下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

春名風花さん・平田オリザさんが対談

春名風花さん・平田オリザさんが対談

絵本『いじめているきみへ』を発表した俳優の春名風花さんと、『わかりあえないことから』の著者で劇作家・演出家の平田オリザさんが、ネット時代の対話の限界と可能性について語り合う。


完全版 いじめられている君へ いじめている君へ いじめを見ている君へ

完全版 いじめられている君へ いじめている君へ いじめを見ている君へ

TEAMSHACHI「出張!冬の台場クリスマスライブ~全速前進 聖なる本編~」@東京・Zepp Tokyo

TEAMSHACHI「出張!冬の台場クリスマスライブ~全速前進 聖なる本編~」@東京・Zepp Tokyo

【日時】12月18日(火)open 18:00 / start 19:00

【会場】東京・Zepp Tokyo



TEAM SHACHI「出張!冬の台場クリスマスライブ~全速前進 聖なる本編~」
2018年12月18日 Zepp Tokyo セットリスト

00. OVERTURE~PING-PONG~
01. We are…
02. START
03. 雨天決行
04. DREAMER
MC
05. Hello, TEAM SHACHI(新曲)
06. ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL
07. よろしく人類
08. OEOEO
09. ザ・スターダストボウリング
10. BURNING FESTIVAL
11. シャンプーハット
12. パレードは夜空を翔る
13. colors
14. おっとりガールの憂鬱
15. グラブジャムン(新曲)
16. colors
17. エンジョイ人生
18. そこそこプレミアム
19. ちぐはぐ・ランナーズ・ハイ
20. ROSE FIGHTERS
21. 抱きしめてアンセム
<アンコール>
22. お願い!unBORDE
23. DREAMER(2回目)

 5人から4人になって、TEAMSHACHIとなっての再スタート。考えてみればちゆ(伊藤千由李)の卒業ライブからはまだ約2カ月。ももクロのことを考えれば歌割り、ダンスの振り付け・フォーメーションの変更ととんでもなく大変だったと思うのだけれど、そういう不安を吹き飛ばすような勢いを感じたライブで、笠寺で生じた達成感、追い討ちをかけたちゆの脱退とあわや周回遅れにさえなりかねないところを、先行するグループを追撃できるようなロケットスタートを切ったといえるかもしれない。
 女性ホーンセクションである6人のブラス隊(ブラス民)を引き連れてのパフォーマンスはなかなかの大迫力だが、「OREOREO」のような最近はあまり歌われてなかったんじゃないかと思われる歌をリニューアルする効果もある。4人のバージョンになって多少は手直しもあったと思うが、この曲の振り付けはコンテンポラリーダンスの世界ではよく知られる伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団)*1の振り付けで最初に披露された時から注目していただけに生演奏ならではのコール・アンド・レスポンス曲として甦ったのは嬉しい。

鮭スペアレ『マクベス』@北千住BuOY

鮭スペアレ『マクベス』@北千住BuOY

マクベスは、夢中で遊んではぐれてしまった! もうどこにも居場所はない。コンテンポラリー能「ハムレット」から 1 年。シェイクスピア四大悲劇のひとつ「マクべス」を、ジャンルを横断する楽器の生演奏でオリジナルの音楽劇として上演。大人数の登場人物を、少数の女優が強い身体と幅広い音声で演じわける。「ジェンダー」からも「演劇らしさ」からも解き放たれた鮭スペアレが、今度は「マクべス」で遊ぶ。ご高覧あれ!



作・ウィリアム・シェイクスピア
訳・坪内逍遥
構成・演出/中込遊里 音楽/五十部裕明
出演 清水いつ鹿 上埜すみれ 宮川麻理子 中込遊里 喜田ゆかり
箕浦妃紗 青田夏海 若尾颯太 相沢葵(Theatre Ort、横浜公演)


鮭スペアレ
団体名の由来は、劇作家シェイクスピアShakespeare)をローマ字で読み、旗揚げ二人のイニシャルになぞらえてhをyと置き換えたもの。2005年からカフェやアトリエなどで公演を重ねる。2010年より日本語を発語することから発想する生演奏の音楽劇を上演。ジャンルを問わないミュージシャンによる生演奏・力強さと柔らかさを兼ね備えた何ものにもならないニュートラルな身体と音声で、「コンテンポラリー能」とも言われる独特の世界観を築く。2016年よりたちかわ創造舎(東京都立川市)を拠点とし、多摩地域と世界をつなぐ演劇集団を目指す。

