下北沢通信

中西理の下北沢通信

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声を遊ぶもくろみ『鮭スペアレ版・リチャード三世』試演会(国際舞台芸術ミーティングin横浜2021 TPAMフリンジ参加作品)

声を遊ぶもくろみ『鮭スペアレ版・リチャード三世』試演会(国際舞台芸術ミーティングin横浜2021 TPAMフリンジ参加作品)


鮭スペアレ版・リチャード三世 声を遊ぶもくろみ試演会
 鮭スペアレはシェイクスピアを上演する女性だけの劇団。2018年12月に初めて公演を見て*1以来、毎年その舞台を見てきた。最近の若手劇団としては珍しく、自分たち独自のスタイルでの「語りの演劇」の確立を目標としているようで、直接習ったり師事したりしたことはないものの「SCOTの鈴木忠志やSPACの宮城聡に影響を受けている」(中込遊里)という主宰の言葉から注目はしてきたが、最初に見たときには「語りの技術」自体が集団としては未成熟なのは歴然として、そうした意欲は買いたいけれど、はたして実現までの長い道のりを集団の維持が可能なのかどうかとの疑問も感じざるを得なかった。
 昨年見た「リア王」で能舞台での上演を試みたところで、能の語りを上演の形式に取り入れることを試み始めたようだったが、昨年の段階*2ではまだこれからと感じたのも確かであった。今回は再び能舞台で上演する本公演(4/17~18・銕仙会能楽研修所)に向けての試演会的な性格の公演だったようだが、予想した以上に語りの部分については能の様式をうまく取り入れていて以前は感じていた稚拙さはなくなって熟成されていることに驚いた。
 ただ、上演全体としてはまだ大きな課題を抱えているとも同時に感じた。今回の「リチャード三世」の公演はちょうどSPACの宮城聡の演出を想起させるかのように「語り=ウタイ」と「動き=マイ」を担当するパフォーマーが分かれているのだが、先ほど述べたように語りの部分の完成度がかなり上がっているのに対して、マイの部分にはそうした練度がまだまだ感じられないのだ。今回の公演に向けてはまず語りの部分の完成が先行されていて、動きの方はまだまだ練習不足というような事情ももしかしたらあるのかもしれないが、語りが「こういう方向性のスタイル」(つまり、能の謡をなぞる)がかなり明確になってきているのに対して、動きについての方法論がまだまだ不確定に見えてしまう。
印象から言えばかなり動きすぎているために語りとの調和があまりよくない印象があるのだ。この部分は明確に課題ではあるが、パフォーマーの力量は毎年上がっており、以前は「あれもこれも課題といえば課題」だったのが、今後取り組んでいくべき方向性がはっきりしてきたのは格段の進歩だと思う。とはいえ、これは能ではないから動きを能のようなものにすればいいというものではないと思うし、ここは女性が演じることの意味が出やすい部分なのでそれほど簡単なことではないはずだ。いずれにせよ、ぜひ4月の公演は見てみたい。



作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
構成:宮川麻理子 演出:中込遊里

2021年2月14日(日)開演15:00​ 上演時間30分 
CHABOHIBA HALL 
東京都立川市幸町4-17-1

第一幕第一場 リチャードがおのれの境遇を語り、芝居を仕組む段
ACTⅠ SCENEⅠ Richard talks his circumstances and plots the play.
ウタイ:中込遊里  マイ:上埜すみれ・宮﨑悠理・箕浦妃紗・水上亜弓・清水いつ鹿




第一幕第二場 リチャードが、その父と夫を殺した寡婦であるところのアンを口説き落とす段
ACTⅠ SCENEⅡ Richard skillfully persuades Lady Anne whose father-in-law and husband were killed by Richard.
リチャードウタイ:水上亜弓 アンウタイ:宮﨑悠理 ウタイ:上埜すみれ・清水いつ鹿  マイ:箕浦妃紗




第一幕第三場 リチャードが妃エリザベスらに悪態をつき、先の王妃マーガレットが呪いの言葉を吐く段
ACTⅠ SCENEⅢ Richard abuses Queen Elizabeth and her followers, and ex-Queen Margaret utters a curse against them.
リチャードウタイ:上埜すみれ マーガレットウタイ:清水いつ鹿 リチャードマイ:宮﨑悠理 マーガレットマイ:水上亜弓 ウタイ:箕浦妃紗




第一幕第四場 リチャードが、殺し屋を差し向けて兄のクラレンスを殺す段
ACTⅠ SCENEⅣ Richard sends murders to kill his brother Clarence.
クラレンス:上埜すみれ・宮﨑悠理・箕浦妃紗・水上亜弓・清水いつ鹿  人殺し係甲:宮川麻理子 人殺し係乙:中込遊里








【ご挨拶】         
声を遊ぶもくろみ「鮭スペアレ版・リチャード三世」試演会にご来場いただき誠にありがとうございます。

「言葉」が運命を動かすと一般に信じられている時代がありました。15世紀ヨーロッパが舞台である、グロースター公・リチャード三世の悲劇も「呪いの言葉」から始まります。「鮭スペアレ版・リチャード三世」では「言葉/言霊」に着目し、「言霊が宿った俳優たちがリチャード三世の悲劇を物語る」という形式を用いることで、言葉の持つ力を探ります。

また、クリエイティブな感染症対策として、「一つの役を複数人が演じる=稽古や公演時やむ負えず欠席者が出た時の上演中止のリスクを減らす」「短い場を集めて構成する」「録音での演奏」という演出に挑戦しました。演目の名シーンを抜粋して上演する歌舞伎の「見取り狂言」に着想を得て、「リチャード三世」の種々のシーンを構成しています。一場ごとに別の趣として味わっていただければ幸いです。

本日は、本公演(4/17~18・銕仙会能楽研修所)のプレ公演です。本公演で上演される場のうち4割ほどの場を上演します。試作段階ですが、どうかご忌憚のないご感想をいただけると幸いです。また、戯曲全体を味わっていただくために、「リチャード三世」坪内逍遥訳の全文朗読、劇団員による創作裏話を無料アプリで配信中です。併せてお楽しみください。
中込遊里




【出演】
清水いつ鹿、上埜すみれ、水上亜弓、宮川麻理子、中込遊里(以上鮭スペアレ)
宮﨑悠理、箕浦妃紗
楽器演奏:五十部裕明(パーカッションほか)、中條日菜子(バイオリン)、酒井将義(尺八)




【スタッフ】
作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
演出:中込遊里 ドラマトゥルク・構成:宮川麻理子 音楽監修・音響:五十部裕明
能楽指導:一瀬唯 演出助手:時田光洋 衣装:田中麻里 広報:上埜すみれ・葵 
動画撮影および配信:山縣昌雄・岩倉具輝・山縣幸雄・伊藤就 写真撮影:bozzo 制作:片ひとみ