下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

劇団うりんこ「わたしとわたし、ぼくとぼく」@こまばアゴラ劇場

劇団うりんこ「わたしとわたし、ぼくとぼく」@こまばアゴラ劇場

作・演出:関根信一(劇団フライングステージ)


保育園に勤める30歳の健人は、男性保育士に対する保護者の偏見に落ち込み、ゲイである秘密を打ち明けられず引きこもってしまった。ある日、鏡を見ていると、1人の少女が現れて、言った。『世界を救って欲しい』少女に導かれて1997年の教室へ。そこで10歳の自分と出会い…

劇団うりんこ
創立45年の歴史を持つ児童劇の専門劇団です。うりんことは「猪の子ども」のこと。
猪のように子どもたちのところへ真っ直ぐ走りたいという願いを込めて付けられました。
以来、愛知、岐阜、三重の学校を中心に巡回公演を続け、今では活動は全国、海外に及びます。
子どもたちが自らの力で、自らの未来を創っていく上の「糧」になるような演劇を創りたいと活動を続けています。



撮影:清水ジロー(2017)


出演

下出祐子 にいみひでお 宮腰裕貴 鷲見裕美 山内まどか 児玉しし丸 栗本彩 村上綾菜

スタッフ

美術:岡田保(演劇組織KIMYO/かすがい創造庫)
照明:四方あさお
衣裳:さくま晶子
音楽・音響:内田アダチ 
宣伝美術・イラスト:伊藤ちづる
デザイン:濱田邦彦・千寿(オフィスニーフェ)

主人公は同性愛に悩む男性保育士。通常の演劇ではLGBTが物語に登場するのはそれほど珍しいことでもないと思われるが、児童劇団が上演している児童劇が正面からこういう主題を扱うというのはまだ珍しいのではないだろうか。劇中で主人公がまだ小学生だった自分の過去にタイムスリップして、一緒に札幌に旅をしてまだ黎明期のレインボーパレード*1に参加することになるシーンがある。健人らが参加したパレードの主催者であるらしい女性がパレード終了後に「いつか差別がない日が来ることを願って」と挨拶をする場面があるのだが、そこがなんともグッとくる。大人の健人が未来から来たことが分かって「未来はどうなっているか」と子供の健人が尋ねるが、「日本では海外のように結婚は許されていないが、パートナー制が認められる地方自治体も出てきている」とこたえるが、「差別はないのか」などのそれ以上の質問には答えることはできない。
 舞台芸術周辺でこうした問題に関心を持ったのは95年のダムタイプ「S/N」がきっかけであったが、それから20年以上が経過しても最近でも自民党の議員がSNSLGBTに対して差別的な発言をするなど一般の偏見はいまだ確実に残っていると思う。それだけにあえて子供にこれを見せて考えてもらうのは意味があることではないかと思った。
 私自身の経験でも実は大阪を拠点に活動しているアイドルグループ、たこやきレインボー(たこ虹)が「RAINBOW 私は私やねんから」というLGBTについての歌を歌っているのだけれど、作者のヒャダインがそういうきわめてメッセージ性の強い主題をあえてアイドルに歌わせている反骨精神が素晴らしいというようなことをSNSに書き込んだら、「LGBTの歌ではない。そんなことを勝手に書くな」と激しい反発を受けた。

たこやきレインボー / RAINBOW~私は私やねんから~
 見ていただければ分かると思うが、「ダイバーシティー」「レインボー
」などのこの問題についてのキーワードが多数出てくるし、性的少数者などに代表されるマイノリティーがテーマなのは明らか過ぎるほど明らかなのだが、それでもあえて否定するというのは無意識的な偏見はまだまだ根強いということではないかと思う。 

*1:現在の「レインボーマーチ札幌」。物語が想定している1998年8月には「セクシャル・マイノリティ・プライドマーチ」の名称で開催されてている。