 鮭スペアレはシェイクスピアを上演する女性だけの劇団。これまでも女性劇団であった「青い鳥」がオール女性キャストで「ハムレット」を上演したり、ロマンチカによる「夏の夜の夢」上演などは見たことがあるし、最近でも柿喰う客による女体シェイクスピアやいるかHotel(谷省吾演出)などオール女性キャストのシェイクスピア上演はある。とはいえ、演出も女性が手掛け、集団としてシェイクスピア上演を連続して手掛けている例は珍しいかもしれない。以前はオリジナル作品を上演していたが、2014年の「ロミオとヂュリエット」からシェイクスピア上演を手掛け、「マクベス」は「ハムレット」(2017~18年)に続き3作品目となる。
 演奏家が劇中音楽を生演奏するのが特徴で編成は作品ごとに異なるが今回はハープ、馬頭琴、尺八、バイオリン、ベースという構成。女性劇団ではあるが、実は今回もキャストは全員が女性というわけではない。ただ今回は主要なキャストは男性役も女性が演じた。新訳が多く出ていることもあり、最近は文語体に近い坪内逍遥訳は滅多に使われることはないが、これまでの3作品ではテキストとしてあえてそれを使用して、セリフのフレージングも特に主役のマクベス役などはなかなか朗々として口跡であり、「語りの演劇」の系譜を感じさせた。演出の中込遊里に聞いてみたところ直接習ったり師事したりしたことはないものの「SCOTの鈴木忠志やSPACの宮城聡に影響を受けている」(中込遊里)ということらしい。
 主役であるマクベスを演じた清水いつ鹿がよかった。坪内逍遥版「マクベス」のセリフ回し(フレージング)は容易ではないが、巧みにこなし特に最後の独白による長台詞はみごとで観劇後にも余韻が残るものだった。ただ、これと拮抗するレベルの俳優が現状では他に見当たらず、特に今回は初めて出演した俳優もおり、演技の質にバラつきが目立つのも確かだ。「語りの演劇」を集団として立ち上げていくには継続的な訓練による独自のメソッドの確立が必要でそれには長い時間がかかるが、女性だけの劇団ということもあり、それが可能かどうかが今後の課題となっていきそうだ。
 生演奏の音楽はレベルが高いが、せっかく音楽を生演奏でやっているのに音楽として演奏のレベルにパフォーマーの歌唱が追いついてない感があるのも惜しまれた。時間はかかったとしてもこれも自分たちですべて水準以上のレベルでできるように訓練するか、歌の部分を専門の人を探してきて担当させるか。いずれにせよいまの状態はまだ素人っぽく見えてしまう原因となってしまっているかもしれない。
 いずれにせよ、次の公演も見たいと思う。 

『これは演劇ではない』座談会(ゲスト:長島確さん)@森下スタジオ

『これは演劇ではない』座談会(ゲスト:長島確さん)@森下スタジオ


トーク
12/17月 19:30
『これは演劇ではない』座談会(綾門優季、カゲヤマ気象台、額田大志、松村翔子、村社祐太朗、山縣太一)



トークゲスト:長島確

フェスティバル/トーキョー ディレクター。日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、さまざまな演出家や振付家の作品に参加。近年は演劇の発想やノウハウを劇場外に持ち出すことに興味をもち、アートプロジェクトにも積極的に関わる。フェスティバル外での最近の参加作品に『コジ・ファン・トゥッテ』(ニッセイオペラ2018、広上淳一指揮・菅尾友演出)、『マザー・マザー・マザー』(「CIRCULATION KYOTO」、中野成樹+フランケンズ)など。著書に『アトレウス家の建て方』、『つくりかた研究所の問題集』(共著)、『〈現代演劇〉のレッスン』(共著)、訳書に『いざ最悪の方へ』、『新訳ベケット戯曲全集』(監修・共訳)など。

劇団こふく劇場「ただいま」@駒場東大前こまばアゴラ劇場

劇団こふく劇場「ただいま」@駒場東大前こまばアゴラ劇場

作・演出:永山智行

姉の夫はひとり暮らし。
そんな義兄のすすめで、30歳を前に独り身のあさ子は、お見合いをすることになった……
――豆腐職人の男、文具店に勤める女、主婦、仕事を探す女、
そんな市井の人々の、かけがえない日々の物語。

