下北沢通信

中西理の下北沢通信

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鮭スペアレ『マクベス』@北千住BuOY

鮭スペアレ『マクベス』@北千住BuOY

マクベスは、夢中で遊んではぐれてしまった! もうどこにも居場所はない。コンテンポラリー能「ハムレット」から 1 年。シェイクスピア四大悲劇のひとつ「マクべス」を、ジャンルを横断する楽器の生演奏でオリジナルの音楽劇として上演。大人数の登場人物を、少数の女優が強い身体と幅広い音声で演じわける。「ジェンダー」からも「演劇らしさ」からも解き放たれた鮭スペアレが、今度は「マクべス」で遊ぶ。ご高覧あれ!



作・ウィリアム・シェイクスピア
訳・坪内逍遥
構成・演出/中込遊里 音楽/五十部裕明
出演 清水いつ鹿 上埜すみれ 宮川麻理子 中込遊里 喜田ゆかり
箕浦妃紗 青田夏海 若尾颯太 相沢葵(Theatre Ort、横浜公演)


鮭スペアレ
団体名の由来は、劇作家シェイクスピアShakespeare)をローマ字で読み、旗揚げ二人のイニシャルになぞらえてhをyと置き換えたもの。2005年からカフェやアトリエなどで公演を重ねる。2010年より日本語を発語することから発想する生演奏の音楽劇を上演。ジャンルを問わないミュージシャンによる生演奏・力強さと柔らかさを兼ね備えた何ものにもならないニュートラルな身体と音声で、「コンテンポラリー能」とも言われる独特の世界観を築く。2016年よりたちかわ創造舎(東京都立川市)を拠点とし、多摩地域と世界をつなぐ演劇集団を目指す。

 鮭スペアレはシェイクスピアを上演する女性だけの劇団。これまでも女性劇団であった「青い鳥」がオール女性キャストで「ハムレット」を上演したり、ロマンチカによる「夏の夜の夢」上演などは見たことがあるし、最近でも柿喰う客による女体シェイクスピアやいるかHotel(谷省吾演出)などオール女性キャストのシェイクスピア上演はある。とはいえ、演出も女性が手掛け、集団としてシェイクスピア上演を連続して手掛けている例は珍しいかもしれない。以前はオリジナル作品を上演していたが、2014年の「ロミオとヂュリエット」からシェイクスピア上演を手掛け、「マクベス」は「ハムレット」(2017~18年)に続き3作品目となる。
 演奏家が劇中音楽を生演奏するのが特徴で編成は作品ごとに異なるが今回はハープ、馬頭琴、尺八、バイオリン、ベースという構成。女性劇団ではあるが、実は今回もキャストは全員が女性というわけではない。ただ今回は主要なキャストは男性役も女性が演じた。新訳が多く出ていることもあり、最近は文語体に近い坪内逍遥訳は滅多に使われることはないが、これまでの3作品ではテキストとしてあえてそれを使用して、セリフのフレージングも特に主役のマクベス役などはなかなか朗々として口跡であり、「語りの演劇」の系譜を感じさせた。演出の中込遊里に聞いてみたところ直接習ったり師事したりしたことはないものの「SCOTの鈴木忠志やSPACの宮城聡に影響を受けている」(中込遊里)ということらしい。
 主役であるマクベスを演じた清水いつ鹿がよかった。坪内逍遥版「マクベス」のセリフ回し(フレージング)は容易ではないが、巧みにこなし特に最後の独白による長台詞はみごとで観劇後にも余韻が残るものだった。ただ、これと拮抗するレベルの俳優が現状では他に見当たらず、特に今回は初めて出演した俳優もおり、演技の質にバラつきが目立つのも確かだ。「語りの演劇」を集団として立ち上げていくには継続的な訓練による独自のメソッドの確立が必要でそれには長い時間がかかるが、女性だけの劇団ということもあり、それが可能かどうかが今後の課題となっていきそうだ。
 生演奏の音楽はレベルが高いが、せっかく音楽を生演奏でやっているのに音楽として演奏のレベルにパフォーマーの歌唱が追いついてない感があるのも惜しまれた。時間はかかったとしてもこれも自分たちですべて水準以上のレベルでできるように訓練するか、歌の部分を専門の人を探してきて担当させるか。いずれにせよいまの状態はまだ素人っぽく見えてしまう原因となってしまっているかもしれない。
 いずれにせよ、次の公演も見たいと思う。