下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ポかリン記憶舎 朗読劇『戀文 koibumi 』~明恵と鷹島の石~@世界遺産・栂尾山 高山寺 書院@Youtube

ポかリン記憶舎 朗読劇『戀文 koibumi 』~明恵鷹島の石~@世界遺産・栂尾山 高山寺 書院@Youtube


朗読劇『戀文 koibumi 』~明恵と鷹島の石~@世界遺産・栂尾山 高山寺 書院
 ポかリン記憶舎 朗読劇『戀文 koibumi 』~明恵鷹島の石~の作者、明神慈は私が「旬の10人を選べば」(2005年版)*1で当時新進気鋭と私が考えていた10人のうちの一人であった。以下がその時選んだ10人でその中には岡田利規三浦大輔、前田司郎ら後の岸田戯曲賞受賞者や土屋亮一や田辺茂範ら脚本家として成功した人もいる。そうした中で現時点の知名度では差があるかもしれないが、和装にこだわり、伝統芸能とは異なる和の身体性にこだわるその演劇作家としてのクリエイティビティーはオリジナリティーに溢れ、それらの作家たちに一歩も譲ることはないだろうと現在でも高く評価をしているのだ。

 岡田利規チェルフィッチュ)/三浦大輔ポツドール)/前田司郎(五反田団)/明神慈(ポかリン記憶舎)/土屋亮一(シベリア少女鉄道)/山中正哉(トリのマーク)/青木秀樹クロムモリブデン)/江本純子毛皮族)/田辺茂範(ロリータ男爵)/畑澤聖悟(弘前劇場

 明神は東京を拠点に活動してきたが、1年前に京都に移住し本拠を移した。コロナ禍のためもあって、映像配信の形式となったが、「戀文 koibumi 」は京都移転後の最初の作品であり、同じく東京から京都に活動拠点を移して活動している安部聡子(地点)、最近京都に越してきたという音楽家のトシバウロンが参加しているのが興味深い。
 最近は町田カナという女優と組んで『ミチカケ』*2という作品でやはり朗読形式の公演を試みていたが、考えてみれば今回出演した安部聡子も「畳屋の女たち」など東京時代には明神作品に幾度かの出演経験があり、そうしたことから今回こうした座組となったのではないかと思われた。
 『戀文 koibumi 』は鎌倉時代前期の華厳宗の僧、明恵を描いている。明神は大学時代に明恵のことを知り、いつか彼のことを作品にしたいと長年にわたり考えてきたらしく、京都移住の大きな目的もそれを実現することだったようだ。しかも、今回の上演は明恵ゆかりの寺である 栂尾山 高山寺書院での上演を収録したものであり、コロナ禍のため配信となってしまったが、そのことで逆にゆかりの寺の書院という理想的なロケーションが実現できたのかもしれない*3
 この作品から不思議な感覚を受けるのは全体が「鷹島の石」という上人が愛玩した石の一人称で描かれていること。さらに『戀文 koibumi 』という表題からもうかがわれるように石を女性に擬えて、その石から明恵に宛てられた恋文であるというスタイルで語られるのだ。演劇としてはかなり特異なスタイルであるが、実は前作『ミチカケ』が品川宿に暮らす猫の目で見たそこで暮らす女性たちのことを猫の一人称というスタイルで語る「語りの演劇」であり、生物、無生物の違いはあるが、語りのスタイルとしては前作の延長線上にあるものかもしれない。
 とはいえ、この形式の「語り」を成立させるためには「語り手」に並々ならぬ技量が要求されることも確かで、関西の女優でもそれが可能な人は限られるとも思われるなかで、明神演出の経験があり、演じ手としての力量にも文句がない安倍聡子でこれが見られたというのは本当によかったと思う。

鎌倉時代の高僧、明恵上人が愛玩した鷹島の石。
石が語り手となり、明恵の心の内や悟りの景色を鮮やかに描きます。秋の夜長に、安部聡子の囁きで〜恋文〜をお楽しみください。