*******

2015年、宮崎県都城市に拠点を置く劇団こふく劇場は25周年を迎えました。折しも戦後70年の年。
決して安穏と25年を過ごしてきたわけではありませんが、この25年の間に、何が失われ、何が生まれたのか、わたしたちは、ほんとうにしあわせになったのか、九州の片隅でそんなことを考えながら生まれたのがこの作品「ただいま」です。

―――あれから2年。けれど、「地方」に暮らすわたしたちにとって、2年前の問いは、さらに切実なものとして、ここにあります。
だからわたしたちはまた旅をすることにしました。


1990年宮崎県都城市で結成。以降活動を全国へと広げる一方、宮崎県内の二つの町(門川町・三股町)の文化会館のフランチャイズカンパニーとして、ワークショップ、小学校巡回公演、町民参加作品の創作や演劇フェスティバルの企画などを担っている。また、2007年からは障害者も一俳優として参加する作品づくり(みやざき◎まあるい劇場)をはじめ、質の高さ、活動の社会的な広がり、その両面から高く評価されている。

撮影 税田輝彦
出演

あべゆう かみもと千春 濵砂崇浩 大迫紗佑里 中村幸(劇団ヒロシ軍)
スタッフ

音楽:かみもと千春
照明:工藤真一(ユニークブレーン) 
音響:出井稔師
舞台美術:満木夢奈(ユニークブレーン) 
衣裳:あべゆう
チラシデザイン:田村さえ(灯台とスプーン)
題字:中前俊星
制作:大迫紗佑里・髙橋知美(Qs Link)

 劇団の代表作なのだろう。見ている途中ですぐに以前この同じ劇場(こまばアゴラ劇場)で見ていたことに気がついた。山田太一であるとか、ひと時代前の古きよき日本映画にも通じるような作風。作品の背後に流れる戦争体験の影。舞台の完成度は高いし、こういう舞台を高く評価する観客層がいることは十分に理解できる。
 ただ、私には現代演劇として刺激を受ける部分はなく退屈に感じてしまった。以前から思っていることなのだが、私は普通に演劇として受容されているようなものは出来のよし悪しに関わらず苦手なのかもしれない。さらに言えばこの舞台は描かれていることの内容の今ここからの乖離を感じてしまったからかもしれない。私には人間感があまりに昔風すぎるということもあるかもしれない。

青年団若手自主企画vol.76 穐山企画「氷の中のミント」@アトリエ春風舎

青年団若手自主企画vol.76 穐山企画「氷の中のミント」@アトリエ春風舎

作・演出:アキヤマナミ


これは、わがままなワタシの爽快物語?それとも、淡白なワタシの後悔物語?

25歳になってアラサーを意識した。
26歳になって今の自分を振り返った。
27歳になって結婚を考えた。
前の自分と今の自分を比べたら、ちょっと新しい自分がいた。

同じ時間、思考の中で、もう一人の自分が、叫んでる。
嫌なにおいがする。ような気がする。
ワタシの体から、ワタシの見えない気持ちから嫌なにおいがしてる。

アキヤマ ナミ(脚本家・演出家)

1992年生まれ、香川県出身。青年団演出部、ハイバイ作家部に所属。四国学院大学身体表現と舞台劇術マネジメント・メジャー(通称:演劇コース)2期生、2014年度卒業。

在学中、演劇ユニット「となりの芝生」にて活動を開始。香川県坂出市の「旧藤田外科アートプロジェクト」に参加したことをきっかけに、愛媛県内での活動も行う。東京公演は2017年1月に公演した『青春、さよなら、母さん、フリー/最低・観察時間』が、初となる。代表作は学生時代にわれわれのモロモロで書いた『最低・観察時間』。自身の経験を主軸とし、シュールかつ、気の抜けたテンションで、体験談を観察していく。今回、東京では2回目の公演となる。




2014年『春樹の部屋』



出演

岩井由紀子(青年団/グループ・野原) 坂倉花奈(青年団) 中藤奨(青年団) 佐藤岳(無隣館) 北村汐里

声出演:藤瀬典子(青年団

スタッフ

舞台監督:海津忠(青年団) 舞台美術監修:濱崎賢二(青年団) 演出助手:安田晃平  照明:高木里桜  
音響:櫻内憧海(無隣館) 宣伝美術写真・イラスト:げんばほのか  制作:太田久美子(青年団
総合プロデューサー:平田オリザ  技術協力:大池容子(アゴラ企画)  制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

