ホエイ「クチナシと翁」@こまばアゴラ劇場
ホエイ「クチナシと翁」@こまばアゴラ劇場を観劇。山田百次のひさびさの新作である。ホエイとしての新作上演は「喫茶ティファニー」(2019年)以来だから5年ぶりになる。こまばアゴラ劇場は5月で閉館となることが決まっており、その最後の上演は小屋主である平田オリザ作品の連続上演となるのだが、私が最初にこの劇場で舞台を観劇したのが弘前劇場「職員室の午後」(こまばアゴラ劇場、1993年)であった。劇評などを当時寄稿していた関西の演劇情報誌「JAMCI」に演劇についてのコラム「下北沢通信」の連載を開始したのもその頃で第0回特別編で書いたのが青年団「ソウル市民」のプサン公演のレポート。「下北沢通信」本編の連載ではまずvol.1で弘前劇場「職員室の午後」(1993)を取り上げた。青年団とこまばアゴラ劇場、弘前劇場は私にとっては演劇批評活動の原点のようなところがあり、その劇場が閉鎖される直前の公演を弘前劇場出身の劇作家・演出家である山田百次が手掛けたということはいろいろな意味で感慨を感じさせるところがあった。
弘前劇場主宰の長谷川孝治の舞台の特徴は地域語(津軽方言)を生かした群像会話劇であった。長谷川本人の作品を見る機会はほとんどなくなったが、同劇団出身の畑澤聖悟は現在も活躍を続けており、山田もそれに続く存在として注目を集めている。いずれも地域語を多用する群像劇という意味では共通点があるが、山田の場合、最近の「喫茶ティファニー」などでは東京近郊(おそらく川崎)を舞台とし、いわゆる方言による会話劇からは離れていたこともあり、青森の過疎化が進行している町を舞台に地域の問題を取り上げた「クチナシと翁」は原点回帰のようなところがあるのかもしれない。
特に地域住民の高齢者の老いの問題はこの作品の中心的な主題として取り上げられており、若者が地域を去り、コロナ禍による中断していた「かかし祭り」も担い手不足で今年を最後に中止をせざる状況であることや、作品に登場する老人たちの介護の問題をどうするのかというような差し迫った問題を笑いを交えながらもかなりリアルに描きだしている。「まだ元気だ」とは自らは考えているものの昨年12月で定年退職し、老後の身の振り方を悩み始めている自らを省みても身につまされるところがいろいろあり、考えさせられる舞台だったのだ。
ホエイではいつもそうなのだが、なんといっても感心させられるのは俳優のリアルな人物造形。なかでも老女とその孫娘を演じ分ける三上晴佳(写真右)、地域にいかにもいそうな中年女性を巧みに演じる成田沙織(同左)の演技は見事というしかない。生まれた時から首都圏や関西などの都市部で育った女優にはなかなか出せないような存在感を感じさせ、ホエイの魅力のひとつといっていいだろう。
出番は少ないが山田百次の演じる老人もそういう人にしか見えないが、こうした空気感を出せるのはホエイならではだと思う。この作品には生まれた時からここに住んでいた旧住民と外からここに来た新住民が登場するが、それぞれの立場によって方言の深度も異なることが示されており、外部から来た新住民には斉藤祐一(文学座)、武谷公雄ら青森出身ではない客演の常連俳優が担いそれぞれが持ち味を発揮しているのも嬉しい。山田百次の才能はいろいろあると思うがこういう差配の巧みさが劇作、演出と並ぶ才能なのではないかと考えさせられた。
作・演出:山田百次
青森県のとある町。
市町村合併に反対し、現在は高齢化率が50%を超える自治体。
学校区単位の運動会は廃止され、地区運動会と一体化された。
明日は来年廃止が決定した地域イベント「かかし祭り」が行われようとしている。
地域おこし協力隊など新たな移住者の受け入れに苦慮しながらも、
新旧町民による「まち」への問いかけが、思いもよらぬ展開へと発展する。山田百次の作品を上演する劇団です。
今年、立ち上げから10周年をむかえました!
これまで関わってくださったみなさま、お客様、ありがとうございます!
出演
赤刎千久子、河村竜也、山田百次(以上、ホエイ)
斉藤祐一(文学座)、武谷公雄、中田麦平(シンクロ少女)、成田沙織、三上晴佳スタッフ
舞台美術:鈴木健介
照明:黒太剛亮(黒猿)
衣裳:正金 彩
舞台監督補:陳 彦君
当日運営:大橋さつき
制作:赤刎千久子
プロデュース・宣伝美術:河村竜也