ポかリン記憶舎 朗読劇『戀文~明恵鷹島の石~』

   私は何者でもありませんでした。
   あなたと出会うまでは。


上演時間:82分
O P :0:00~
一部:1:23~
二部:27:48~
三部:49:53~

★9月20日(日)14時から1ヶ月間、朗読劇を同チャンネルで無料配信します。

★上演台本販売中(仏教用語にふりがな付)。音読して『戀文』をお楽しみください。
 PDF:1000円 紙:1500円(郵送費込)
 申込:http://www.myojin-yasu.jp/?p=469

チャンネル登録よろしくお願いします。


************************

朗読:安部聡子 http://chiten.org/about
演奏:トシバウロン https://www.t-bodhran.com/


作・演出:明神 慈
撮影&編集:idehof http://gorey.jp/cafe/
手書き文字:Hiroe
OP音楽:木並和彦 https://cheerforart.jp/detail/5293
会場:栂尾山 高山寺 書院 https://kosanji.com/

★本事業は「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う京都市⽂化芸術活動緊急奨励⾦」の
採択事業です。

************************

ポかリン記憶舎・舎長 明神 慈 Myojin Yasu 
劇作家/演出家/着物所作指導師

1997年より ポかリン記憶舎で公演活動開始。
詩的言語で俳優の動きや声に余韻が残る濃密な時空づくりで、観客を覚醒空間へ誘う。
表現方法は演劇、朗読劇、音楽劇、フィジカルシアター、歌舞伎など多岐にわたる。
その評価は「見えざる背後世界の眼差しに貫かれた作品」「脱魂へと誘うパフォーマンス」「肉体を超越した形而上学的な視座から、彼岸と比岸に別れた人間たちの煩悩を浄化する」「魂のサーカス」と評されている。
海外公演や他団体への執筆、演出も多数。
国内外で公演や「ポかメソッド」ワークショップを展開。
キモノ時間「ソレカラ」を拠点に着物の着付けや所作指導を行う。
各所で「くのいちへの道」講座を開催。四国学院大学非常勤講師。
2019年9月より、活動拠点を東京から京都に移す。


明神サイト http://www.myojin-yasu.jp/
舞台写真 http://pocarine.blog17.fc2.com/
note「京都暮らしと庭いじり」https://note.com/aoni_yoshi/
YouTube
「鼻歌チャント部」https://www.youtube.com/channel/UCqME...
「京都のヨーコさん宅」https://www.youtube.com/channel/UChf3...


<受賞歴>1998年 『Pictures』(第20回文化庁舞台芸術創作奨励特別賞)
     2001年 『ピン・ポン』(第8回劇作家協会 新人戯曲賞優秀賞)


<近年の公演>
2010年3月、韓国演出家協会主催、ソウルのアルコ劇場で『ブレヒト-旅の軌跡-』を韓国人俳優と集団創作で上演
2011年11月、高知県立美術館主催、日韓合同公演『WæNDERING』を同ホールにて上演
2012年7月、瀬戸内国際芸術祭主催、小豆島・中山農村歌舞伎保存会と『傾き者、まかり通る』を上演
8月、えずこシアター15周年の創作音楽劇『ハンドルペダルサドルベル』原作担当
2013年2月、日韓演劇交流センター主催、シアタートラムにて韓国現代戯曲ドラマリーディングVOL.6『白い桜桃』演出
5月、ルートカルチャー主催、鎌倉の浄智寺にて二人芝居『花音-カノン-』を上演
(『花音』は2013~15年まで、伊勢、別府、滋賀、益子、鎌倉の各地で上演)
2014~2016年、しながわアーティスト展にて「品川の月三部作」を上演
2017年11月、東京と韓国二人芝居フェスティバルで『花音』上演
2018年10月、品川・清光寺で『ミチカケ』上演
2019年10月、品川歴史館で『ミチカケ』再々演
2020年9月、YouTubeで『戀文』~明恵鷹島の石~ 配信

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:当初は集客を前提としていたはずで、その場合にも同様の上演が可能だったのかははっきりしない。