作・演出:大竹野正典 舞台監督:谷本誠 舞台美術:谷本誠
音響効果:大西博樹 照明:林鈴美 衣装・小道具:木村ゆう子
舞台写真:アマノ雅広 宣伝美術:高岡孝充 制作:後藤小寿枝、塚本修
出演
男 :秋月 雁
男の父 :戎屋海老
男の弟 :九谷 保元
妻と子をなくした男 :石川真士
中華料理屋の主 :森田太司
ホステスの夫 :栗山 勲
ホステス :藍田マリン
乳母車を押す女 :藍田マリン
買い物途中の女 :池上和美
日傘を探す女 :後藤小寿枝
くじら企画と大竹野正典とはほとんど純粋に作家とその観客という関係のみにほぼ限定されていたが、相当に古い付き合いでそういうこともあって今回のくじら企画「密会」の当日パンフレットに私とこの「密会」との出会いについて短い文章を書かせてもらった。実はそれは今回上演された再演版ではなく、93年上演の初演版について書いているので、内容には違いがあるのだが、せっかくなのでここにまずそれを再録しておくことにしたい。
「密会」と大竹野正典
犬の事ム所「密会」(93年、スペースゼロ)は衝撃的な舞台だった。犬の事ム所時代の大竹野正典の代表作といっていい。スペースゼロという小さな空間で上演されたため、観劇できる幸運に恵まれたのは少人数だったが、私はこの作品をその年のベストアクト第1位に選んだ。90年代の関西演劇を代表する好舞台のひとつであったと今でも考えている。「密会」は安部公房の同名小説が原作だ。もっとも小説の世界を素材としながら得意とする事件ものの趣向も取り入れた。東京深川通り魔殺人の川俣軍司を主人公とした異色作だった。上方小劇場の看板だった秋月雁が劇団退団後ひさびさに舞台復帰し鬼気せまる演技で川俣役を演じたのが鮮烈に記憶に残っている。
それ以上に唖然とさせられたのが、象徴的な存在として小説に登場する「馬」を、2人の俳優が演じる二人羽織で表現して場内を大爆笑の渦に巻き込んだ珍妙きわまる演出だ。「なぜそんなことをしないといけないのか」と考えてしまうと理解に苦しむところはなくもなかったが、そのハチャメチャな破天荒さがこの時代の犬の事ム所の魅力でもあった。先に挙げた秋月雁をはじめ戎屋海老、九谷保元ら関西を代表する奇優・怪優を揃え、彼らが舞台狭しと自由奔放に遊び回る。そしていつもその中心には大竹野自身がいた。その雄姿を劇場で見られないのは残念だが、かつての仲間が集まってくれて、もう一度この芝居が見られる。こんな贅沢なことはない。