下北沢通信

中西理の下北沢通信

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踊りに行くぜ!!in福岡

踊りに行くぜ!!in福岡(福岡イムズホール)を観劇。

主催:「踊りに行くぜ!!」福岡公演実行委員会
協力:財団法人福岡市文化芸術振興財団/福岡市/イムズ
桑野由起子(福岡)「|74/‖8| 」
■振付・出演:桑野由起子
三浦宏之(東京)「たびお」シリーズより「抜粋近作短編集」
■振付・出演:三浦宏之
花嵐(京都)「箱おんな」
■振付・出演:花嵐
■出演:古川遠、ニイユミコ、伴戸千雅子
 途中休憩
垣内美希(福岡)「のびるしくみ」
■振付・出演:垣内美希
ほうほう堂(東京)「北北東に進む方法」
■振付・出演:新鋪美佳、福留麻里

「踊りに行くぜ!!」はJCDNによるコンテンポラリーダンスの全国巡回公演である。今年で6回目の開催で、今回は10月から12月に、札幌、弘前、新潟、仙台、前橋、静岡、金沢、福井、長久手(愛知)、栗東(滋賀)、大阪、広島、松山、山口、福岡、佐世保、沖縄、そして06年2月に東京(「SPECIAL IN TOKYO」と銘打ち、本年度の話題作品を上演)の全18ヶ所で43組のアーティストが出演するという大規模なものとなった。
 この福岡はそのなかでも最初の開催地となるため、今年の「踊りに行くぜ!!」の全体を占う意味もあって、遠征してみることにした。
 「踊りに行くぜ!!」はJCDNの企画ではあるのだが、それぞれの開催場所によって運営の形態も異なり、それぞれの土地柄がうかがえるほか、今回の福岡のように以前にも行ったことのある会場に出掛けてみるとコンテンポラリーダンスがそれぞれの土地にどのように根付いているのかということをうかがい知ることができ、興味深い。福岡はこれが5回目の開催とあって、年に1度のこの公演はすっかり定着した感があるようで、福岡市の中心地にあるおしゃれなファッションビルのなかにある公演会場イムズホールは250人近いかなり大きなホールにもかかわらず満員の盛況ぶりだった。
 驚いたのは以前には財団法人福岡市文化芸術振興財団の主催公演で、官製の事業の感があったのが今年から主催が「踊りに行くぜ!!」福岡公演実行委員会に変わったこともあって、ダンスの関係者が皆でこの公演を盛り上げていこうという機運が会場のロビーのようすからもひしひしと感じられたことだ。びっくりしたのはスタッフが全員「踊りに行くぜ!!」FUKUOKAの揃いのTシャツを着ていて、これは会場でもグッズとして販売されていたのだが、こうしたグッズがJCDNではなくて、福岡の実行委員会が独自に企画したオリジナルグッズだったということだ。
 舞台で上演されたダンス公演そのものもなかなか充実した内容であった。出演したのは東京からの2組(三浦宏之、ほうほう堂)、関西からの1組(花嵐)、地元福岡の選考会で選出された2組(桑野由起子、垣内美希)。福岡では実は一昨年、昨年と2度にわたって、選考会も見ているのだが、今年選ばれた2人はその時には見ていなくて初めて見る新顔。今年は選考会は見ていないので詳しい内情は分からないのだが、今回選出された2人はいずれもコンテンポラリーダンスのソロ作品としては一定レベル以上の作品を仕上げてきており、楽しんで見ることができた。一昨年最初に見た選考会ではまだコンテンポラリーダンスというものがどういう枠組みで作られているダンスジャンルであるのかという基本的なところが押さえられていない作品が散見されたことを考えれば、福岡においては確実にこの分野のダンスの裾野が広がりを見せてきているということがうかがえた。
 ただ、惜しむらくは桑野由起子、垣内美希ともに既存のダンスとは違うムーブメントを作品のなかに取り入れようという意欲は感じられて、好感が持てる作品ではあったのだが、はっきりと一目瞭然で分かるようなオリジナリティーやインパクトにはやや欠けるきらいがあって、よくまとまった作品だが、小粒な印象もなくもない。特に桑野由起子はキャラクター的にもムーブメントにも面白いところがあり、今後化けそうな素材だと期待は持てるのだが、ダンスがボーカル入りの楽曲と同期しすぎるところがあり、それはあるところではムーブ感を呼んで共感できるところもあるにしても、どうも動きがところどころ歌詞・楽曲に引っ張られすぎて、その説明になってしまう瞬間があって、そこのところが惜しまれた。もう少し突き抜けていくようなところがあるとより面白いのだが……。
 実は福岡では東京や関西からダンサー・振付家を招聘してワークショップを通じて、作品創作を行うダンスジェネレートという企画をここ数年にわたって行っていて、それが確実に実を結びつつあることは感じられるのだが、そのことが逆にとんでもない変な作品が出てくるのを阻害することになるかもという危惧を若干感じさせたことも確かなのであった。
 要するに「第2の身体表現サークル求む」なわけだが、東京・関西でも若手のダンサー・振付家に突出した個性があまり出ていない現状を見てみればそれはそんなに簡単なことではないということだ。
 遠征組の3組のなかではよかったのはほうほう堂。「北北東に進路をとれ」は横浜ソロ&デュオで2度、トヨタアワードでも1度見た作品で、その時には若い女性デュオならではの可愛らしさに目がいってしまったのだが、今回見た舞台では「女の子」「少女」というイメージからは少し違うものになっていて、20代半ばの女性同士の等身大の関係性を感じさせるより微妙な、深みの感じられる表現へと成熟していることに気がついた。特に面白かったのは
途中で舞台の前の方に出てきて2人がお互いに耳打ちしあう場面があるのだが、以前見たときにはここは子供同士がよくやるような仕草を真似ているような印象があったのだが、今回はその時の新鋪美佳の表情に単に無邪気な少女というだけではない大人の女性の持つちょっとした悪意のようなものを感じさせられるところがあって、そのことで2人の関係性がちょっと以前に見た時とは違う風に見えてきたのが面白かった。
 花嵐の「箱女」は初めて見た作品だが、このカンパニーの持つ舞踏でありながら、どこかもの的にさえ感じられる、硬質(鉱物的)な身体フォルムのあり方に興味を引かれた。ただ、完成度という意味ではまだ道半ばと感じられるところもこの日の上演ではまだまだ散見されて、それだけにこれがこの後、大阪、新潟と巡演していく過程でどのように変貌していくのかに期待が膨らんだ。
 三浦宏之の舞台も以前横浜ソロ&デュオで見たものの再演だが、その時には最初の煙草をくわえて、その火を宇宙船のように見せていくというようなアイデア的なところや笑いの部分に目が向きがちでボクデスの延長線上にあるような表現に見えたのだが、この日の舞台では3つの場面のそれぞれでの演じわけやキャラクターの作りこみのきめ細かさに面白みを感じた。アフタートークでイッセイ尾形が好きなアーティストだと答えていたが、この人のダンスにはキャラクターを作り出して演じきるという意味ではひとり芝居のようなところがあって、本当の持ち味はそこにあるのだというのが分かった。