私個人の2006年演劇ベストアクトを掲載することにしようと思う。(こちらもコメントは後ほど掲載の予定)。さて、皆さんの今年のベストアクトはどうだっただろうか。コメントなどを書いてもらえると嬉しいのだけれど。詳しい内容について知りたい人は注のところをクリックするとこのブログに掲載した関連レビューのページに行くことができるので、そちらの方も参照してほしい。
2006年演劇ベストアクト
1,維新派「ナツノトビラ」(梅田芸術劇場)*1 *2
2,五反田団「ふたりいる景色」*3「さようなら僕の小さな名声」(こまばアゴラ劇場)
3,ポかリン記憶舎「煙の行方」(須佐命舎)*4
4,ポツドール「夢の城」(シアターTOPS)*5
5,むっちりみえっぱり「明日からは粉がある」*6「表へどうぞ」*7(アトリエヘリコプター)
6,シベリア少女鉄道「残酷な神が支配する」(吉祥寺シアター・精華小劇場)*8
7,マレビトの会「アウトダフェ」(アイホール)*9
8,いるかHotel「月と牛の耳」(HEP HALL)*10
9,デス電所「夕景殺伐メロウ」(精華小劇場)*11
10,ロマンチカ「PORN」(スフィアメックス)
維新派については以前この集団は私にとっては特別な存在なので、ベストアクトに選ぶ時は相対比較ではなく、過去のこの集団の作品群との比較において選ぶかどうかを決め、選ぶ場合は別格の意味で必ず1位である、と書いたことがある。その意味で「ナツノトビラ」は維新派の舞台のなかでベストではないが、この集団の最近のスタイルの変容をビビッドに反映し、総合芸術として舞台美術、照明効果、音楽、身体表現など舞台のあらゆる要素においてレベルの高い水準を示した公演として1位に選ぶことにした。
このため、維新派は別格として2004年の岡田利規(チェルフィッチュ)、2005年の三浦大輔(ポツドール)がそうであったように通常の意味で2006年を代表する存在を選ぶとすると、五反田団の前田司郎ということになり。ともにベストアクトに値する「ふたりいる景色」「さようなら僕の小さな名声」の2作品によって、平田オリザの現代口語演劇の呪縛を逃れ、「妄想劇」という自らの方向性を明確に提示した。「妄想劇」ないし「幻想劇」の物語構造はいわゆる「セカイ系」的な表現との類縁性を示し2000年以降の若手作家の間でひとつの流れを形成しているかに思われるが、こうした作家を代表する存在が前田であることがこの2作品で明らかに示された。
演劇としてのスタイル自体は前田とはまったく対照的だが、関西を本拠とするデス電所の竹内祐もやはり「妄想劇」という劇構造で現代の病症を鋭く描き出すという意味では前田と共通の問題群を扱っている。デス電所の場合、これまでは表現のスタイルやモチーフにおいて、少年王者舘やクロムモリブデンなどの竹内が信奉する先行劇団との類縁性があまりに強く感じられ、オリジナリティーにおいて若干評価しかねる部分があったのだが、今年の新作「夕景殺伐メロウ」は音楽劇としての自分たちのスタイルの独自性を強固なものとして、「オタク演劇」としての独自の立ち位置も一層露わなものとなり、先行劇団との違いを明確にしたことで2007年以降の活躍ぶりを予感させた。
「幻想劇」の系譜ではこうした若手劇団に先行してすでに90年代後半から日本の伝統演劇である能楽を連想させるような劇構造で「異界との邂逅」を描き続けてきた明神慈(ポかリン記憶舎)の存在も忘れることができない。
和装を前提とした独自の身体論の追求においても明神の作劇はもっと注目されてもいいはずだが、それに加えて東京の劇団のよる共同地方公演を標榜したTOKYOSCAPEの一環として京都で上演された「煙の行方」はこれもやはり日本文化の伝統を受け継ぐ「見立て」の概念を援用して和装関連企業の展示空間劇場ではない須佐命舎という場所の持つ「場の力」を存分に活用した「場の演劇」でもあり、そこで時間を共有するということはきわめて刺激的な経験であった。
土屋亮一(シベリア少女鉄道)、三浦大輔(ポツドール)は今年もコンスタントな活躍。シベ少は関西初登場で精華小劇場に神が降臨した「残酷な神が支配する」(笑い)、ポツドールは新作「恋の渦」を見逃したのが痛恨だったが、岸田戯曲賞受賞後第一作というのに台詞らしい台詞がいっさいない「夢の城」を上演した三浦の確信犯ぶりに脱帽である。
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