下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

いるかHotel 「月と牛の耳」

いるかHotel 「月と牛の耳」*1HEP HALL)を観劇。
 畑澤聖悟(渡辺源四郎商店)が弘前劇場時代の2001年に上演した代表作を谷省吾(いるかHotel/遊気舎)が演出。
 この物語の前半部分はこの特異なシチュエーションを活用してのかなりスラップスティック(ドタバタ喜劇的)なコメディとして展開する。畑澤聖悟の脚本はうまい。かなり異様なシチュエーションの会話劇であるのにもかかわらずちゃんと成立しているのは脚本の巧みさだと思う。脚本は共通語で書かれており、弘前劇場の上演では弘劇メソッドにより、それを弘前地方の方言を主体とした地域語で上演したが、今回は舞台を神戸に移し、元台本を極力生かしながら、関西方言により上演して、弘前劇場の上演とはまたひと味違うもうひとつの「月と牛の耳」が出来上がった。
 谷が最初にこの戯曲を読んだ時に主役の空手家、加賀谷敏役はこの人でと思った隈本晃俊(未来探偵社)は初演の弘前劇場、福士賢治と全然違う役作りながら、演出谷の期待にこたえて好演。だが、この芝居で一番印象に残ったのは娘の婚約者(実は夫)役で登場した加藤巨樹(劇団ひまわり)であった。初めて見る役者であったが、この舞台の真価がそこで問われるという難しい役柄ながら見事にこなし、これはいいと納得させられるものがあった。