日時

2018年12月13日[木] - 12月16日[日]


12月13日 木 19:30★
14日 金 19:30
15日 土 14:00★ 18:00
16日 日 11:00★ 15:00

受付開始=開演の30分前・開場=開演の20分前
上演時間が変更になりました。
約90分→約80分

「第8回 AKB48紅白対抗歌合戦」ライブ・ビューイング@イオンシネマ多摩センター

「第8回 AKB48紅白対抗歌合戦」ライブ・ビューイングイオンシネマ多摩センター

 演出のきくちPとAKB48グループの運営側(特に秋元氏)にどのようなやり取りがあって今回のような着地点になったのか?それが知りたくなるような内容であった。それほど同じきくち演出ながら昨年のAKB紅白とは様変わりした内容であった。とはいえ、今年も全曲を生演奏、生歌唱で披露というのは譲ることなく堅持されており、ここがこの人の最終防衛線というか、1丁目1番地なんだというのがよく分かった。
今回披露された楽曲はほぼすべてAKB48グループの楽曲で前年のようなモーニング娘。やスタダ、Negiccoなどの他グループからのアイドルの参加や通常楽曲を歌うようなコラボ企画も一切なかった。ライバル関係にあるアイドルはともかく、ゲストがまったくなかったのは昨年激しい拒絶反応がAKBファンのみではなく、モー娘。やスタダのファンからもあったことを配慮した可能性もなくはないが、ここまで「何もない」というのはAKB(つまり秋元氏)から「AKBでやって欲しい」という意向があったのかもと推測せざるえない部分もある。もっとも昨年はきくちPとしても最近のAKBのことをあまり知らないという事情もあり、リサーチはしたもののGFやフォーク村の「いつもの」フォーマットを活用してああいう風に作らざるをえなかった部分もあった。今年はあえて運営側の要求に受けてたったうえで、唯々諾々と従うというよりは十分な準備のもとに「そういうことならこういう風にも作れますよ」というアピールだったのではないかと思う。
 秋元陣営がきくちPをももクロから奪っていこうとしているというようなうがった見方をする向きがモノノフの一部にあるようだが、おそらくきくちPは以前からAKBにもスタダにもハロプロにも全方位外交だし、やはりFNSでの口パク批判でぎぐしゃぐがあったとの噂もあるし、今年に関しては全曲を生演奏、生歌唱で披露という条件を相手がのめば譲れるところは譲るということだったのじゃないかと思う。
 むしろ、秋元氏側の側でもスタジアム級の会場でのライブでパフォーマンスのクオリティでももクロに完敗したことを認めざるをえなかったからではないか。メンバーの歌唱力の向上ということの重要性というのを感じざるえない局面が生まれてきていて、きくちPへの接近もそれを痛感せざるえないからではないかとも思っている。
 その意味ではフォーク村じゃなくて「ガチンコスターダストプラネット」のAKB版をどこかで始める可能性はあるだろうとも思っている。グループ内での歌うま決定戦のようなことを最近始めたが、これは「ガチンコ」のような育成企画と組み合わせてこそより効果が上がると思うからだ。
 全員グループ内とは言っていたものの実はガチンコ☆だけは出てくる可能性はあるんじゃないかと思って待っていたのだけれど、結局それもなかった。ところが、最後にじゃんけん選抜の上位3グループの楽曲披露のところで1位は優勝のごほうびのオリジナル楽曲を披露とのコメントの後、ほかの2グループのうちの1つは今回のライブでは唯一のカバー曲をやるといって歌われたのがなんとガチンコ☆の楽曲「もっと、きっと。」、しかもLVでは「作詞坂本愛玲菜 」のテロップが流れるなかでの坂本自身によるパフォーマンスだった。ここに私はきくちPの意地を見た。

The end of company ジエン社 『ボードゲームと種の起源』@アーツ千代田3331 B104

The end of company ジエン社ボードゲーム種の起源』@アーツ千代田3331 B104

脚本・演出 山本健介


キャスト 高橋ルネ 寺内淳志 名古屋愛(無隣館) 沈ゆうこ(日本のラジオ)


