下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

2017年演劇ベストアクト

 年末恒例の2017年演劇ベストアクト*1*2 *3 *4 *5 *6 *7 *8 *9 *10 *11 *12 *13 *14 を掲載することにしたい。さて、皆さんの今年のベストアクトはどうでしたか。今回もコメントなどを書いてもらえると嬉しい。

2017年演劇ベストアクト
1,範宙遊泳「その夜と友達」(横浜・STSPOT)f:id:simokitazawa:20170622230255j:plain
2,青年団リンク キュイ「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」小竹向原・アトリエ春風舎)
3,木ノ下歌舞伎「娘道成寺こまばアゴラ劇場
4,ロロ「父母姉僕弟君」(新宿シアターサンモール)
5,青年団リンク ホエイ「小竹物語」小竹向原・アトリエ春風舎)
6,玉城大祐作演出(青年団演出部)「その把駐力で」東池袋あうるすぽっと
7,青年団リンク 玉田企画「今がオールタイムベスト」(五反田・アトリエヘリコプター)
8,ヨーロッパ企画「出てこようとするトロンプルイユ」(下北沢・本多劇場
9,サンプル「ブリッジ」(KAAT神奈川芸術劇場
10,悪い芝居「罠々」(池袋・東京芸術劇場

 今年の演劇界を振り返ったときまず特筆しなければならないのはSPACの演出家、宮城聰の活躍だろう。アビニョン演劇祭の法王庁中庭のオープニングの演目にSPAC「アンティゴネ」が上演され高い評価を得られたことは日本演劇史にとっても画期的な出来事であったことは間違いない。シェイクスピア冬物語」もなかなかの好舞台だった。
 国内では相変わらずポストゼロ年代演劇の旗手たちの活躍が目立った。とはいえ担う劇団の一部はすでに若手というより中堅として現代演劇の中核を担うような存在となった。
 複数の優れた公演成果を残し、目覚しかったのが木ノ下歌舞伎(木ノ下裕一)、範宙遊泳(山本卓卓)、ロロ(三浦直之)の3劇団。
 2017年演劇ベストアクトの「今年の1本」であるならば範宙遊泳「その夜と友達」@横浜・STSPOTを選びたい。範宙遊泳は映像やプロジェクターによる文字列の映写などを俳優の演技と組み合わせるようなある種実験的な手法を試みてきて、これまでは手法や表現の斬新さに目が向くことが多かったのだが、最近はそうした手法を空気のように身にまといながら語られる内容の方に観客がフォーカスできるような巧みなストーリーテリング(語り方)を身に着け、表現の水準を一段階上げた。 「その夜の友達」は過去と現代の語り手を自在に交代させた語りを交錯させながら旧友とその喪失を描いた芝居だが村上春樹の小説「風の歌を聴け」を最初に読んだときのようなせつなさを感じさせた。
 木ノ下歌舞伎は昨年来、「木ノ下“大”歌舞伎」と題し劇団結成10周年を記念して過去の代表作の再演を手がけてきた。「四谷怪談」「心中天網島」など今年のベストに選んでもおかしくない好舞台ぞろいであったが、木ノ下歌舞伎「『隅田川』『娘道成寺』」として上演され、きたまりが鬼気迫る清姫を演じたソロダンス「娘道成寺*15は現代の古典とでもいう佇まいを示した。同一演目の再演を繰り返しながらクオリティーを高めていくという木ノ下歌舞伎のコンセプトが見事なまでの実りを生み出した1本であったと思う。
 ロロの三浦直之もここに挙げた「父母姉僕弟君」に加えて、やはりロードムービー風演劇である「BGM」、さらに「いつ高」シリーズの新作などこの1年充実したラインナップを披露してくれた。
今年はここにさらに次の世代としてここ数年目立ってきた綾門優季に加えて、やはり青年団演出部を代表する若き俊才、玉城大祐が加わった。綾門優季青年団リンク キュイ)については次の世代を担うアンファンテリブルとして驚くべき才能の出現を感じさせるとここ数年言い続けてきたが、今年は年末に上演された「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」でその全貌を顕した感がある。
 とはいえ、彼の作風は「ゲーム的リアリズム」(東浩紀ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2」)と言っていいのだが、こと演劇の分野においてはこれまで新時代の才能と目されてきた誰と比較しても極めてラジカルだ。従来の舞台作品の多くが主人公への共感やストーリーテリングなどの要素を前提としてきたのに対し、綾門はそれらをほぼ完全に黙殺。この作品でも舞台が始まって数分で登場人物全員が皆殺しになってしまう。
 そういうこともあり、観客側の反応は賛否が相反しており、訳が分からないなど全否定の拒否反応も少なくない。そこが面白いところでもあるのだが、一般の評価が定まるのにはまだ時間を要するのかもしれない。ただ、偶然とはいえ10年前の2007年の演劇ベストアクトを振り返ってみると2位にはその年まで何年も連続でベストアクト上位で推し続けていた前田司郎の「生きてるものはいないのか」を挙げており、これがついに翌年の岸田戯曲賞を受賞することになる。


 

*1:2016年演劇ベストアクトhttp://simokitazawa.hatenablog.com/entry/20161231/p1

*2:2015年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20151231

*3:2014年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20141231

*4:2013年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20131231

*5:2012年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20121231

*6:2011年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20111231

*7:2010年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20101231

*8:2009年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20091231

*9:2008年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20081231

*10:2003年演劇ベストアクトhttp://www.pan-kyoto.com/data/review/49-04.html

*11:2004年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/200412

*12:2005年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20060123

*13:2006年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20061231

*14:2007年演劇ベストアクトhttp://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20071231

*15:theatrearts.aict-iatc.jp