台美術:山下昇平
 装置:渡辺源四郎商店 舞台監督:田守裕子 プロデュース:佐藤誠
 ドラマターグ・演出助手:工藤千夏 宣伝美術:木村正幸 制作:渡辺源四郎商店
 出演:
 宮越昭司 :柳田明
 工藤静香 :柳田智英
 牧野慶一[劇団雪の会]:村岡繁春
 工藤由佳子:村岡真由
 工藤貴樹 :佐藤優
 畑澤聖悟 :宮田良一
 三上晴香 :東出美加
 吉田唯  :清原清彦
 山田百次[劇団野の上]:木崎五郎

畑澤聖悟(渡辺源四郎商店)の舞台が現代口語演劇のように見えるのは確かなのだが、それだけではないと改めて気がついたのは割と最近のことである。その最大の特徴はその神話・寓話的構造にある。神話・寓話的構造などと小難しげな言葉を突然持ち出されても困ると思っている人が多いと思うが、神話というのは「世界はこのようなものである」ということをお話という形式で示すということで、それはすなわち、そこで提示される物語の構造が世界そのものの構造と相似的であるということだ。
 そして、神話の場合、世界の構造を分りやすく提示するために例え話として現実にはありえないような突飛な設定を導入するということがあるが、この「ヤナギダアキラ最期の日」にもそういう仕掛けがある。
舞台となるのは十和田湖畔にあるホスピス。ここに80をとうに超えた老人である柳田明(宮越昭司)が付き添いである智英(工藤静香)と一緒に入院している。このホスピスにはほかにも宮田良一(畑澤聖悟)ら元気に見えるが実は死期の近いがん患者らが入院しており、この日はさらに一見してヤクザと分る村岡繁春(牧野慶一)が妻と子分を伴い最期の日々をここで過ごすために入院してきた。
 さらにそこにフィリピンから来たアロハシャツを着てサングラスを着た軽薄に見える若い男が訪ねてくる。どうやら、死ぬ前に人目会いたいと現地の新聞に広告を掲載したのに応えての来日らしい。この舞台の眼目のひとつが山田百次が演じる木崎五郎がいったい何者なのかということなのだが、新聞に掲載されたという「人魚の生き胆」という言葉、あるいは舞台の冒頭近くで柳田明と智英が交わす木崎についてのやりとりなどいくつかの伏線からそれは徐々に明らかにされていく。(続く)