あらすじ


ボードゲームも妊娠も実際に会って、しないと、できない。
ボードゲームを作ることは、「法」を作る行為と似ている。
デジタルゲームのプログラミングと異なり、アナログゲームのルールの裁定は人が担う。だから、ゲームのルールは絶対なものに成りえない。ゲームのルールは――法は、人が運用することが前提でないといけない。だから、その法は運用しやすいものでないといけない。しかも、法を犯しても罰を与える力がない以上、法に従う事が魅力的なものとならなければならない。思わず従ってみたくなるような法。自分を縛ってみたくなるような法とは、どういった法なのか。

ボードゲーム作家という、親や地元の友達に説明しにくい仕事をしている僕は、一人で黙々と新しい「法」を作るため、ただ部屋に居た。『螺旋城』と名付けようとしているボードゲームの基本的な法は「盤面の側面を一周する」「お互いに相手の次に進もうとしている数を読み合い、的中したら相手の前進を阻止できる」「相手より先に目的のマス目に入るか、相手を殺すことに成功したものが勝利」といったものだ。

「殺すの?」
「うん。相手と同じマスに入ったら、先に居た相手は死ぬ」。

彼女にそういうと、彼女は長い髪をだらりとたらしながら起き上がる。

バックギャモンとまわり将棋をベースに、運要素の少ないゲームにしたくて」
「あなたはツキがないものね」
「妖怪イチ足りない、に取りつかれているから」



 


ダイスを使うゲームは苦手だ。
ダイスを使うなら、究極すべてのゲームはくじ引きでよくなってしまうんじゃないか、と思う。

「重いゲームはもう作らないの?」

重いゲームとは、ルールと準備が複雑で、プレイ時間が長くかかるものを指す。

「やってくれる人が少ないから」

彼女は重いゲームに付き合ってくれる数少ない僕のゲーム仲間だ。

「あなたの作るゲームは、説明されるとすごく複雑に見えるけど、やってみるとびっくりするくらい優しくて、だけど意地悪。相手を妨害する手段や、ルールを知ってない人を陥れるハメ技ばかり」

重くなった彼女の体を、彼女は自分ひとりで支えて、どこかへ行こうとする。体は、運要素はなるべく少なくあるべきだ、と思う。そうでなければ、あまりに不条理で、不公平なのではないか。
その一方で、運要素が少なくなればなるほど、ゲームに参加できる間口は狭くなる。妊娠という事実は、運に左右されるものであっていいのか。重い体を女性だけに支えさせていいのか。補助要素を考慮すべきではないのか。法は、その律を犯した時、責任の取り方として罰以外の何かはないのか。僕は罰せられるべきものなのか。どうして彼女は、このゲームを降りないのか。ゲームは誰でも参加できるものでないといけないんじゃないか。彼女は誰とでも寝る女じゃないのか。

それとも、あらゆるものをゲーム、と考えてしまう僕のアナログは、すでに何かに縛られていて、次の一手、運以外で勝利条件にたどり着くには、法を曲げるしかないんじゃないか。

 作中ボードゲームの内容が作中人物と二重重ねになっていくような構造となっているところが面白い。ただ、ゲームについて言えば物語内で細かくルールを知らされても、実際にそのゲームをプレイしてみないとどのようなゲームであるのか実感を持って理解するのは難しい。ゲームの経験の多い少ないはかなり関係すると思われるけれど少なくとも私には物語内でプレイされているゲームについてそれが、どういうものなのかなかなかピンとはこないもどかしさがあった。 

