下北沢通信

中西理の下北沢通信

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遊気舎「シャイア」

遊気舎「シャイア」HEP HALL)を観劇。

作・演出:久保田浩
舞台監督:永易健介 照明:池田哲朗 音響:Alain Nouveau 美術:池田ともゆき
装置:西浦財団 運送:ひがパラー!自転車送業 衣裳:IKUKO-KUDO
衣裳協力:田中千香子 小道具:1高工房 宣伝美術:水口美佳 イラスト:岩橋貞典
宣伝写真:垂見トモユキ 映像:DOTT Office 演出助手:斉藤明子 
制作:宮崎由美ほか 企画製作:遊気舎

 遊気舎の公演を見たのはずいぶんひさしぶりのことになる。前に見たのはいまはもう退団している魔人ハンターミツルギの作演出の遊気舎プロデュース「魔界はじめました」で調べてみるとこれが2003年11月のことだから、1年6カ月ぶりということになる。
 懐かしいシリーズキャラクターやひさびさの役者の顔を見て楽しませてもらった。ここは私が演劇の面白さにのめりこんでいくきつかけを作った劇団で、そういう点で個人的にも思い入れのある劇団でもある。だから、今回の公演を見ての率直な感想を書くべきかどうか、ずいぶん迷ったのだけれど、あえて、書くことにする。楽しませてもらったというのは決して嘘ではないのだが、その前提のもとでいえば個々の役者の面白さや得がたい個性はここの
魅力だが、残念ながらこの舞台からは以前の遊気舎の舞台には見られた真のクリエイティビティーは感じることができなかった。
 端的にいえば久保田浩が今回書いた作品から感じられたのは後藤ひろひとが作演出をしていた時代*1の形骸化された残像を見せられているような気分になって、残念でならなかったのである。
 後藤ひろひとの退団以来、座長の久保田浩が作演出したり、劇団員の魔人ハンターミツルギを起用したり、さらには石原正一を外部から作演出に招いたり、正直言って試行錯誤を続けていたのは確かで、現状を考えればどうしても魔人ハンターミツルギも退団によって失ったいま、この集団が舞台を上演するとなると座長の久保田が作演出を兼ねるというのは一番座りがいい形であるのだろうということは理解できるが、脚本自体の方向性に関する疑問もあるにはあるが、それ以上にそうした制約のもとではどうしても後藤ひろひと時代にあれほど奔放に躍動していた久保田の役者としての魅力が十分に発揮されていないという不満がこの舞台にはあった。
 さらに久保田の今回の作劇は西田政彦、谷省吾、魔瑠、うべんといった個性的な役者陣の魅力を引き出しているとも言いがたかった。シリーズキャラと便宜上書いたがそうでない役柄でもどう既見感があって、以前に後藤が作っていたキャラを薄めてなぞっているように感じられてしまったのだ。
 おそらく、これは意図的にそうしているわけではなくて、久保田もほかの俳優たちもそういう世界が好きなんだろうとも思う。ただ、以前この集団のことを役者の宝庫と書いたことがあったが、いろんな劇団に次々と客演して売れっ子の西田政彦をはじめ、客演などでもキラリと光ることの多いユニークな役者を複数抱えているだけに今の状態はなんとももどかしい。いっそ、解散するのをひとつの選択肢だとも思うが、それも残念なだけに以前、プロデュース公演でベトナムからの笑い声の脚本を谷省吾の演出で上演したようにいっそ役者集団であることに徹してみたらどうかと思ってしまった。

*1:この時代にこの日も登場したうべん演じる乳毛房江や谷省吾の偽ブルース・リー などのシリーズキャラが生まれた