下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ホエイ「クチナシと翁」2回目@こまばアゴラ劇場

ホエイ「クチナシと翁」2回目@こまばアゴラ劇場


 ホエイ「クチナシと翁」は不思議な作品である。表面上は辺境の地域村落での老いと介護の問題など社会的な課題を描いた作品に見え、それでも十分に面白くはあるのだが、その中に神話的な要素がメタファー(隠喩)のように散りばめられているからだ。この村には落ち武者伝説があり、その伝説の中で描かれる物語の最後に伝説にある「青き衣をまといて金色の野に降り立つものが落ち武者と名乗る」という予言が具現化するところがラストシーンとなる。ここで救世主でもある落ち武者(中田麦平)が山田百次演じる村の古老(山田百次)の孫であり、15年もの間引きこもっていたというのは何か意味があるのではないかと思った。
 青い衣の人が金色の野に降臨するという伝説には神話か何かの原典があり、そこからの引用ではないかと感じたのだが、初見の時はそれが何なのかが分からなかった。この日に終演後、ここのモトネタは宮崎駿の『風の谷のナウシカ』ではないかとの指摘を知人から受け、偶然ではありえないのでそれが正しいと感じたのだが、気になっているのは「クチナシと翁」というこの作品の表題と落ち武者伝説(ナウシカの再来)と目されている救世主の存在との関係性だ。
 この物語のなかでは複数の親子関係や祖父母と孫の関係が描かれており、直接的には山で亡くなった祖母と孫娘の関係が物語の中心に置かれている。さらにこの祖母と孫娘はいずれも一人二役として三上晴佳が演じていることもあり、この二人の関係が物語の核をなすと考えるのは自然なことではあるが、実際にはこの物語の表題は「クチナシと翁」であり「クチナシと媼」ではない。
 翁を国語辞典で引いてみると「年を取った男。老人。おきな。」などとあり、この言葉が女性を指すことはないように思われる。そうだとすると名前だけが出てくる人はいなくはないけれど物語の中で「翁」という言葉が指すのは山田百次が演じた老人しかない。一方、クチナシは一義的には「かかし祭り」のかかしのことを指すと思われ、それが指し示す人物も複数いるように思われ、いまのところ一意な解釈が困難なのだ。冒頭で示した『風の谷のナウシカ』と「クチナシと翁」との関係性も正直言ってまだよく分からない部分がある。
 ホエイ「クチナシと翁」はもう一度見に行く予定があり、そうした疑問点をおさらいしながら再考してみたいと思う。

出演
赤刎千久子、河村竜也、山田百次(以上、ホエイ)
斉藤祐一(文学座)、武谷公雄、中田麦平(シンクロ少女)、成田沙織、三上晴佳

スタッフ
舞台美術:鈴木健
照明:黒太剛亮(黒猿)
衣裳:正金 彩
舞台監督補:陳 彦君
当日運営:大橋さつき
制作:赤刎千久子
プロデュース・宣伝美術:河村竜也

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