 この舞台あるいは作品と直接の関係はないが、ここからはあるゲームについて語ろうと思う。私のゲーム観というのがそれに大きく影響を受けているからだ。そのゲームとは「犯人当て」というもので、はるか昔のことになるが、京都大学に6年間在学していたいまより40年近く前に京都大学ミステリ研究会の仲間とそれに興じていた。
 これは簡単に説明すると問題編という小説のようなものを出題者が書いてきて、それを読み上げ、残りのメンバーはそれを聞いて「挑戦状」という形式で問われた問題についての回答をそれぞれ提出し、正否を争うというものだった。特に私たちの時代には回答する側は相談ありだったので出題者にとってはきわめて厳しい状況で、この圧倒的に出題側が不利な状況で解答者に対して勝利をおさめるためにありとあらゆるアイデアが試みられた。その中の有効な方法論のひとつにいわゆる叙述トリックと分類されるものがあり、京大ミステリ研出身の作家の作品にその類のものが多いのは実はそれが原因ともいえる。
 このように説明すれば「犯人あて」なら分かるよと考える人がいるかもしれない。ところがおそらく、私たちのやっていた「犯人あて」というゲームと普通に「犯人あて」と思われているものは実はまったく異なるゲームだったのだ。
 京大ミステリ研の初期に書かれた犯人当てでその後の犯人当ての方向性を決定的なものとしたトリックに挑戦状トリックというのがある。犯人当てではよく「読者への挑戦状」というのが用意されている。これは通常のミステリ小説でもフェアプレイを旨とするものには使われることが多く、エラリー・クイーンが国名シリーズで用いた形式が有名だ。 
 これは便利なものでもあって、「犯行は単独犯によるものとする」などの注釈をここに入れることで推理の中で本来は煩雑であるはずの可能性の絞りこみを一気に単純化することができる。

青年団若手自主企画vol.76 穐山企画「氷の中のミント」@アトリエ春風舎

青年団若手自主企画vol.76 穐山企画「氷の中のミント」@アトリエ春風舎

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作・演出:アキヤマナミ


これは、わがままなワタシの爽快物語?それとも、淡白なワタシの後悔物語?

25歳になってアラサーを意識した。
26歳になって今の自分を振り返った。
27歳になって結婚を考えた。
前の自分と今の自分を比べたら、ちょっと新しい自分がいた。

同じ時間、思考の中で、もう一人の自分が、叫んでる。
嫌なにおいがする。ような気がする。
ワタシの体から、ワタシの見えない気持ちから嫌なにおいがしてる。


アキヤマ ナミ(脚本家・演出家)

1992年生まれ、香川県出身。青年団演出部、ハイバイ作家部に所属。四国学院大学身体表現と舞台劇術マネジメント・メジャー(通称:演劇コース)2期生、2014年度卒業。

在学中、演劇ユニット「となりの芝生」にて活動を開始。香川県坂出市の「旧藤田外科アートプロジェクト」に参加したことをきっかけに、愛媛県内での活動も行う。東京公演は2017年1月に公演した『青春、さよなら、母さん、フリー/最低・観察時間』が、初となる。代表作は学生時代にわれわれのモロモロで書いた『最低・観察時間』。自身の経験を主軸とし、シュールかつ、気の抜けたテンションで、体験談を観察していく。今回、東京では2回目の公演となる。


出演

岩井由紀子(青年団/グループ・野原) 坂倉花奈(青年団) 中藤奨(青年団) 佐藤岳(無隣館) 北村汐里

声出演:藤瀬典子(青年団

スタッフ

舞台監督:海津忠(青年団) 舞台美術監修:濱崎賢二(青年団) 演出助手:安田晃平  照明:高木里桜  
音響:櫻内憧海(無隣館) 宣伝美術写真・イラスト:げんばほのか  制作:太田久美子(青年団
総合プロデューサー:平田オリザ  技術協力:大池容子(アゴラ企画)  制作協力:木元太郎(アゴラ企画)

日時

2018年12月13日[木] - 12月16日[日]


12月13日 木 19:30★
14日 金 19:30
15日 土 14:00★ 18:00
16日 日 11:00★ 15:00

受付開始=開演の30分前・開場=開演の20分前
上演時間が変更になりました。
約90分→約80分

 登場人物の心の声が駄々漏れのつくりがいかにもtwitter以降の世代を感じさせた。モノローグ的とも言われるポストゼロ年代らしい作劇だといえそうだ。アキヤマナミの作品を見るのは前回の無隣館若手公演『青春、さよなら、母さん、フリー/最低・観察時間』以来だが、以前はもう少し普通のスタイルの演劇だった気がするので、青年団演出部の若手演劇人同士のせめぎあいの中から生まれてきた手法といってもいいのかもしれない。
 舞台「幕が上がる」のゼロ場に出ていた時から注目していた坂倉花奈(青年団)が今回の主演だが彼女がとてもいい。カラダに故障があってあまり舞台に出られない時期もあったようで、青年団の公演などからは遠ざかったいるようだが、キュイなどでは魅力的な役柄を演じていたし、今回もいい。この世代は青年団内にもライバルが多く、ぬきんでるのは難しいところだが、坂倉花奈はいいともう一度声を大にして言いたいところだ。