下北沢通信

中西理の下北沢通信

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アメフラっシ「メタモルフォーズ」の楽曲分析記事

アメフラっシ「メタモルフォーズ」の楽曲分析記事

「偶像音楽 斯斯然然」というネット上の連載*1でアメフラっシの1stアルバムMETAMORPHOSE*2が紹介されている。いささか長くなるがその部分の文章を引用し、紹介したい。アイドル音楽についてのライターである筆者はまずアルバムの紹介を以下のように始める。記事中でも何組か取り上げたなかでのトップで紹介しているし、なかなか好意的な評価といえそうだ。

アメフラっシ 'メタモルフォーズ' Music Video

アメフラっシの1stアルバム『METAMORPHOSE』が面白い。EDMにデジロック、キラキラポップスがあればアコースティックなしっとりナンバーもあり、とバラエティに富んだ内容*3で、びっくりするほどハイクオリティな大傑作。

さて、次に続くのが表題曲である「メタモルフォーズ」の分析であるが、筆者は「心奪われたきっかけはリード曲『メタモルフォーズ』のMV。これぞEDM、という正攻法で非の打ちどころのない楽曲構成とトラック、そこに乗る美しいメロディをなぞる高潔感に溢れた真っ直ぐな歌声と凛とした佇まいに耳と目を奪われた」などとMVを紹介しながら「メタモルフォーズ」の楽曲としての音楽性の分析に具体的に踏み込んでいく。筆者はまずこの曲を「見事なまでにEDMのお手本中のお手本のような楽曲」としたうえでまずはEDMについて少々触れておきたいとEDMを解説する。それが次の部分だ。

アメフラっシ「メタモルフォーズ」に見るEDM入門
EDM(エレクトロニックダンスミュージック)とは、おもにDTM(デスクトップミュージック)*4で作られる、電子楽器を用いたダンスミュージックである。ちなみにシンセサイザーや電子ピアノは電子回路で音を作る“エレクトロニック(Electronic)=電子”楽器であるが、エレキギターやローズ、ウーリッツァーに代表されるピアノは、音を電気で増幅させている“エレクトリック(Electric)=電気”楽器である。

EDMの一般的な特徴を挙げると、2つある。
・ほぼすべてがシンセサウンド(スーパーソウ、パッド、プラックなど)で構築される
・サビがない(曲の盛り上がりは歌のない“ドロップ”と呼ばれるところ)

そして詳しく今度はMVを見ながら具体的に分析を進めていく。

「メタモルフォーズ」をEDM観点で紐解くと(タイムはYouTubeのMVから)、ひんやりとした歌い出し、2周目から音数が増え、0:48〜からは2拍4拍に入っていたフィンガースナップが、クラップに変わって1拍3拍の頭打ちになり、リズムがひっくり返る。ここはJ-POPでいうところのBメロにあたる部分であり、このままサビへ……いかないのがEDM。キメの“メタモルフォーズ”というキメ言葉から、プラック(Pluck)と呼ばれる、弦楽器をはじいたような余韻の少ないサウンドが主旋を引き継ぐように飛び交い、その後ろでは助走をつけるように“カカカカカ……”と打音が捲くし上げていく。これをビルドアップ(Buildup)という。

そして、1:17〜がドロップ(Drop)であり、楽曲が1番盛り上がるところだ。歌の代わりに主旋律を担っているシンセは、スーパーソウ(Super Saw)と呼ばれるサウンドである。これは“Saw=ノコギリ”刃のようなギザギザした複数の波形を同時に鳴らし、それぞれを微妙にずらして、音の広がりを与えるという手法である。基本的にシンセで作られるサウンドは生楽器と違い、整った波形をしているため、複数の波形をずらすことで不規則性を持たせ、それによって広がりや派手さを作っていくのだ。こうした音色を含めて、カッコいいスーパーソウを作ることがEDMにおける楽曲制作の大きなポイントである。

ほかにもダブステップなどでよく使われる、“ビヨーン”としたワブルベース(Wobble Bass)っぽい音色(2:48あたり)が使われていたり、シンセと聞いて誰もが思い浮かべる“ファー”と鳴る空間的な広がりのあるパッド(Pad)と呼ばれるサウンドは随所に散りばめられている。というのが、正攻法EDMというべき、この「メタモルフォーズ」である。

