下北沢通信

中西理の下北沢通信

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サラ・ウォーターズ「荊の城」上下

 サラ・ウォーターズ「荊の城」上下ISBN:4488254039創元推理文庫)を読了。
 「このミステリーがすごい!2005年版」で海外版1位だったので、さっそく買って読んでみた。
「半身」との比較でいえば、ミステリ度は低い気がするが、小説としてはこちらの方が圧倒的に読ませるし、単純に面白い。上下で文庫本としてはけっこうな分量があるのだけれど、読み始めると止まらなくなって、一気に読み通してしまった。ミステリ的な仕掛け*1もないわけではないのだが、どちらかというと、歴史ミステリ、時代ミステリというよりはディケンズサッカレー、ブロンテ姉妹などを連想させるような作風で擬古典風のピカレスク小説だと考えた方がいいかもしれない。まさに英国小説の王道をいくといってもいい。
 本物のそういう小説と比較すると若干、深みに欠けるきらいがないではないが、その代わりにその当時の小説ではちょっとありえない現代的な趣向*2も用意されていて、そのあたりも面白い。フランス小説ならでてきそうだが、だいぶ時代は下るけれどオスカー・ワイルドに同性愛的な匂いのするところはあるけれど、女性のというのはあっただろうか。いずれにせよ、E・M・フォースターの「モーリス」だって確か生前には出版されてなかったはずだから、たぶん、なかったろうと思う。

このミステリーがすごい!2005年版
国内編
1位 生首に聞いてみろ(法月綸太郎) ◎
2位 アヒルと鴨のコインロッカー伊坂幸太郎
3位 天城一の密室犯罪学教程(天城一
4位 THE WRONG GOOD BYE(矢作俊彦
5位 銀輪の覇者(斎藤純)
6位 硝子のハンマー(貴志祐介
7位 暗黒館の殺人綾辻行人)◎
8位 犯人に告ぐ(雫井 脩介)
9位 臨場(横山秀夫
10位 紅楼夢の殺人(芦辺拓
海外編
1位 荊の城 (サラ・ウォーターズ)◎
2位 魔術師 (ジェフリー・ディーヴァー
3位 ワイオミングの惨劇 (トレヴェニアン)
4位 ダ・ヴィンチ・コードダン・ブラウン
   ファイナル・カントリー (ジェイムズ・クラムリー
6位 誰でもない男の裁判 (A・H・Z・カー)
7位 ダーク・レディ (リチャード・ノース パタースン)
8位 蛇の形 (ミネット・ウォルターズ)◎
9位 犬は勘定に入れません・・・あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 (コニー・ウィリス
10位 奇術師 (クリストファー・プリースト

 

*1:途中、章が変わって叙述の主が変わるところであっと驚かされます

*2:「半身」も合わせて考えれば同性愛的描写などは趣向というよりはこの人の書きたい主題と考えた方がすっきりするかもしれない。19世紀的な世界のなかにこういう当時の文学であればタブーなのでもっとぼかして書いただろうというところを書き込んでいくのもこの人の小説の特徴