この説明は分かりやすく、ダンス重視の曲だからと単純に思っていたが、この解説のEDMの構造を考えると「メタモルフォーズ」にいわゆるさびがなく、最大の見せ場が歌がないダンス部分であるということがよく分かる気がした。
さらに筆者はアメフラっシというグループについては次のように分析している。

アメフラっシはEDM主体のグループというわけではなく、冒頭に述べたようにさまざまなタイプの曲がある。どの曲もクオリティが高く、何より歌がものすごく安定しているので、とっ散らかった印象がない。歌がウマいアイドルは珍しくないが、愛来を軸とした、クセもなく大袈裟なビブラートもない、真っ直ぐでよく通るボーカルは、意外といそうでいないスタイルであり、好感が持てる。アルバム自体は聴きどころだらけなのだが、あえてあげるのならインダストリアルからエレポップに浄化していくような「Rain Makers!!」*5と、無機質で変則的なエレクトロナンバー「ミクロコスモス・マクロコスモス」*6メビウスな美しさが印象的である。

 私は音楽の専門家ではないので何となく漠然と思っていたけれど、言語化できなかったことが丁寧に解説されている。いい解説記事だと思った。記事には引き続き他のアーティストの紹介もあり、最後の方にはTEAM SHACHIの新曲も取り上げられている興味を持った人は一読の価値ありだと思う。
 最後にアルバム「METAMORPHOSE」が実際に手元に届いて実物を見てクレジットなどから分かったこともあるので、付け加えておきたい。表題曲の「METAMORPHOSE」は作詞:MEG.ME、作曲・編曲:R・O・Hとなっていた。
調べてみると作曲・編曲のR・O・Hという人は「黒子のバスケ」「弱虫ペダル」「ラブライブ」などアニメ楽曲などを中心に楽曲提供をしている人のようだ*7ももクロ関連では「DNA狂詩曲 -ZZ ver.-」「何時だって挑戦者」(いずれも編曲)、佐々木彩夏「Bunny Gone Bad」の作曲・編曲に携わっている。
 一方、作詞のMEG.MEは私立恵比寿中学「ハイタテキ!」(作詞共作)のほかマジェスティックセブン「未知とのSo Good!」「Space Ship Go!」の作詞を担当しているからおそらくアメフラっシのことも分かっていて、それで(昆虫などの)変態=メタモルフォーズという主題から彼女らの思いに寄り添ってこのような歌詞が生まれてきたのではないかと思う。
 アルバム全体のクレジットとしてはExecutive Produserはスタダ総帥として藤下リョウジの名前がクレジットされているが、A&DDirectionは佐藤守道、Directerは石川雅貴のクレジットになっている。3Bjuniorから引き続いての楽曲制作に加え、最近はアメフラっシの現場マネージャー的な業務までこなしているように思われるのだが、少し気を揉んでいるのはメジャー契約するとなると音楽制作の面を全面的にレコード会社が担うことになりがちだが、佐藤がある程度そういう面にも関与できるような関係性が作れるレーベルがあるのかどうかということだ。
 佐藤は作家というわけではないので、フィロソフィーのダンスのようにメジャー契約でインディーズ時代を支えてきた作家陣が離脱するというようなことにはならないとは思うが、グループの方向性を誰がどういう基準で決めるのかというのはデリケートな問題ではないだろうか。*8
www.youtube.com

*1:popnroll.tv

*2:

メタモルフォーズ

メタモルフォーズ

  • アメフラっシ
  • J-Pop
  • ¥255

*3:バラエティに富んだというのがアメフラっシ楽曲の一番の特徴だと考えている。スターダストプラネットの各グループはつんく♂秋元康、中田 ヤスタカのようなプロデューサーを兼ねるような特定の作家がいないことが特色で、そのため音楽の振り幅が広いのが武器だと思っているのだが、表現の幅広さではアメフラっシは若手ではピカイチだと思う。

*4:最近の海外の代表的EDM曲 www.youtube.com

*5:

Rain Makers!!

Rain Makers!!

  • アメフラっシ
  • J-Pop
  • ¥255

*6:

ミクロコスモス・マクロコスモス

ミクロコスモス・マクロコスモス

  • アメフラっシ
  • J-Pop
  • ¥255

*7:アニメ楽曲に疎くて申し訳ない。

*8:フィロノスは公式見解ではメジャー契約と作家陣の変更は無関係ということになっている。